毎日新聞が唱える「過去になかったような大改革」とは何か
発売中の月刊『創』3月号で「新聞社の徹底研究」という特集を組んでいる。その取材で今年1月中は在京6紙の現場を取材したのだが、メディアを取り巻く環境が激変していることを自覚させられた。例えば日本経済新聞は電子版の深夜の編集をニューヨークでやっているという。日本は深夜でもニューヨークは昼間だ。昔はその間に入ってくるアメリカのニュースを、夜勤の担当者が受信して対応していたのだが、今はその時間帯、日本には人を配するのをやめ、編集作業を全てニューヨークで行うようにしたというわけだ。紙の新聞では考えられないが、デジタル化とはそういうことなのだろう。紙のメディアで考えていたことが次々と覆されていく。それが今のメディア界だが、特に新聞が生き残りをかけてデジタル化を推進しているという事情もある。
そんななかで2018年、大きな変貌を遂げようとしているのが毎日新聞社だ。何しろ当事者が「過去になかったような大改革」と言っているのだ。紙とデジタルの統合編集体制をめざし、この4月以降年内いっぱい、まさに組織も含めて見直していく。その毎日新聞社がいま、何をやろうとし、何をやってきたのか。『創』3月号の毎日新聞についてのレポートの一部を公開しよう。もちろん毎日新聞だけでなく、どの新聞社でもいまや大きな改革が始まっている。それがどういう方向なのか知るためにも、『創』の新聞特集をぜひご覧いただきたい。
統合編集へ向けて組織もシステムも
《「これまでは、紙の新聞の締切にあわせてコンテンツを作り、それに加工をしたものをデジタルにも出していくという考え方でした。いま私たちが取り組んでいるのは、そういう発想を根本的に改め、コンテンツファーストと言っていますが、紙の締切の発想を超えて、コンテンツを適宜適切に配信していくという考え方です」
そう語るのは毎日新聞社編成編集担当・総合メディア戦略担当の小川一取締役だ。この何年か小川取締役は、本誌の特集でもデジタル化について熱く語り、実際に毎日新聞社はいろいろな試みや組織づくりを行ってきた。2018年はそれを集大成するような「過去になかったような大改革」を実行に移すのだという。
「2018年中に紙とデジタルの統合編集局をスタートさせます。そのためにCMS(コンテンツ・マネージメントシステム)という記事作りのシステムを全面更新する予定で、ITコンサルティング会社『フューチャーアーキテクト』と提携して、その準備を進めています。既に双方の担当部長、実務者を集めた合宿を3回実施しており、先の衆院選の時は朝の5時までフューチャーアーキテクトの方に情報のフローを見てもらいました。同社にとってもメディアのシステム開発に本格的に取り組むのはこれが初めてで、双方で激しい議論をしながら作業を進めています。
新しいシステムに全面移行するのは2018年暮れの予定ですが、その前にこの2月の平昌(ピョンチャン)オリンピックを機に新しい情報フローにチャレンジする予定です。
また組織面でも既に2017年4月に統合デジタル取材センターというのを、それまでのデジタル報道センターを拡充する形で発足させましたが、この体制を2018年4月の人事異動を経て大幅に拡充させます。デジタルのチームは編成編集局内でも20メートルほど離れた位置に置かれていたのですが、2月にはこれを紙の編集のど真ん中に置くというレイアウトの変更を行います。
4月の組織改革も大きなものになる予定です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックへ向けて東京の運動部の人員を大幅に増やさないといけないのですが、そういうことも考えて人事異動を進めます。これまで存在した各本社ごとの壁も取り払って、一体運用を進めます」
システムの更新と組織改革というふたつの改革を両輪として、2018年中に、紙とデジタルの統合編集体制を作り出すというのだ。
編集会議を早めて紙とデジタル同時配信
具体的な編集作業はどう変わっていくのか。松木健・東京本社編集編成局長に聞いた。
