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過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(1)全労連が実習制度の改善要求

巣内尚子研究者、ジャーナリスト
記者会見する全労連東海北陸ブロックの榑松佐一議長。筆者撮影、東京・霞ヶ関。

全労連は7月28日、東京・霞ヶ関の厚生労働記者会で記者会見を開き、「外国人技能実習制度に関する提言」を発表した。この中で、日本政府は技能実習制度の抜本的改正に向けた法案を再検討すべきだと訴えた。背景には、かねてから幾度も問題になってきた外国人技能実習生の就労状況に、今も課題が山積していることがある。過労死ラインを超える長時間労働や低賃金、さらに劣悪な生活環境に直面している実習生がいる上、労働組合に相談した実習生に対し受け入れ機関・企業、送り出し機関が脅しをかけるなど、人権問題と言える深刻な事例が現在も継続している。

◆「実習制度の抜本的な制度改革が必須」

会見する全労連幹部。筆者撮影、東京・霞ヶ関。
会見する全労連幹部。筆者撮影、東京・霞ヶ関。

全労連は今回の提言で、外国人技能実習生の多くが、来日に当たり高額な渡航費用を借金した上で、送り出し機関やブローカーに途中帰国違約金などを預けて日本にわたっているほか、日本では雇用主変更の自由がなく、事業所から追い出されると即座に帰国させられる状況にあると指摘した。

さらに、出身地の送り出し機関、日本側の受け入れ機関と雇用主の3者によって技能実習生が支配され、低賃金での過酷な労働と劣悪な生活環境を強いられる「奴隷労働」の実態があるとしている。

こうした中、これまでに労働組合が技能実習生を支援し、行政に申告をし、これを受けた入国管理局や労働基準監督署は受け入れ企業を指導してきたものの、実態は依然として改善していないため、抜本的な制度改革が必須だという。

◆状況改善なしの実習生受け入れ推進は「奴隷労働」の拡大招く

また全労連は、国会で継続審議となっている「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律案」と「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案」では、制度の抜本的な改正と事態の改善にはつながらないと説明。実習生の失踪対策のペナルティーを厳格化しているものの、労働条件の確保や労働環境の改善に関する受け入れ側への指導監督の強化がなければ、対策として不十分だとする。

その上、法案では、「技能実習3号」を新設することにより実習期間を3年から最長5年に延長することや受け入れ職種に新たに「介護」を加えることなどが盛り込まれ、技能実習生の受け入れを広げるものとなる。

しかし、全労連は、制度の抜本的改正なしに、偽の言う実習生の受け入れを推進すれば、「奴隷労働」の拡大につながると警鐘を鳴らしている。

そのため、全労連は今回、以下の提言を行っている。

(1)人権侵害をなくす実効ある措置を盛り込むため、両法案を撤回し、至急、検討し直すこと。

(2)送り出し機関への規制を強化するための二国間協定の締結を受け入れの条件とすること。

(3)均等待遇の実現など、雇用主責任の強化を規定すること。

(4)受け入れ管理団体は業務を外部に委託してはらないものとする。

(5)受け入れ管理団体と受け入れ企業への監督は「機構」ではなく、国が行うものとすること。そのために必要な審査・相談・指導・監督を十分こなしうる体制を行政内に確保し、監督権限を持った職員を配置すること。

◆「岐阜の衝撃」再び、女性実習生が支える縫製業で横行する搾取と違反行為

会見する全労連東海北陸ブロックの榑松佐一議長(左)。筆者撮影、東京・霞ヶ関。
会見する全労連東海北陸ブロックの榑松佐一議長(左)。筆者撮影、東京・霞ヶ関。

全労連が提言を出した背景には、技能実習生が置かれた深刻な状況がある。

中でも、問題視するのが、岐阜県の縫製業における技能実習生の就労状況だ。

全労連東海北陸ブロックの榑松佐一議長によると、岐阜県の縫製業では3,000人に上る技能実習生が就労している。こうした縫製業で働く技能実習生の多くは中国やベトナムなどの出身の女性だとみられるという。

縫製産業が海外製品との価格競争やコスト引き下げ圧力にさらされるとともに、若年労働者が不足する中、アジア出身の女性たちが、岐阜の縫製業を支えているとも言えるだろう。

一方、榑松議長のもとには、6月に岐阜の縫製業で働くベトナム出身の女性技能実習生から、立て続けに4件の相談が入った。相談を受け、榑松議長が驚いたのは、技能実習生の残業代の時給が400円である上、毎日夜10時までの長時間労働を強いられていたほか、土日も休みがない状況で働かせられていたことだった。

会見する岐阜県労連の平野竜也事務局長。筆者撮影、東京・霞ヶ関。
会見する岐阜県労連の平野竜也事務局長。筆者撮影、東京・霞ヶ関。

技能実習制度をめぐっては、以前にも、岐阜の縫製業での問題が指摘されてきた上、愛知県でも自動車部品などの製造業で、時給300~400円という相談があった。ただし、2010年の制度改正以降、愛知県ではこうした相談はほとんどなくなっていた。

しかし、ここにきて、ベトナム人技能実習生からの相談により明らかになった岐阜の縫製業の実態からは、岐阜の状況が改善しないままにあることが浮かび上がったという。

岐阜県労連の平野竜也事務局長によると、ベトナム人実習生の中には、毎月100時間を超える残業をしていた人もいた。これは国の過労死基準を大幅に上回っている。

その上、実習生はベトナムの送り出し機関との間で、「時間外労働について日本国内法律では割増賃金と定めているが入国する技能実習生に対する時間外労働賃金額は1年目350円、2年目400円、3年目は500円と定める。・・・同意しない技能実習希望者をあっせんしないこと」という、日本の法律に違反する内容の覚書を結んでいた。送り出し側、受け入れ側双方が、最低賃金に違反する低水準の賃金に関与しているとみられる。(「過労死ライン超える長時間労働、時給400円、追い詰められた女性実習生(2)」に続く。)

研究者、ジャーナリスト

岐阜大学教員。インドネシア、フィリピン、ベトナム、日本で記者やフリーライターとして活動。2015年3月~2016年2月、ベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在し、ベトナムからの国境を超える移住労働を調査。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。ケベック州のラバル大学博士課程。現在は帰国し日本在住。著書に『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社、2019年)。

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