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「今いくよ・くるよ」が変えたもの。二人が築いた女性芸人の今

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

漫才コンビ「今いくよ・くるよ」として活躍した今くるよさんが27日、膵がんのため亡くなりました。

今でこそ、女性芸人という存在が当たり前になりましたが、いくよさん、くるよさんがコンビを組んだ54年前は状況がまるで違いました。

京都・明徳商業高校(現・京都明徳高校)のソフトボール部同期だった2人が「島田洋之介・今喜多代」に入門したのが1970年。当時、活躍していた女性芸人と言えば、「かしまし娘」のような姉妹の漫才師か夫婦漫才がほとんどでした。若い女性同士、しかも、身内ではない友人がコンビを組むことが極めて珍しい時代で、窓口になった吉本興業にすら育てるノウハウがない時代でした。

何とかデビューを迎えても、演芸界は圧倒的な男社会。女性専用の楽屋という概念もなく、男性に囲まれながら、てるてる坊主のように首から下を隠す自作ポンチョをかぶって着替える日々が続きました。

女性漫才コンビがほぼいないので、女性用漫才衣装という概念もない。既製品などあるはずもなく、基本的に全てがオーダーメイド。仕事が入っても、ギャラは数万円、衣装の費用が50万円という状況も頻繁にあったといいます。

そんな時期を経て、MANZAIブームで一躍注目を集める存在となりました。2人がブレークしたからこそ「売れっ子の『いくよ・くるよ』さんを男の中で着替えさせておくわけにはいかない」という意識が劇場側にも生まれた。その結果、男女別の楽屋が作られるなど女性芸人の待遇が大幅に上昇することにもつながりました。

時代を変える中で、自分たちが経験してきたつらさを踏まえ、後輩たちにはそんな思いをさせたくない。そのために何かできることはないのか。そんな思いから、あらゆる女性芸人にやさしい言葉をかけてきました。

毎年3月3日には「ハイヒール」のお二人、シルクさん、なるみさんらベテランから超若手にいたるまで女性芸人数十人を集めて「ひな祭りの会」と称した食事会を開催。大阪・ミナミのなじみのお店を貸し切りにして、いくよさん、くるよさんのオゴリで「食べよし‼飲みよし‼」と大盤振る舞いするのが定例化していました。

また、お二人の存在が女性芸人を売る事務所側の意識も大きく変えたと聞きます。

昔は姉妹などではない他人女性コンビのことを“ガラスのコンビ”と呼んでいた時期もありました。結婚や出産といった人生の動きがあるたびに、コンビとしての動きが止まってしまいかねない。事務所からは「いつどうなるか分からない部分がある」ととらえられ、なかなか売ってもらいにくくなる。今の時代の感覚からすると、いろいろとそぐわないところもあるかと思いますが、それが当時の現実でもありました。

ただ、お二人という売れっ子、成功例が誕生したことから、事務所に「女性芸人をしっかりと売っていくことも大切」という意識が生まれたと聞きます。

以前、いくよさんにインタビューをした際に「本気で、人生をかけて、結婚をしようと思った相手もいました」という話を聞いたことがあります。「夢は専業主婦になること」ともおっしゃっていました。

女性、男性という概念、ライフスタイルも今は大きく変わってきましたが、荒い時代の中で、いくよさん、くるよさんの心があらゆる葛藤で大きく揺さぶられていたであろうことは想像に難くありません。

ただ、結果として「今いくよ・くるよ」が人気者になったことで、大きな道を切り開いた。そして、今その道を多くの人が通っている。それは揺らぎのない事実です。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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