Yahoo!ニュース

大人のラブ・サスペンスで魅惑ヒロインと対峙する現代女性を好演!鮎川桃果「責任重大な役と思いました」

水上賢治映画ライター
「ボディ・リメンバー」でリリコ役を演じた鮎川桃果  筆者撮影

 虚実入り混じり、真実が曖昧になる謎めいた大人のラブ・サスペンス・ストーリーが展開する映画「ボディ・リメンバー」。

 これまで俳優として活躍してきた山科圭太が映画監督に初挑戦した本作は、彼が大いに影響を受け、もっと映画界でも知られていいと思った演劇界の実力者、田中夢、奥田洋平、古屋隆太、鮎川桃果らをキャスティングし、脚本もまた山科が信頼を寄せる劇作家、三宅一平が書き上げた。

 いわば演劇界の才能が力をひとつに結集してできたといっていい。

 本作については監督を務めた山科圭太のインタビュー(前編後編)と主演の田中夢のインタビュー(前編後編)を届けたが続いてご登場いただくのは、五反田団などの舞台に出演してきた鮎川桃果。

 田中夢が演じた妖しい魅力を放つヒロイン・ヨウコ役と相対するリリコ役を演じた彼女に訊く。(全2回)

山科さんがわたしに信頼を寄せてくれていたことが素直にうれしかった

 はじめに俳優として出会った山科圭太が今回、監督を務め、その作品への出演を打診されたときをこう振り返る。

「山科さんとは作品の共演で出会っているんですけど、わたしの中のイメージは『真面目』といいますか。

 台本の読み合わせや俳優同士のコミュニケーションをとるのも積極的で、なにか熱いモノをもった人だなと思っていました。

 ただ、監督業に興味があったことは初耳で。映画を撮りたくて映画学校に通っていたことも知りませんでした。

 だから、はじめにこの『ボディ・リメンバー』の企画をきいたときは驚きました。

 それで、出演を打診されたことは、すごくうれしかったです。

 まず、ひとりの役者としてわたしを信頼して声をかけてくれたことがうれしかった。

 『一緒に映画を作りたい』と思ってくれたことがうれしかったです。

 いざ、映画を作るとなったら、自主映画ですし、スタッフ集めからキャスティグまで山科さんが主体となって動かないといけないので大変だったと思うんです。

 そうなってくると、もし、自分がその立場にいたら、やはり、スタッフにしてもキャストにしても自分が信頼する人と組みたいと思うんですね。

 そういう信頼を山科さんがわたしに寄せてくれていたことが素直にうれしかったです」

 ものすごい熱量でリリコという役と作品について伝えられたという。

「ほんとうに半端ない熱量で説明してくれたんですよ。

 『こういう映画で、この役をやってほしいと思っているんだけど、どう?どう?』と迫ってくる感じで(苦笑)。

 それだけ求めてくれるならば、その期待に応えたいし、作品の力になりたい。だから、断る理由はなかったです」

「ボディ・リメンバー」でリリコ役を演じた鮎川桃果  筆者撮影
「ボディ・リメンバー」でリリコ役を演じた鮎川桃果  筆者撮影

スタッフも俳優もボーダレスに作品にかかわって、みんなで

1本の作品を作り上げていくようなことができないかなと思っていた

 また、こういうスタイルの自主映画への出演を望んでいた時期でもあったという。

「これまでいろいろな作品にたずさわってきたんですけど、どうしても区分されてしまうというか。

 俳優部は俳優部、撮影部は撮影部、美術部は美術部といった具合に完全に区分けされる現場がほとんどで。

 分業が悪いとは思わないんですけど、わたし自身がもう少しスタッフと深くコミュニケーションをはかったり、俳優同士でもっと密に話し合ったりできたりする時間があったらいいなと思って。そこにもどかしさを感じていたんですね。

 もう少しスタッフも俳優も入り乱れるわけじゃないですけど、ボーダレスに作品にかかわって、みんなで1本の作品を作り上げていくようなことができないかなと思っていたんです。

 ですから、山科さんが今回の作品は俳優もクリエイターと思っていて、スタッフとキャストともにいろいろとアイデアを出して、みんなで作品を作り上げていきたいという意思があったのは、渡りに船じゃないですけど。

 わたしにとってはまさに望んでいた現場になりそうな予感がして。その楽しみもありました」

えっ、山科さんの中でわたしのイメージってこんな感じ?

 ただ、実際に演じることになったリリコ役のとりわけ服装にはびっくりしたという。

「これは映画を観てもらえたらと思うんですけど、けっこうリリコの服装が派手というか大胆というか。

 いままで山科さんの前で、ああいう服装でいたことないし、ふだんああいう恰好もしてない。

 ですから、自分とはかけ離れているとまではいわないけど、『えっ、山科さんの中でわたしのイメージってこんな感じ?』と驚いたところがありました。

 もう一方で、察するに、たぶん山科さんの監督としての視点で、わたしにこれまでのイメージにない役にトライしてほしい気持ちがあったのかなと。

 監督目線でみて、リリコという役にトライするわたしに少なからず可能性を見出してくれた。

 そのことがうれしくて、わたし自身、新たな発見がある役かもしれないと感じて、トライしたいと思いましたね」

「ボディ・リメンバー」より
「ボディ・リメンバー」より

リリコはある意味、お客さんと同じ目線に立つ人物

 そうした上で、脚本を読んだ最初の印象をこう明かす。

「最初よんだときは、迷っちゃうといいますか。

 それこそ(田中)夢さんの演じられる主人公のヨウコの話が真実なのか、虚実なのかもわからない。

 登場人物によってまったく違う風景が見えてくるようなミステリアスなドラマだと思いました。

 自分が演じるリリコに関していうと、ヨウコの証言をもとに小説を書こうとする、恋人の作家、ハルヒコとの関係や、ヨウコとの関係においても、その心情がとくに明確に表されてるわけではない。

 その書かれていないところをきちんと演じて、表現しなければならないなと感じて、気持ちが引き締まりましたね。

 あと、リリコはある意味、お客さんと同じ目線に立つ人物なのかなと。

 作品は、ミステリアスでとらえどころのない、ヨウコさんの魅力に、登場する人物はもとより観客のみなさんも惑わされ、引きこまれていく。

 その中で、リリコはハルヒコを挟むことで一歩引いたところからヨウコさんをみているところがある。

 観客のみなさんも、登場人物を介してヨウコさんをみているところがあると思うので、そういう意味で、リリコはみなさんと同じ視点なのかなと。

 だから、責任重大な役だなと思いました」

(※第二回に続く)

「ボディ・リメンバー」より
「ボディ・リメンバー」より

「ボディ・リメンバー」

監督・脚本・編集:山科圭太

脚本:三宅一平、山科圭太

出演:田中夢、奥田洋平、古屋隆太、柴田貴哉、鮎川桃果、上村梓、神谷圭介、

影山祐子

場面写真はすべて(C)GBGG Production

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事