ニュース記事で書かれる『熊』は『クマ』 片仮名表記にする理由は?【記者的言葉解説】
春頃から、クマの出没ニュースを頻繁に目にするようになりました。4月28日には、北海道根室市の林道で道路脇からクマが突然現れ、林道を走っていた軽トラックと衝突する事故が起こりました。警察が公開したドライブレコーダーには、クマが車に体当たりしたあとに、前足をフロントガラスに振り下ろしている様子が記録されており、その衝撃をニュースで目にした方も多いのではないでしょうか(ニュース参照:NHK)。
また5月18日には、秋田県鹿角市十和田大湯の山林で倒れている男性が発見されました。すでに亡くなっていた男性の遺体を運ぼうとした警察官2人がクマに襲われ、大けがを負いました。男性の遺体の搬送は安全の確保が難しいため延期され、猟友会が銃で周囲を警戒する中、22日にようやく行われたということです(ニュース参照:NHK)。
今日6月1日も、山口県岩国市廿木の国道2号沿いでクマの目撃情報が発表され(ニュース参照:テレビ山口)、全国でクマの出没や被害が多くなっている印象です。
さて、実はこの記事で筆者は、「熊」という動物を、漢字ではなく「クマ」と片仮名で表記しています。そして皆さんがテレビや新聞、ウェブで目にしているはずのクマ関連ニュースも、「熊」はなく「クマ」と書かれています。
この記事では、執筆記事1万本以上、取材経験5000回以上の元テレビ局芸能記者で現・フリー記者のコティマムが、『ニュース記事に使われている何気ない言葉』を解説。今回は「クマ」の表記についてご説明します。知ればニュースを読むのが「ちょ~っとだけ楽しくなる」かも……しれません。(構成・文=コティマム)
「動植物は原則として片仮名表記」というルール
記者たちが原稿を書く際に使用する記者ハンドブックや用事用語辞典では、「動植物名の書き方」をルールで定めています。
上の写真は記者ハンドブック(共同通信社)の内容で、動植物の表記ルールは
とされています。表内字というのは、「常用漢字」のことです。そもそも記事を書く際には、「常用外漢字は使わない」「常用外漢字は平仮名に直す」「難しい(読みづらい)漢字は平仮名に直す」などのルールがあります。例えば記事内で『復讐』という言葉を使うことがあった時、記者たちは『復しゅう』または『復讐(ふくしゅう)』などと書き換えています。
しかし動植物に関しては、表示内、つまり常用漢字であれば「通常はそのまま漢字で書くことができる文字」でも、「基本は片仮名書きにする」というルールがあります。熊はクマ、猫はネコ、などと表記されています。
一概に「絶対片仮名」と断言できない媒体ルールや認識
しかし、この動植物表記は例外も多いです。記者ハンドブックでも、
とされており、科学・医学記事、動植物の生態や保護などに関する以外の記事では、「表内字・表内音訓であれば漢字表記できる動植物」もあるのです。
例えば野菜の価格高騰のニュースなどでよく見かける「大根」や「白菜」は、「ダイコン」「ハクサイ」とは書かれていません。
各媒体でもいろいろとルールがあり、例えば『NHK編新用字用語辞典』では、
とされています。
また『朝日新聞の用語の手引き』では、
とされていて、例には「キリン」「ワニ」「ワシ」「ニンジン」「キュウリ」などが挙げられています。一方で、「漢字1字で書けるもの」として、「馬」「牛」「犬」「豚」「羊」「鶏」、そして今回の「熊」も挙げられています。つまり、一概に「絶対に片仮名でなければいけない」と断言できないのです。
しかし、NHKやテレビ朝日、朝日新聞のクマに関するニュースを見ると、「クマ」と片仮名表記で書かれているので、ニュース記事で表記する際は「学術的な書き方をする」という扱いで、片仮名表記にしているのだと思われます。
まとめ
筆者は芸能取材や企業取材に出ることが多いので、普段はあまり動植物の名前を記事に書くことがありません。例えば楽曲や舞台のタイトル、商品名に「熊」という漢字が使われていたら、それは名称なのでそのまま使用します。地の文であまり動植物名を書く機会がないのですが、「動植物は片仮名が基本」という意識はあったので、今回この記事を書くにあたって、各媒体の認識やルールの例外などを再確認できました。
とはいえ、現在もニュースで見かける動植物は片仮名が多いので、記事を読む際は動植物の表記に注目してみてくださいね。
普段何気なく読んでいるニュース記事は、多くの“言葉のルール”にのっとって書かれています(この『のっとって』も漢字表記ではなく、平仮名書きという表記ルールがあります)。今後も記者目線で、「ちょ~っとだけタメになる(?)」言葉解説をつづっていきます。
言葉に関する記事については、『【記者的言葉解説】『入籍』=『結婚』じゃない? ニュース記事では何て書かれている?』もご覧ください。※スマホからご覧の方は、プロフィールからフォローしていただくと最新記事の見逃しがなくおすすめです。