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不倫騒動:ハリウッドセレブはどう乗り越えたか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
メイドとの間に隠し子がいたことが発覚したシュワルツェネッガー(写真:ロイター/アフロ)

不倫騒動の渦中にあるベッキーが、休業するとのニュースを読んだ。事務所の命令なのか、本人の意向なのかはわからないが、今、とてもバラエティ番組などに出る気になれないというのがおそらく本音だろうし、理解できる。

不倫は、もちろん、アメリカにおいても、大きなイメージダウンだ。家族を大切にすることは、良い人の条件のひとつで、ハリウッドスターは、プレミアや授賞式などのイベントに、たいてい配偶者を伴って出席する。既婚者のスターが、配偶者なしでレッドカーペットに登場することが長く続きすぎると、マスコミから、「あの夫婦には何か問題があるのではないか」と、密かに勘ぐられたりもする。

そんなふうに仲の良さを見せつけていたセレブ夫婦の片方が不倫していたことが発覚した時、不倫した人間に対する一般の評価が下がるのはもちろんだが、罪のない配偶者のほうも、大きな屈辱を受ける。しばらく身を隠したいと誰もが思うところだろうが、映画は、バラエティ番組と違い、撮影から公開までに長い時間がかかるので、騒ぎを理由に撮影を休むということはめったになく、公開を控えた作品のプロモーションのためのインタビューも、たいていの人は、予定どおり受ける(ただし、スタジオやそのタレントのパブリシストから、『プライベートな話題はNG。質問は映画のことに限る』という、強いお達しが出るのが普通だ。)

それでも、対応はさまざまだ。近年、不倫騒動に関わった映画俳優たちが、どう乗り切ったのか、いくつか例を振り返ってみよう。

アシュトン・カッチャーとデミ・ムーア

2011年9月の6度目の結婚記念日の日、カッチャーは、妻ムーアを置いてサンディエゴに出かけ、ホテルで22歳の一般人女性と関係を持った。その女性は、カッチャーがムーアとは別居していると嘘を語ったことや、コンドームを使用しなかったことなど、その夜の様子を詳しくメディアに語っている。当時、カッチャーは、数々のトラブルの結果、降板させられたチャーリー・シーンに代わり、人気テレビ番組「Two and a Half Man」の主演を始めたばかりだったが、不倫事件発覚後も、予定通り撮影をし、番組は放映され続けた。1話あたり75万ドル(約8,700万円)という高額なギャラにも変化はなく、シーンが主演した過去8シーズンよりも高い視聴率を記録することになる。カッチャーは、問題の一夜に関して口を閉ざし続けたが、ムーアは同年11月、「女性として、母として、妻として、私が大切にする価値観や約束というものがあります。その精神のもとに人生を歩んでいくことを、私は選びました」と声明を発表し、離婚申請をした。その数ヶ月後、カッチャーは現在の妻ミラ・クニスと交際を開始。しかし、ムーアとの離婚の成立には2年がかかった。離婚条件の交渉が難航したのは、ムーアが、テレビ業界で最も稼ぐスターとなったカッチャーに、元配偶者手当の支払いを要求したからだと言われている。

サンドラ・ブロックとジェシー・ジェームズ

2010年、ブロックは、「しあわせの隠れ場所」でオスカー主演女優賞を獲得。受賞スピーチで、夫ジェームズに向けて、「あなたをとても愛しています。あなたはとても魅力的よ」と語りかけた。だが、その直後、ジェームズがストリッパーと不倫をしていたことが、ストリッパーの告白で発覚。不倫相手はほかにも出現し、ブロックは、即、離婚申請をした。当時、夫妻は、生後3ヶ月の男の子ルイス君を養子に取る手続きを始めていたが、離婚申請後、ブロックは「シングルマザーとしてこの子を引き取ることに決めました」とメディアに語っている。また、「そのほかに関しては、一歩一歩進んでいくしかない」とし、ジェームズについては、「許します。そして彼の回復を支えます」とコメントした。その言葉どおり、ブロックはその後、主に、テキサス州オースティンの自宅で母親業に専念。人が彼女の姿を再びスクリーンで見たのは、2011年12月北米公開された「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」で、騒動から1年半以上が経過した頃だった。一方、ジェームズは離婚を受けて更生施設に入居。離婚から5年がたった昨年9月、ジェームズは、テレビのインタビュー番組で、「僕はメディアの前に出て、自分がやったことの責任を完全に受け止めた。100%だ。誰もそんなことはやらない。みんな否定するものだ」と語っている。

