「防水スプレー」で咳や息苦さ、重症化も 使用法誤りの可能性
「防水スプレー」は雨降りの日に靴などがびしょ濡れになったり、汚れたりするのを防ぐために便利なアイテムです。
外出前に『玄関で靴に』『リビングでカバンに』噴きかけて使っているという人もいるでしょう。ところが、実はこれは誤った使い方です。
もし、使用中に咳や息苦しさなどの症状が現れたら「たかが咳くらい」と、そのまま作業を続けるようなことはしないでください。健康な成人でもスプレーを吸い込み、入院を要するほど重い症状をきたした例も報告されています。
今回は、身近なのに意外と知られていない「防水スプレー」の正しい使い方を改めて確認していきます。
10人に1人以上が防水スプレーを吸い込みそうになったり、吸い込んだ経験
防水スプレーを使っている最中に「咳き込んだことがある」「においで気持ち悪くなった」「スプレーを吸い込んで息苦しくなった」。
こんな経験をしたことはありませんか。
防水スプレーを使用者自身や近くにいた人が吸い込んだ、あるいは吸い込みそうになった経験について、東京都商品等安全対策協議会がアンケート調査を行いました。
対象は、東京都に居住する20歳以上の男女1,757件のうち、プレアンケート調査で防水スプレーの使用経験があると回答した1,052件です。
その結果「ある」と回答した割合は12.7%でした。つまり、10人に1人以上がスプレー使用中に吸い込みそうになったり、実際に吸い込んだ経験をしているということになりますから、防水スプレーの吸入事故を他人ごとではなく、身近に起こりうることだと認識して、適切に使用することが大事だと言えそうです。
玄関や風呂場など、屋内で防水スプレーを使わないで
ここから、いよいよ防水スプレーの正しい使い方を確認していきますが、その前にちょっとだけ自分が防水スプレーを使うシーンを思い浮かべてみてください。
”天気予報で雨の予報が出た前日に、玄関で靴とコートに防水スプレーをシューッ”
”革靴やカバンを買った店舗で、汚れ防止などに「新品のときに使うと良いですよ」とすすめられて防水スプレーを購入。うきうきしながら帰宅して、リビングでラッピングをほどき、買ってきたばかりの防水スプレーを新品の革靴やカバンにリビングでシューッ”
一見、防水スプレーを使うときの「よくある場面」のように思えるかもしれません。
それでは、これらの使い方は適切だと思いますか? それとも間違っていると思いますか?
正解はいずれも「間違った使い方」です。
「え!? どこが間違っているの」と思った人も「もちろん知っていた!」という人も、誤っている点はどこなのかを思い浮かべながら、次にお示しする防水スプレーの正しい使い方を一緒に確認してみましょう。
防水スプレーを適切に使うためのポイントは6つあります。
防水スプレーを使うときに守る6つのこと
1、必ず屋外で使用する
屋内などの換気が不十分な場所で防水スプレーを使用すると吸い込むおそれがあるためです。
2、マスクをつけて使用する
マスクをつけることで、噴霧粒子を吸入するリスクを低減できると考えられています。
3、一度に大量に使用しない
適切な方法で使用していても、一度に大量に使うと健康に影響がおよぶ可能性があるためです。
4、顔の近くで使わない
スプレーが顔の近くまで届き吸い込むおそれがあるためです。
たとえば、靴などにかがみこんでスプレーをするときには対象物に顔を近づけすぎないなどの注意が必要です。
5、人、特にこどものそばで使用しない
スプレーの使用者のみではなく、周りにいる人も吸い込むおそれがあります。特にこどもは大人よりも体が小さく健康被害を受けやすいためです。
6、火気のそばで使用しない
引火のおそれがあります。
防水スプレーを安全に使うには、これら6つのポイントを守ることが大切です。
さて、この6つのポイントを踏まえて、冒頭の防水スプレーの使い方のどこが誤っていたのかを一緒に考えてみましょう。
誤りは玄関やリビングなどの屋内で使っていた点です。
なぜ室内での使用がNGなのかというと、換気が不十分な場所で使用すると、局所的にスプレーの溶剤などの濃度が高くなって吸い込む量も多くなり、より強い健康への影響が現れるおそれがあるためです。
ところで、ベランダなどの屋外で防水スプレーを使っている人は「外だから大丈夫」と思うかもしれません。
しかし油断は禁物です。東京都が作成した「防水スプレーを安全に使いましょう」というパンフレットに、外で防水スプレーを使用中に風向きが変わってスプレーを吸い込んだ事例や、風が強い日に風向きに気をつけながらベランダでスプレーを使っていたが急に風向きが変わって咳の症状が現れた事例が紹介されています。
したがって、屋外で使っているときにも、風向きに気をつけて風上から風下に向かって使用し、スプレーを吸い込んだり、目に入ったりしないように注意する必要があります。
「咳」「気分が悪い」体のサイン、どうか無視しないで
防水スプレーを使っていて咳などの体調の変化が現れたときにはどうしたら良いのでしょうか。
日本中毒情報センターは万が一スプレーを吸い込んだりした場合には、同センターや医療機関に相談するよう呼びかけています。また、東京都は「防水スプレーを安全に使いましょう」というリーフレットで、病院に行ったほうが良いかどうか迷ったときの相談窓口として、東京消防庁救急相談センターを紹介しています。
応急処置の方法としては、日本エアゾール協会防水スプレー連絡会・小委員会が作成した「家庭用エアゾール防水スプレー製品等の安全性向上のための自主基準」に次のように記載されています。
万が一防水スプレーを吸い込んだときの応急処置
●万一多量に吸い込んだ場合には、新鮮な空気のもとに移動し、気分が回復しないときは医師の診察を受けてください。
●眼に入った場合は、こすらずに大量の水で洗い、医師の診察を受けてください。
●肌にかかった場合は、すぐに石けん水でよく洗ってください。
●使用中に異常を感じた時は使用を中止し、医師の診察を受けてください。
※引用:「家庭用エアゾール防水スプレー製品等の安全性向上のための自主基準」(一般社団法人日本エアゾール協会防水スプレー連絡会・小委員会)
大切な靴やカバンを水や汚れから守るために防水スプレーは便利なアイテムですが、誤った使い方をすると健康に影響がおよぶおそれがあります。
使用前には製品の「使用上の注意」をよく読み、正しく使って、安全・安心に活用していきたいですね。
※参照
- 家庭用防水スプレー製品等安全確保マニュアル作成の手引(第3版)(厚生労働省)
- 防水スプレー等の安全対策東京都商品等安全対策協議会報告書(東京都生活文化局)
- 防水スプレーを安全に使いましょう(東京都)
- 家庭用エアゾール防水スプレー製品等の安全性向上のための自主基準(日本エアゾール協会防水スプレー連絡会・小委員会)
- 2020年3月北海道薬剤師会「防水スプレーを吸い込む事故に注意しましょう」(全国健康保険協会)
- 東京都商品等安全対策協議会報告防水スプレー等の安全対策「必ずマスク着用」表示の徹底、安全確認試験の継続的な実施などを提言(東京都)