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ザックジャパン 新戦力が見つかりにくい理由。

杉山茂樹スポーツライター

4年周期で回る代表チーム。現在はその4分の3が経過した。

マラソンでいえば30キロを過ぎた地点。400mトラックでいえば、第4コーナーを回り最後の直線に向かおうとしているところだ。

クライマックスはこれから。いま問われているのは余力。内包する蓄え、エネルギーの残量だ。

コンフェデ杯で3連敗に終わっても、余力が十分あるのなら、ホームストレッチで躍進が期待できる。

どれほどまくれるか。いくつ順位を上げられるか、むしろお楽しみは増える。

だが、余力がなければ、さらに順位は下がる。見ていて辛い状況になる。4年前の岡田ジャパン、8年前のジーコジャパンは、そこでズルズルと後退。あえなく馬群に沈んでいった。

岡田ジャパンは、最後になって本田圭佑という救世主が出現。本大会で貴重な2ゴールを叩きだし、ベスト16入りすることに成功した。

とはいえ、これはいつでも望める話ではない。4年前の本田にあたる選手が、現れる保証はどこにもない。

今回は、新戦力そのものを見つけにくい状況にある。

ザッケローニが勝利に拘るあまり、メンバーを固定化したことがその原因だといいたくなるが、使いたくなる選手が見あたらないからという言い分にも耳を傾ける必要がある。どっちもどっち。フェアな見方はこれだろう。

一方で、ザッケローニは「いま出場している選手のコンビネーションを大切にしたいから」と、述べたそうだが、そう言われると、新戦力が台頭しない原因は、監督にありといいたくなる。それはクラブチームの強化方法だ、と。入り口と出口が絶えず用意されているのが代表チーム。協会と選手は、年間契約を交わしているわけではないのだ。

その時、旬の選手を選ぶのが代表。なので、選手間のコンビネーションに必要以上に頼るわけにはいかないのだ。

代表監督に求められているのは、誰が出場してもよい環境作り。新戦力でも理解しやすい戦術だ。

そこのところが、いまの日本代表には欠けている。選手間のコンビネーション、すなわち「あうんの呼吸」に支えられているところに線の細さを感じる。これではメンバーは替えられない。同じメンバーで行くしかなくなる。4年周期のラスト1年。さらなるパワーアップ、スケールアップが求められているというのに、だ。

過去の例から察するに、1年後、現在のスタメンから最低でも4人変わっている必要性を感じる。だが、これだという絶対的な新戦力候補は見あたらない。繰り返すが、4年前の本田のような選手は存在しない。

全体的に、よい選手が少なくなっていると感じるのは僕だけではないと思う。平均的な選手は多くいるが、特別な選手、将来の代表入り間違いなしと太鼓判を押したくなる若手は決して多くいない。

かつては違った。代表に入れてみたい若手はたくさんいた。96年アトランタ五輪前には、五輪チーム対A代表、勝つのはどっちなどという議論に花が咲いたものだ。Jリーグでもある時期まで、若手とベテランがポジションを争えば、必ず若手が勝利を収めた。Jリーグには20歳前後の若手が数多くプレイしていた。そこは若手の天下だった。

U−17、U−19のレベルを見れば、その国の5年後、10年後が占えるといわれる。まさに定説となっているが、選手が育たない理由は指導者にありも同様。世界共通の解釈だ。日本には、選手のレベルに見合った指導者が不足していると考えるべきなのだ。

一頃より選手のレベルは上がった。W杯も出場するだけから、ベスト16入りを前提に話をするようになった。移籍金がほぼ要らないという側面はあるにせよ、海外組が30名近くいる事実もその証拠。指導者のレベルは、それと同じ調子で上がっていくべきものになる。そうでないと、選手の成長は妨げられる。その国のサッカーはレベルダウンする。

指導者はキチンとした勉強を積んでいるのか。自由競争に基づき、優秀な指導者が、実力に相応しい場所に登用される仕組みにあるのか。

少なくとも、海外に修行に出ている指導者をあまり知らない。近々、オランダのVVVフェンロでコーチ学を学ぶことになっている藤田俊哉氏のような存在は希。彼らの姿勢は、選手以上に内向きだ。選手に大きく負けている。とても悪いバランスにある。

いま代表監督を務められそうな日本人指導者はいない。国際経験のある国際性に富んだ指導者は。日本の弱みはそこになる。アキレス腱だといえる。

メディアの追求が弱いことも輪をかける。Jリーグの監督に厳しい質問が浴びせられることは滅多にない。世界的に見て、日本ほど緩くて甘い国も珍しい。外国にはメディアが監督を育てるという側面があるが、日本には一切ない。

ザッケローニに対しても同じことが言える。彼はイタリアで、針のむしろに何度となく座らされた経験がある。修羅場を幾度も経験してきたが、日本ではゼロ。この3年間、彼は甘やかされ続けてきた。僕の知る限り、記者会見で厳しい質問が飛んだことは一度もない。居心地はとてもいいに違いない。が、それは監督に求められる何かが錆びつきかねない環境でもある。彼は監督として、日本で成長していないといいたくなるほどだ。

指導者のレベル低下。代表の新戦力を見つけ出しにくくなった理由と、このことは、遠回しではあるが、大きく関係していると僕は思う。

まず改善すべきは、選手より指導者の質。指導現場の環境だ。そこにメスが入らないと、将来は危うい。日本の右肩上がりは終焉を迎えると僕は思う。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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