「これまでは紙の編集部が内容を見て、校閲を行い、そのうえでデジタルの編集部がそのコンテンツをどう使うか考えたのですが、今後は、コンテンツが上がってきた時点で校閲を行い、それを紙とデジタルがどう使うか一体となって話し合っていきます。
今まで朝刊帯では、午後3時、5時過ぎ、そして深夜の1日3回、編集会議を行っていたのですが、これは紙の新聞の締切に合わせたものでした。今後はその会議をもっと早い時間にやって、紙とデジタル双方に配信していきます。これまでは紙面編集の仕切り役である編集局次長と、締切時間や紙面割を管理する編集部長がやっていた仕事に、デジタルの編集長が加わり、3人が三位一体となって作業を行います。
紙の新聞よりデジタルで先に配信するケースも増えていますが、デジタルが読まれるのは朝と夕方の通勤退勤時間、それに昼休みですから、それにあわせた配信を行います。いずれ統合編集体制に移行することをにらみながら、2018年2月から変えていこうと考えています」
それに伴う組織変更は編集部門にとどまらないという。
「ビジネス部門についても大きな改革を行います。これまでの“広告”という部署名をなくし、第一営業、第二営業、ビジネス開発、事業という4つの部署に再編します。従来、紙媒体への出稿をベースに考えていた意識を変えていこうと思っています」(小川取締役)
これまで進めてきた「総合メディア企業」をめざす改革を、2018年は一気に加速させようということのようだ。2015年から課金を導入した「デジタル毎日」についても、システムを変えていく方針だという。
毎日新聞社でウェブサイトを作っているのはデジタルメディア局だが、それと別に2013年に編集編成局内に「デジタル報道センター」というデジタルチームを設け、また動画についてはかつての写真部を発展させた写真映像報道センターを2015年に発足させた。動画については今後、ますます取り組んでいくという。
動画ジャーナリズムと「毎日ライブ」
「私たちは『動画ジャーナリズム』という言葉を使ってきましたが、動画のコンテンツはどんどん増やしていく予定です。
例えばデスクが注目のニュースを90秒で解説する『注目ニュース90秒』というのを頻繁に配信していますが、これは録画でした。それに加えて2017年10月5日より毎週木曜の午後4時から『毎日ライブ』という動画をフェイスブックの機能を使ってライブ配信し始めました。私も時々、出演しています。生の動画配信は技術的にも少し難しいので、そのスキルを今、積み上げているところです。
こういう試みは、海外の報道機関では日本より進んでおり、毎日新聞社が提携しているウォールストリートジャーナルでは今、デジタルファーストという言い方からモバイルファーストという言い方に変わりつつあります。これだけ市民の間にモバイルが普及した現状で、そこにジャーナリズムを展開できないとジャーナリズムとしての存在を認知されないことにもなりかねません」(小川取締役)
紙とデジタルとの統合を2018年に一気に進めるということだが、もちろんそれはコンテンツを生み出す力があってこその話だ。編集編成局内には、調査報道を行う特別報道グループが存在し、活躍している。例えばイランでアフガンからの難民が兵士にされて戦場に派遣されているという国際的スクープは、取材プロセスそのものが動画として公開された。
毎日新聞社は新聞協会賞の受賞が最も多いことでも知られている。2017年には、リオ五輪の男子400メートルリレーでボルト選手が横に並んだケンブリッジ飛鳥選手に驚いた視線を向けた写真が新聞協会賞を受賞した。
「これは29回目の協会賞受賞です。2018年は平成30年を迎えて、30回目の受賞があればよいなと思っています」(同)》
『創』毎日新聞レポートからの引用は以上である。ちなみに冒頭に掲げた『創』3月号表紙は、朝日新聞社の編集フロアだ。この朝日新聞編集局も2017年12月にレイアウトの大幅変更が行われた。2018年はどうやら新聞界にあっては、かなり大きな変革の年になりそうなのだ。興味ある方はぜひ『創』の新聞特集を読んでほしい。