過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(2)表に出る問題は氷山の一角
全労連は7月28日、東京・霞ヶ関の厚生労働記者会で記者会見を開き、「外国人技能実習制度に関する提言」を発表し、日本政府は技能実習制度の抜本的改正に向けた法案を再検討すべきだと訴えた。
また「過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(1)全労連が実習制度の改善要求」で伝えたように、今回の会見では、岐阜県の縫製業で就労する女性の技能実習生が、時給400円で働かせられていた上、過労死ラインを超える長時間労働を強いられていたことなども明らかにされた。
◆業界全体の構造的な課題、洋服を買う私たちの側の責任は
全労連東海北陸ブロックは、技能実習生をめぐる問題はなにも違反行為を行う企業1社にとどまるものではなく、岐阜の縫製業界全体の問題、ひいては日本における繊維・衣料品関連部門全体の構造的な課題が影響していると指摘する。
実際に、岐阜県内の縫製業では2015年、調査が実施された38事業者のうち全体の50%に上る19社で最低賃金違反、55.3%に上る21社で割増賃金違反があった(2015年4~12月の監督指導結果)。
しかも、この数字は、労基署が定期指導で証拠を見つけられたものだけという。また、企業側が実習生を黙らせるなどし、不正を隠すケースも少なくないため、実際の違反行為の数はこれを上回るとみられている。
この半面、技能実習生を雇用する企業は、そもそも中小・零細の家族経営の企業が多い。このような企業は、親会社や取引先の大手企業との力関係の中で、安い単価で受注している。そのために最低賃金などの法的な決まりを守り、事業を行うと、利益が出なくなってしまうという現状があるのだという。
全労連東海北陸ブロックは、技能実習生による最低賃金以下での労働による低コストを前提として仕事を発注する親会社や取引先の大手企業の在り方も問題視する。
さらに、全労連東海北陸ブロックは、衣料品を購入する側の私たちの在り方についても問うている。安価な洋服が購入できるという背景になにがあるのか、それをみていく必要があるとする。
◆業界団体へ技能実習生の受け入れ停止を要請
こうした中、全労連東海北陸ブロックと岐阜県労連は7月28日付で、岐阜ファッション産業連合会、岐阜メンズファッション工業組合、岐阜婦人子供服工業組合、岐阜県商工会議所連合会、岐阜県商工会連合会、岐阜県繊維協会に対し、「外国人技能実習生受入停止の要請」を出した。
この中で、岐阜労働局、名古屋入管、岐阜県などで構成する「技能実習生等受入適正化推進会議」が関係団体に出した要請(下記)を実行するよう求めた。
(1)縫製事業場で就労する外国人技能実習生の長時間労働による健康障害等を防止するため、計画的な作業管理を行っていただくとともに、急な発注条件の変更は行わないよう配慮をいただくこと。
(2)発注契約においては、適正な工賃を設定していただくこと。
(「技能実習生等受入適正化推進会議」が関係団体に出した要請)
全労連東海北陸ブロックと岐阜県労連は、上記の「技能実習生等受入適正化推進会議」による要請を実行するとともに、下請け工場から最低賃金違反などの不正を一掃できないのであれば、「岐阜縫製業への技能実習生の受け入れを停止すべき」だとしている。
◆表に出る問題は氷山の一角、労働組合に相談できる実習生はごく一部
技能実習生が自分にふりかかった問題について労働組合などに相談することは難しく、表に出ている問題は氷山の一角だとみられている。
今回の岐阜の縫製業のケースでは、相談にきた技能実習生はすべて女性で、大半が高額の渡航前費用を送り出し機関(仲介会社)に支払って来日している。
技能実習生として来日するベトナム人の中にはもともと手元に十分な現金がない人が多く、借金をして渡航前費用を払うケースが少なくない。そうした技能実習生は来日後、就労により得た収入から借金を返済しており、貯金ができるのは借金を返し終わった後からとなる。
このような構造がある上、技能実習生は仕事に追われ日本語を学ぶ時間を十分にはとれないことなどから、日本語の能力にも限界があるケースがある。日本の労働関連法規に対する知識や情報が限られていることもある。
私が以前にベトナム出身の技能実習生に聞き取りをした中では、実習生の中で日本の労働基準局や労働組合、労働法規などに関する知識を持っていた人は限られていた。
こうした状況があるため、技能実習生はなにか問題があっても、受け入れ管理団体や企業に対し、苦情を言うことが難しい状況にある。管理団体や企業に自分たちの言動が問題視され、実習の途中で強制的に帰国させられれば、貯金ができない上、最悪の場合は借金だけが残ることになるからだ。
技能実習生として来日し、縫製業で働く女性の中には、故郷に子どもを残してやってきた母親もいる。
なんとかして子どもを育てていくためにも、彼女たちが日本に出稼ぎに来ているということの意味は重い。日本への渡航は、女性たちに取って、一つの大きな賭けだろう。
そんな中、岐阜の縫製業で働く技能実習生の女性たちは、労働組合に相談を持ちかけたり、労働基準局に訴えを起こしたりすることを躊躇していたという。彼女たちは管理団体や企業が恐れていたようだ。
彼女たちにとって、なんらのかの理由により強制的に帰国させられれば、何も残らないどころか、借金だけが残ってしまう。
技能実習生の中には100万円を超える渡航前費用を借金して工面し、送り出し機関(仲介会社)に支払って来日している人もおり、そのような大金は出身地での収入では工面することは困難だ。
◆技能実習生としての渡航をあおる出身地の送り出し機関
ベトナム人技能実習生の女性たちにとって、日本におけるこうした状況は想像もしないことだっただろう。
A社の実習生の申告書によると、この実習生は出身地では、送り出し機関から「日本での賃金は1カ月当たり13万5,000円」だと聞いていたという。しかし、来日後に支払われたのは月6万円の賃金で、残業代は400円だったのだ。
◆労働組合に相談した実習生の寮のガスや電気が止められる、風呂に入れず調理もできない
さらに、今回、労働組合に相談を持ち掛けた女性技能実習生をめぐっては、生活にかかわる問題が発生している。
労基署の指導が入る中、C社は「倒産」を宣言し、その上で、実習生の寮のガスや電気を停止したのだという。
女性たちはお風呂に入ることも、調理をすることもできなくなっており、友達のところで食事をとるなどしてしのいでいる。
また女性たちを送り出したベトナム側の送り出し機関は、「担当者を日本に派遣する」「金は補償するから帰国しろ」と言い、女性たちに労基署への訴えを取り下げるよう迫っているようだ。
女性たちは帰国や労基署への訴えの取り下げを拒否しているが、送り出し機関は現在、女性たちの家族に接触を図るなどしているという。
女性たちは渡航前に高額な渡航前費用を払うことで送り出し機関に搾取され、来日後には低賃金と長時間労働により雇用主に搾取され、労働組合に相談した上で労基署に申告するにあたって、さらに困難に直面している。(「過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(3)徳島や佐賀でも課題山積」に続く。)