EU離脱協定 英下院で否決87.5%「合意なき離脱」73%の確率 英ブックメーカー分析
[ロンドン発]延期されていた英国の欧州連合(EU)離脱協定と政治宣言を巡る英下院の採決が今月15日に設定されました。否決されると「合意なき無秩序離脱」の危険性が高まり、英通貨ポンドが急落するのは必至です。
最大野党・労働党のジェレミー・コービン党首は10日、EU離脱を巡る膠着状態を解消するためテリーザ・メイ首相に対し「もしEUとの離脱協定にそれほど自信があるのなら総選挙で民意に問うべきだ」と解散・総選挙を求めました。
2年半前の国民投票で選択したEU離脱を覆す2回目の国民投票について、「隠れ離脱派」のコービン党首は態度をあいまいにし続けています。
英国最大のブックメーカー(賭け屋)、ウィリアム・ヒルの広報責任者ルパート・アダムズ氏がこの日、外国特派員協会(FPA)で記者会見し、英国のEU離脱についての倍率を解説してくれました。
アダムズ氏は「15日の下院採決は確実に行われます。英国のEU離脱を巡っては100万ポンド(約1億3800万円)のおカネが賭けられる見通しです」と断言します。
15日にEU離脱協定が英下院で承認される倍率は
はい 4/1(5倍)
いいえ 1/7(1.14倍)
アダムズ氏「否決の確率は87.5%」
1月15日の下院採決でメイ首相が得られる賛成票は
238票以上 10/11(1.91倍)
237票以下 10/11(1.91倍)
アダムズ氏「倍率は同じだが、実は81%が237票以下に賭けている」
3月末までに承認される倍率は
はい 2/1(3倍)
いいえ 4/11(1.36倍)
アダムズ氏「離脱期限の3月末までにメイ首相が議会承認を取り付けるのに失敗し、合意なき離脱に追い込まれる確率は73%だ」
2回目の国民投票が実施される倍率は
11/8(2.38倍)
アダムズ氏「メイ首相が進む道はどんどん狭められ、2回目の国民投票が実施される確率は膨らんでいるものの、まだ42%に留まる」
英国がEU離脱(リスボン条約50条)手続きを撤回する倍率は
2/1(3倍)
メイ首相が15日の下院で否決されて辞任する倍率は
16/1(17倍)
アダムズ氏「来週中に辞任する可能性はほとんどない」
メイ首相が退陣するのはいつ
2019年 2/7(1.28倍)
2020年 9/2(5.5倍)
2021年 12/1(13倍)
2022年以降 10/1(11倍)
アダムズ氏「今年中にメイ首相が辞任する確率は77%だ」
次の首相は
コービン労働党党首 4/1(5倍)
ボリス・ジョンソン前外相 5/1(6倍)
デイビット・リディントン内閣府担当相 6/1(7倍)
サジッド・ジェイビッド内相 7/1(8倍)
ドミニク・ラーブ前EU離脱担当相 8/1(9倍)
アダムズ氏「ここに来てリディントン内閣府担当相の人気が急上昇している」
落ち込む新車登録台数
迷走する離脱交渉を受け、景気は減速、投資と消費が冷え込んでいます。英国の新車登録台数は昨年236万7147台(前年比マイナス6.8%)と世界金融・経済危機があった2008年(同マイナス11%)以来、最大の落ち込みとなりました。
ディーゼル車は、規制が強化されるとの懸念からマイナス29.6%も落ち込みました。
EU離脱を問う国民投票が実施された2016年には英国の新車登録台数はピークの269万2786台に達しました。離脱交渉を巡るごたごたや環境規制の影響で、2年間で32万5639台(マイナス12.1%)も減ってしまったのです。
英自動車メーカー、ジャガー・ランドローバーは25万ポンドのコストを削減するため従業員4万人のうち4500人を解雇する方針です。
背景には米中貿易戦争による中国での売り上げ減、ディーゼル車販売の落ち込み、EU離脱後も英国が競争力を維持できるのかという懸念が横たわっています。摩擦なき貿易というグローバル時代の幕は閉じようとしています。
下院採決で敗北が続くメイ首相
英国のEU離脱を主導するテリーザ・メイ首相はわずか24時間の間に2つも離脱を巡る下院での投票で敗北を喫してしまいました。
今月8日、下院の承認がなければ「合意なき離脱」に対応するための税制変更はできないという案が賛成303票、反対296票で可決されました。与党・保守党からEU残留派の20人が造反しました。
9日には、政府がEUとの離脱協定と政治宣言を巡る下院採決で否決された場合、就業日3日以内(政府案では21日以内)に修正案を下院に提示しなければならないという提案が賛成308票、反対297票で可決されました。保守党からの造反はEU残留派の17人でした。
英国のEU離脱を巡る研究プラットフォーム「変わりゆく欧州における英国(The UK in a Changing Europe)」の調査では下院議員の70%がメイ首相のEU離脱交渉はまずかったと考えているそうです。
いよいよメイ首相の出口はなくなってきました。果たして英国はこのまま「合意なき離脱」に突き進むのでしょうか。
(おわり)