サラ・ジェシカ・パーカーとマシュー・ブロデリック

パーカーが主演とプロデューサーを兼任する映画版「セックス&ザ・シティ」が公開され、大ヒットしたばかりの2008年夏、夫ブロデリックが25歳の赤毛の女性と長期にわたる不倫をしていると、ゴシップ紙が報道した。「離婚か?」との報道も出たが、夫妻は沈黙を守り、2009年には代理母を使って、双子の女の子を出産した。5年後、パーカーは、その騒動について、「静かに消えていってくれた」と、雑誌のインタビューで振り返っている。「そのことについて、私はコメントしなかった。私たちの結婚が話題に上がった時、ゴシップや非難について答える義務があるとは思わなかったから。自分の立場を決めて、それを守り通さないと」と語り、さらに、「マシュー・ブロデリックを愛している。クレイジーと言われても、私は彼を愛しているの」と続けている。

アーノルド・シュワルツェネッガーとマリア・シュライバー

2011年5月、25年間夫婦を続けてきたシュワルツェネッガーとシュライバーは、別居すると発表した。その1週間後、L.A.タイムズ紙が、シュワルツェネッガーは、20年以上、夫妻の家で雇われてきたメイドの息子の父親であると報道。それを受けて、シュワルツェネッガーは、「カリフォルニア州知事の任期を終えた後、10年以上前に起こったその出来事について、妻に話した」との声明文を、L.A.タイムズ紙に送っている。また、その後、高視聴率を誇る報道番組「60 Minutes」に出演してインタビューを受け、翌年出版した自伝本「Total Recall: My Unbelievably True Life Story」にも、「The Secret」(秘密)という章をもうけて、不倫について語った。昨年6月にも、ラジオ番組で、シュライバーとの離婚は、人生で最大の失敗だったとし、「そして、それは自分の責任だ、自分が引き起こしたのだとわかっている。誰のせいにもできない」と認めている。

エヴァ・ロンゴリアとトニー・パーカー

レギュラー出演するテレビドラマ「デスパレートな妻たち」が人気を集めていた2010年、ロンゴリアの夫でNBA選手のトニー・パーカーが、元チームメイトの妻と不倫をしていることが発覚した。ロンゴリアはすぐに離婚を申請。その間も、「デスパレート〜」の撮影は続けた。それから4年ほどたった頃、ロンゴリアは、テレビのインタビューで、不倫騒動時は、気持ちが落ち込み、食欲がなくなって、コーヒーしか口にできなかったと明かしている。さらに、「ニュースが流れてしまうのは、私にはどうにもできない。今は、そういう世の中。すべてがインターネットやソーシャルメディアに出る。人が何を言っているのかについて、聞かないように努めた」とも付け加えた。

最近では、ベン・アフレックが、子供たちの養育係の女性と不倫をしていたことも騒ぎになった。その報道が出る前に、アフレックと妻ジェニファー・ガーナーは破局を発表していたが、養育係との不倫関係についてガーナーは知っており、それも破局の原因のひとつになったということだ。しかし、ガーナーは今もまだ離婚申請の手続きを行っていない。アメリカの主要な祝日には、子供たちを含め、ふたりが家族として時間を過ごしているパパラッチ写真が出回るなど、醜い争いが起こっているというイメージを避けるための配慮が感じられる。アフレックは、この3月、主演作「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」の公開を控えており、そのプロモーションのためのインタビューも、通常通り受けている。

ハリウッドスターではないが、自ら引き起こした不倫のせいで厳しい状況に直面した代表例は、ビル・クリントン元大統領と、タイガー・ウッズだろう。ホワイトハウスのインターン、モニカ・ルインスキーとの不倫が発覚した時、クリントンは「私はあの女性と性的関係を持っていない」と主張したが、後に嘘だったことがわかり、虚偽の証言をした罪で、9万ドルの罰金を払った上、弁護士の免許を失っている。企業の広告出演料で年間2,000万ドルを稼いでいたウッズは、不倫発覚後、ゼネラル・モーターズ、タグ・ホイヤー、ゲータレードなどから契約を切られ、その後の2年間、企業との契約から来る収入が半分に減った。しかし、ナイキは、そのスキャンダルの後も、ウッズとの契約を守り続けている。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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