Yahoo!ニュース

ユナイテッド乗客おろし航空業界の問題点

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です!

米ユナイテッド航空の乗客引きずり下ろしの映像はインパクトがありすぎた。オーバーブッキング対応であそこまで引きずりおらされるのは衝撃的だったからだ。しかも、ユナイテッド航空側の社員を乗せたい理由によってだからひどいものだと感じる。

何よりも、映像の中での「オーマイゴッド!」の声が現場での異常さを物語る。誰もがスマートフォンで映像を撮影し、証拠を残せる時代となったからこんな映像がすぐに公開され、それがマスメディアによってさらに拡散される。

もはや町中や店舗では監視カメラ映像、タクシーはドライブレコーダー、そして機内には乗客カメラ。衝撃映像は、今日もどこかで撮影されアップロードされ、共有され、拡散される。

8年前のUSエアウェイズは静止画だった…

ハドソン川の不時着水の第一報はフェリー船の乗客から
ハドソン川の不時着水の第一報はフェリー船の乗客から

今から8年前の2009年のUSエアウェイズのハドソン川不時着水事故は、iPhone経由でTweetされた写真によって乗客の無事が確認できた。フェリー船にたまたま居合わせて写真をtwitterにアップロードした乗客は、30分後にはCNNがコンタクトを取り、生放送でCNNに音声で出演し、実況レポーターとして世界中に「乗客は無事」とのレポートを行った。この時、たまたまテレビで見ていた筆者は、当事者視点のスクープの時代を予見した。そう、もはや通信社の映像のほとんどは、たまたま現場にいた人の映像だらけになっている。現在だったら4Kクオリティのスマホ映像が撮影されていたことだろう…。かつては、普段からカメラやビデオを持ち歩く人は稀有な存在だ。しかし、今やすべての人が「スマートフォン」という映像機器を24時間肌身離さず持ち歩いている時代だ。何か異変があればすぐに、世界中に伝搬される時代となった。

ユナイテッド航空の自主ルールの飯櫃さ

今回のまるで荷物のごとき、嫌がる乗客をひきずり下ろす映像が話題になるが、むしろ問題とすべきところは、それができてしまう航空業界やユナイテッド側の自主ルールではないだろうか?そもそも、「オーバーブッキング」なんて慣例そのものがおかしい。座席を予約しているにもかかわらず、自社の合理化のために乗客にお金で示談する…。

400ドル(約4万4000円)から最大1350ドル(約14万8500円)まで

オーバーブッキング問題の対応として、航空会社がまず最初にやるべきは、後のフライトに移ってもらうために乗客に何かを提示することだ。9日夜の乗客には、400ドル(約4万4000円)とその夜のホテル宿泊と翌日午後のフライトが交換条件として提示された。(中略)この時点でユナイテッド航空は、別の乗客を選んで降ろすか、提示額を最大1350ドル(約14万8500円)まで引き上げることもできた。このような場合に誰を残すか誰を降ろすかは様々な条件で判断するが、頻繁に利用する得意客(フリークエント・フライヤー)や高額なチケットで乗っている客は優遇されると、ユナイテッド航空の広報担当は確認した。ユナイテッド航空は規定上は、降機を拒否した男性を無理やり降ろさせる権利がある。その上での対応手続きは、同航空の運航指針に定められている。しかしこのようなケースはきわめて珍しい。

出典:なぜこんなことに? 米ユナイテッド航空はなぜ乗客を引きずりおろした 

そう、オーバーブッキングの時にはこのようなやりとりが行われ、それでも応じきれない時には、エコノミーでメンバーシップを持たない人からランダムに選ばれるという。そして、そう、たまたま、いつものエアラインでなく選んでしまい。拒否をしても降ろされる権利を行使されてしまうというのだ。ハイジャックの犯人でもなければ、人質の救出劇でもない。運行サービスの規定で契約しているにもかかわらず、このような扱いがあることはオーバーブッキング体質に影響を与えそうだ。今回の件で、ユナイテッド航空が、最大1350ドルまで用意していることが明るみになったことで、400ドルで応じる乗客はいなくなるだろう。いや、むしろ、自分の座席を直前にまでオークションをかけるということも国内線であれば簡単にできてしまう。たまたまキャンセル便で待つ時でも各航空会社のメンバーシップでない時には、ひどい扱いを受ける。2便3便待てども、メンバーが優先で、正価で乗ろうとしても乗れないのだ。思わず他の乗客と勝手に交渉したくなる。

ユナイテッド航空というよりも航空業界の問題

オーバーブッキングを取らないと採算があわない…のではなく、むしろメンバーシップだと気軽にキャンセルできてしまい、ペナルティを取らない航空業界そのものが問題ではないだろうか?キャンセル料が発生し、ポイントが減れば飛行機の便予約に慎重にならざるをえない。とりあえずの予約がなくなれば、オーバーブッキングをする必要性も無くなる。これはユナイテッド航空というよりも航空業界の問題だろう。万一の時には、飛行機にも観光バスのような補助席を数席用意すればいいのではないか?また、荷物の重量を気にするのならば100kgオーバーの人にもオーバーチャージを本当は施すべきだろう。それだけ重量がコストに跳ね返ってくる乗り物なのだから…。ショッキングな映像による問題提起だったが、飛行機会社のサービスそのものを根底から考えなおすひとつの要因として航空会社全体で自社のメンバーシップだけに目を向けることの不合理性に気づいていただきたい。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

神田敏晶の最近の記事