日本一短い地下街で開催! 日本で一番「アツくるしい」婚活パーティーの実態を見た
参加者は48名。スタッフは50名超。体制もサービスも手厚すぎる「街コン!地下来ん?」とは
暑い。いや、熱い。外気温が30度を超えた5月29日の愛知県。東三河地方の蒲郡市の「蒲郡北駅前地下街」で婚活パーティーが開催された。題して「街コン!地下来ん?」である。
何がアツいのかと言えば気温ではない。30歳から45歳までの男女それぞれ24名ずつの参加者に対して、主催者である蒲郡商工会議所青年部(以下YEG)のメンバーが40名超。全員が青いポロシャツを着て、徒歩25歩で終わってしまう日本最短の地下街(詳しくはこちらの記事を参照)に集結したのだ。地下にある7店舗の店員も含めたら、参加者よりもスタッフのほうが多くなってしまう。ノリのいい乾杯の挨拶をするのは蒲郡市長の鈴木寿明さん。これはいったい何の祭りなのか。参加者は戸惑いの表情を浮かべる。祖父母まで来てしまう授業参観日のような光景だ。
参加費は2500円。男女別に3人ずつグループになり、各店舗が用意する軽食とソフトドリンクで昼食をとりながら10分ごとに席替えをした。異性とは全員と顔合わせができる。1杯500円でアルコールも注文可能。
酒の力は偉大だ。開始早々から生ビールを女性にご馳走する男性参加者もいて、地下街は一気に和やかな昼飲みの場と化した。フリータイムの前には蒲郡市の海でのSUP体験ペアチケットなどが当たる抽選会も開催。値段の割に異様なまでに手厚いサービスだ。そして、やはり多すぎるスタッフ。内情はどうなっているのかと疑問が募る。
婚活業者のスマートさも自治体主催の無難さもなし。地元の商売人たちが手作りするクセのあるイベント
「普段は僕1人で50人ほど(の街コン参加者)を見ています。こんなにスタッフが多いのはあり得ません」
巨大な蝶ネクタイ姿で汗を流しながら司会をしていた平野力成さんがつぶやいた。イベント会社に勤める彼にとって街コンの運営や司会は通常業務。YEGのメンバーになったことで、プロボノのような形で「街コン!地下来ん?」に携わっている。
平野氏の言葉で筆者はこの婚活パーティーの本質を理解した。「街コン!地下来ん?」には、婚活業者が効率的に運営してマッチングを行うスマートさはない。自治体が開催するような可もなく不可もない婚活イベントでもない。というか、小さなビルの地下駐車場ぐらいの短さの地下街で昼飲みをしながら交流するなんて、「可」と「不可」しかないと思う。だから面白いのだ。
YEGは飲食店などの自営業者が多く所属し、年齢も若め。仕事ではないのでイベントで収益を上げる必要はないが、それぞれの本業で培った得意分野を持ち寄って社会貢献活動ができる。司会などの重要な担当がない人も、地下街周辺のゴミ拾いをしたり一般客の通行を誘導したりと自然と役割分担がなされる。メンバーの親睦を深める目的もあるため、イベントなどには全員参加が基本。揃いのポロシャツを着た商売人たちがアツくるしいほど頼もしい集団を形成する。
イベント責任者は最古参店舗の三代目。「何もしないと地下街がなくなる!」
「街コン!地下来ん?」を企画したのは、地下街の最古参店舗である「ちどり」の三代目店主の斉藤与子(ともこ)さん。駅前開発の歴史によって偶然作られた唯一無二の地下街を守っていきたいという「下心」を明かしてくれた。
「去年の春にYEGに入って、いきなりイベントの責任者になりました。私はトップではない立場でサポートがしたい性格なのですが、何もしないと地下街がなくなってしまうという危機感はあります」
蒲郡北駅前地下街は蒲郡市が管理をしている。昭和の頃には、蒲郡駅前の区画整理を進めつつ、線路で分断された町の南北をつなぐ地下通路としての存在意義があった。しかし、駅前がさびれて線路が高架になった現在、北側だけわずかに残った地下街を利用する人は限られている。お世辞にも清潔で快適とは言い難い。古き良き悪き昭和の名残りである。筆者も含めてこの雰囲気が好きな人は頻繁に訪れるが、あの階段は一度も下りたことがないという市民もいる。
そこで斉藤さんは地下街を観光地化することを考えた。現状でも、昭和の時代にリアルタイムスリップしたような空間を求めて市外からやって来る客は少なくない。熱いイベントを通してより多くの人にアピールすることは、「旅人を迎える喜び」を謳う観光交流立市である蒲郡市の戦略とも合致する。
この地下街で出会って結婚するカップルが誕生したら、縁を感じて蒲郡駅前に住んでくれるかもしれない。移住者促進にもつながるだろう。あまりにリーズナブルなハシゴ酒をしてベロベロに酔っても歩いて自宅に帰れる。楽しいし安心だ。
いい店で楽しく一緒に飲める人とは結婚できるかも。酒場での出会いに乾杯!
「街コン!地下来ん?」は15時に無事に閉会した。途中のフリータイムで連絡先交換は促したが、記入方式でのマッチングなどはやらない。大人同士、酒場での自然な交流で仲良くなって欲しいということだろう。
参加者の一部は閉会後も地下街に留まり続けた。いつもより早めに夜営業を始めた各店舗に改めて入り、男女が入り混じって嬉しそうに飲んでいた。斉藤さんが理想とする光景が早くも実現しつつある。
本記事で登場する参加者(掲載許可済み)やスタッフと「一緒に楽しく飲みたい」と思ったら、ぜひ蒲郡北駅前地下街を訪れてほしい。ちどり(日曜定休)のスタッフに声をかければゆるい感じでつないでくれるはずだ。