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妻との別れ、そして飲酒事故を経て、嘉門タツオが噛みしめる今。そして、替え歌への逆風に思うこと

中西正男芸能記者
今の思いを語る嘉門タツオさん(写真は本人提供)

 「ヤンキーの兄ちゃんのうた」「鼻から牛乳」などオリジナリティーあふれる曲を歌い続けてきたシンガーソングライターの嘉門タツオさん(65)。2022年に妻を亡くし、昨年1月には飲酒運転で事故を起こし1年2カ月の自粛生活も経験しました。今年3月にライブ「反省と叱咤の会」を東京・渋谷で開催し活動を再開。7月26日には復帰後初めて地元・大阪でライブも行います。新たな一歩を踏み出す中で抱く思い。そして、落語家時代の師匠である笑福亭鶴光さんのラジオ番組で替え歌が問題になるなど、主武器の一つとしてきた替え歌に対する逆風も吹く中、感じることとは。

自粛生活での思い

 今年3月に久々に東京・渋谷でライブをしました。宇崎竜童さんにもお越しいただき、本当にありがたい場をいただいたとただただ感謝しています。

 それまで1年2カ月ほど活動を自粛していました。日々、根本にあるのは反省と後悔。それを踏まえた上で、一日をスタートさせていました。

 時間だけはあるので、一日に3本ほど文楽を観に行ったり、知識として知ってはいるものの深くは知らなかった忠臣蔵を掘り起こしたり、これまで自分が作ってきた40年ほどの作品を見直したり。そういうこともしていました。

 そして、妻のこともありましたし、今年に入ってからも人の生きざま、死にざまを色濃く見た気がしています。

 桂ざこば師匠も、キダ・タロー先生も、お世話になってきましたし、そういう方がいなくなる。いろいろと感じましたね。

 ざこば師匠は動楽亭という寄席を大阪・新世界に残されましたし、キダ先生は言わずもがな何千曲の作品を残されました。自分がいなくなっても、形あるものを残す。その意味を再認識しましたし、自分のことも今一度見つめ直しました。

替え歌における自らのルール

 作品を残す。作品の意味。それを考える中で、鶴光師匠の替え歌の話もありました。破門になってしまったんですけど、もともと自分が弟子入りした方ですし、替え歌は今回の大阪のライブでもしっかりメニューに入れているくらい、ずっとやってきたことです。

 今回のことで替え歌への逆風というか、そこがナーバスになっているという話も人づてに聞いたりはしました。僕自身のことで言うと、特に変化はなく、これまで通り替え歌と向き合ってはいますが。

 替え歌というのは、いかにもともとのメロディー、歌詞の流れを活かしつつ、韻をそろえながら面白味を入れていくか。そこが技術的にはキモになっていくわけなんですけど、歌という作品として残るので、気を遣う部分も多いんです。

 時代の流れによって、それこそ男女同権であることもそうだし、いろいろな立場の人に配慮した言葉遣いでないとお客さんが笑ってくれない。そして、これは以前から心掛けていたことですけど「揶揄はするけど、弱い者いじめはしない」。いくら面白い歌詞があったとしても、そこはブレずにやってきたつもりです。

 今だったら、なんでしょうね。トランプさん、バイデンさんは題材として非常にやりやすいでしょうね。存在として非常に大きいし、簡単に言うと、偉いところにいる人たちです。そこへの揶揄はアリなのかなと思います。

 あとは、大谷翔平選手くらい突き抜けた人か。ここは揶揄ということもそぐわないくらいスーパースターでもあるので、その突き抜け具合から面白さを抽出して、皆さんに共感してもらうか。そんなパターンもありますしね。

 鶴光師匠の番組での替え歌の歌詞を人から聞きましたけど、そら「低俗」という話にもなると思います(笑)。でも、鶴光師匠はずっと「低俗」ということを自分でも言ってこられましたし、今に始まったことではない。

 ニッポン放送は謝罪のコメントを出しましたけど、鶴光師匠は謝ることはされてないはずですからね。僕が言うことではないのかもしれませんけど、僕からしたら、ただただ素敵なオッチャンやなと思います。

見据える今後

 休むきっかけとなったことは、本当にただただ申し訳なく、自分が悪いだけのことです。ただ、そこが今後やりたいことを確認するきっかけにもなったのかなとは思います。もちろん、反省が大前提としてある話なんですけど。

 やりたいこと。それは、やっぱり「さまざまなことに笑いと音楽を加えて形に残す」ということなんですよね。

 亡くなった妻と一緒に作っていた曲もありますし、それがまだ出来上がってもいないですし、そこは引き続きやっていく。妻に関してはやるだけのことはやり切って送り出したとは思っているんですけど、そういった曲は引き続き作っていかなければと思っています。

 そして、これはまだ構想なんですけど、いつか“嘉門タツオ記念館”というものを作れたらなとは思っています。作品を残すだけでなく、なぜその作品を作ろうと思ったのか。どんなアホなことを考えていたのか。作品とともに、そんなことが伝わるような場があったらなと。そんなことを今は思っています。

 そのためにはまだまだ僕自身のグレードを上げないといけないし、これは本当にありがたいことなんですけど、3月のライブで昔一緒にやっていたスタッフさんと30年近くぶりにお会いして、僕が過去に作ってきた作品の令和バージョンを作ろうということになっているんです。

 インバウンドもそうだし、スターバックスでフラペチーノの注文の仕方が分からないのもありますし(笑)、歌に込めたいテーマはいくらでもありますからね。今の自分だからできること。感じられること。そこを活かしながら、これからも歌っていけたらなと思っています。

■嘉門タツオ(かもん・たつお)

1959年3月25日生まれ。大阪府出身。70年大阪万博に魅了された小学生時代を経験。中学生になりMBSラジオ「ヤングタウン」と出会い、高校在学中の75年に当時レギュラーを務めていた笑福亭鶴光に弟子入り。笑光として「ヤングタウン」のレギュラー出演を果たすも80年に破門。「サザンオールスターズ」桑田佳祐と出会って“嘉門達夫”の名をもらい、再デビューする。83年に「ヤンキーの兄ちゃんのうた」でレコードデビューしYTV全日本有線放送大賞新人賞など受賞多数。現在は「嘉門タツオ」と名を改め、執筆やYouTubeなど活動の場を広げている。7月26日には大阪・umedaTRADでライブ「嘉門タツオ“お世話になりました! umeda TRAD!!”」を開催する。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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