「ここは天国」都会にほっとする空間づくりを。増加する「都市農民」
「ここはまさに天国だね。どの場所にも共同農園はあったほうがいいと思う」。
そう話すのは植物の種子を保存するノルウェーのネットワークKvannに所属するアンドリュー・マックミリオンさんだ。
コロナ渦で同団体の会員数は2倍に急増しており、自宅で種から野菜などを育てることに関心を持つ市民がノルウェーでは増えているという。
ノルウェーの首都オスロにはフィヨルド開発地区という都市開発が進む場所がある。
高級エリアでもあり、灰色のビジネスオフィスが並ぶ中、中央駅から歩いて15分ほどすると、急に緑色の畑が広がる空間がある。
ローサ―テルと呼ばれるこの場所は都会のど真ん中にある「市民の畑・農園」ともいえる。2011年にアートプロジェクトとして始まり、現在は調理可能な植物の栽培・収穫や、生ごみをたい肥とするコンポストをするなど、小さなパン工房もある。
ご近所の人々は「都市農民」となり、土に触れ、野菜の栽培を楽しむ。都市の緑化計画の一部として今注目を浴びている現象のひとつともいえる。
現在はエコ週間でノルウェー各地でオーガニックの食生活を祝うイベントが開催されており、9月23日の開放日に現地を訪れた。
この日の夕食の食材を畑で収穫してきたシッリさんは、初めてこの場所を訪れた。「自転車で通りかかって、何だろうと気になっていたんです。ちょうどイベントがあるというのでボランティアとして参加しました」
「都市の中にこのような場所があるなんてクールだし、普通ではない空間にきた感じがします。ここでならソーシャルディスタンスもとれるので安心」。
「私は前にも来たことがあって、畑に種を植えたり、野菜を収穫したりして手伝っています」と話すのはシグリさん。
ソフィさん、ルイーセさん、ジュリスさんはオスロ大学に通う大学生。今はほとんどがオンライン授業となっていてキャンパスに行くことはない。
「教育現場はもともとデジタル化が進んでいたから、コロナ渦のオンライン勉強で疲れるということはそれほど感じていません。でも同級生と会う機会は減る。私たちは青年団体に所属していて、こういう場所があれば友人とも会えるので嬉しい」と3人は話す。
夕食には味噌を使った野菜スープも出てきた。ノルウェーでは最近になって日本語で「味噌」という言葉を理解する人や取扱店も増えた。
ここでは毎週水曜日になると市民がボランティアとして集まり、畑で収穫などをして一緒に夕飯を食べる。
近くに住むマーニャさんは、今は離れて暮らしている娘と毎週ここで待ち合わせてご飯を共にする時間を楽しみにしている。「仕事の後は疲れているけれど、ここに来るといい気分転換になります」と話した。
このエリアのすごいところは、都会の中心部で起きている光景とは思えない、灰色のビジネス街と緑色の畑のコントラストだ。馬やニワトリがいることもあれば、王室メンバーや政治家が視察にくることもある。
豊富な経験と知識を持つ農家や団体とも交流することができる。「これから自分でも作物を育てたい」という都会育ちの人にとっても、敷居の低い体験の場となる。
コロナ渦で農業への関心は、より一層高まりそうだ。
Photo&Text: Asaki Abumi