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子どもが産まれる前に夫婦で考えておくべきこと~両親学級で伝えたこととは~

吉田大樹労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表
胎児に呼びかけるだけではなく妊娠前に夫婦でしっかり対話を。(写真:アフロ)

先日、都内の保健センターで両親学級の講師を務めた。最近では、市町村の保健センターや病院で母親学級だけではなく、父親を含めた形の両親学級も増えてきた。しかし、沐浴や妊婦体験などの表面的なワークショップで終わってしまうものも多い。もちろんそれが必要がないというわけではなく、せっかく父親となる男性(プレパパ)が来る機会。働き方の問題や家事・育児の関わり方、夫婦の在り方なども考える機会にし、残りわずかな2人での時間を有意義なものにできればと考える。

そこで、もうまもなくパパ・ママになる約30組の人たちを前にして、「これだけは知ってほしい」「これだけは考えてほしい」という思いを伝えた。その中で特に伝えたかったことを要約して紹介したい。

自分の人生は誰のものなのか

まずプレパパ・プレママたちにこんな質問をしてみた。

「この中で、自分の人生は自分のためのものだと思っている人はいますか?」

すると、手が挙がったのが3分の1ほど。それもちょっと躊躇しながら手を挙げる人がほとんどだった。続いて、こんな質問をした。

「では、子どもの人生は子どものためのものだと思う人はいますか?」

すると今度は、先ほどとは違い、ほぼすべての人が「当然」というように手を挙げた。しかし、ここで矛盾があることに気づいたのか、参加者が騒めいた。

「子どもには『自分のために生きて』と言っておきながら、親は自分のために生きてはいけないのでしょうか?いやいや、そんなことはないはずです。自分の人生は自分のためのものであるべきです」

しかし、忘れてはならないのが、「自分のためだけの人生ではない」ということだ。

つまり、自分の人生とは、自分のための人生であると同時に、生まれてくる子どものためのものであり、一緒に子育てをするパートナーのためのものである、という感覚を持つことが必要だということ。

また反対に、「自分の人生は子どものためだけのものではない」ということを理解することが大事。それはエゴに過ぎない。子どもの人生の選択権はあくまでも子どもの側にある。それを捻じ曲げようとすると、子どもの心の成長を阻害させることになりかねない。

2人だけの間にやっておくべきこと

子どもが産まれてしまうと、子ども中心の生活になってしまい、夫婦でゆっくりと話し合う時間が少なくなってしまいがち。だからこそ、子どもが生まれる前の2人だけのときに話し合えることはどんどん話し合うことが大事。

「コミュニケーションを取って、取りすぎるということはありません」

なかでも話し合ってほしいのが、子どもが産まれた後の働き方をどうするのかということだ。

「長時間労働で忙しい男性がまだまだ多い状況。果たして忙しいままでいいのでしょうか?それではダメだとしたら、いまのうちに何かしらの手を打っておくべきだと思います」

会社を説得して子育てへの関わりを増やすために残業をセーブしたりするようにすることも一案。場合によっては、いまの会社を諦めて転職するという選択もあるかもしれない。産後の夫婦の方向性は、産前にどんな話し合いをしたのかが1つのカギとなる。

その働き方の見直しのきっかけとして、パパが育児休業を取得することは重要だ。

「法律上会社には1か月前に育児休業を取得する申し出を行わなければならないため、1月に生まれるカップルが多い今回の両親学級の中ではギリギリのラインですが、その効用は働き方の見直しにとどまらないということです。妊娠・出産というイベントを経ない男性にとって、育児休業を取得することにより、子どもの成長を間近で見ることができます。間近にみることで、子どもへの愛情を膨らませ、父親としての自覚を芽生えさせる効果もあります。さらに、2人目、3人目を考えている場合は、パパが上の子の面倒をみることで、ママは産まれてきたばかりの子どもの面倒をしっかりとみることもできます。特に、出産後母親のホルモンバランスが不安定になる中で、ママだけが子育てをするのはリスクが大きいということを知ってほしい。パパが子育ての大変さを理解することで、夫婦のパートナーシップを高める効果もあります」

父子旅行で子育てにメリハリを

働き方の見直しができたとしても、明日から残業がゼロになり、年休がバンバン取れるようになるのは極めて難しい。

「そこで、提案しているのが父子旅行です。休みのときに、子どもとの時間を増やすことで、父子の絆も深まります」

旅行とは言え、いきなり1泊2日の旅行をするわけではない。最初は、近場で30分でもいい。ママもパパに任せることに最初は不安を覚えるかもしれないが、その30分無事に帰ってくれば不安は次第に解消されていくはずだ。

パパにとっては、普段ママがいると頼ってしまいがちなことが、全部自分が引き受けなければならなくなるので、その分子育てのスキルも上がる。

「ミルクを飲ませたり、おむつを交換したり、そして、子どものあやし方や子どもとの遊び方を父子旅行の中で学んでいくことができます。そして、ママにとっても、父子旅行の時間はリフレッシュの時間にできます」

美容院、買い物、たまっていた家事などもあるかもしれないが、何よりも自分の心に余裕を生む時間にもなる。

母親が子育てという張り詰めた時間から解放され、自分を見つめ直すこともできるはず。冒頭の「自分のための人生」に立ち戻り、自分がやりたかったことは何かを振り返ることもできる。その時間が充実することで、子育てに対するメリハリが生まれ、子育てもより楽しくなっていくことだろう。

「父子旅行も1時間、2時間、3時間と増やしていき、最終的には1泊2日の旅行ができるようになれば、パパも子育てへの自信がつき、ママの負担感も減っていくはずです」

子育ては楽しいけど、しんどい。しんどいけど、楽しい。そういうものだ。ママだけではなく、パパもその境地に達することができたら、夫婦としての愛情も意識も高まるのではないだろうか。

「自分は3児のひとり親になってしまったけれど、子育ての問題において夫婦で対立することもないという点では実は精神的には楽な面もあります。けど、家事も育児も仕事も全部自分で引き受けなければならないのは正直めちゃくちゃしんどいです。脳みそがぐちゃぐちゃにかき回される日々。2人でやったほうが絶対に楽に決まってます。さぁ、皆さんはどちらを選びますか?」

産後の検診時にすでにシングルという事例も

3組に1組は離婚してしまうという時代。当然、「離婚する予定の人はいますか?」という問いに、手を挙げるものはいない。しかし、保健センターに6カ月検診や1歳児検診に際に、すでにシングルになって来館するママも散見されるという。

愛し合って夫婦になったと言えども、その関係性は多種多様だ。最終的に愛情が無くなってしまうことも残念ながらありうる。しかし、仮面夫婦状態を何十年も子どもに見せつけるよりは、きっぱりと別れて、お互い別の道でイキイキと生きたほうがいいというのが持論だ。

しかし、ひとり親の約半数が貧困状態にある日本。子どもが小さければなかなか残業ができるような働き方ができないため、父子家庭であれば収入を大幅に減らしたり、職がないまま母子家庭になれば非正規でしか勤められないという場合も多い。さらに、養育費も8割が支払われていない状況だ。

両親学級でこれからパパ・ママになる方たちにここまで考えさせるのは少々酷かもしれないが、問題意識は持っておいたほうがいいだろう。こうした場が増えるように市町村の保健センターや産科の病院にはお願いをしたい。

労働・子育てジャーナリスト/グリーンパパプロジェクト代表

1977年7月東京生まれ。03年3月日大院修士課程修了(政治学修士)。労働専門誌の記者、父親支援団体代表を経て、16年3月NPO法人グリーンパパプロジェクトを設立。これまで内閣府「子ども・子育て会議」委員、厚労省「イクメンプロジェクト推進委員会」委員を歴任。現在、こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ち部会」委員、「こどもの預かりサービスの在り方に関する専門委員会」委員、東京都「子供・子育て会議」委員などを務める。設立したNPOで放課後児童クラブを運営。3児のシングルファーザー。小中高のPTA会長を経験し、現在鴻巣市PTA連合会前会長(顧問)。著書「パパの働き方が社会を変える!」(労働調査会)。

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