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全米OPテニス:勝つ夢しか見ない大坂なおみは、憧れのセリーナが待つ決勝の舞台で夢の“遂行”を狙う

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

■準決勝 ○大坂なおみ 6-2, 6-4 M・キーズ■

「私は、負けるために夢は見ないわ」――。

 いつものはにかんだような笑みとともに、小さな声でこぼした一言。しかしこの言葉には、大坂なおみという選手が持つ、万華鏡のようにカラフルで魅力的な人間性が凝縮されているようです。

 グランドスラムで優勝するなら、最初は全米オープンが良いと言っていた彼女。子どもの頃から描いていたその夢の、対戦相手はいつもセレナ・ウィリアムズでした。

「夢の中の対戦では、どっちが勝ったの?」

 準決勝のマディソン・キーズ戦を制し、夢の中に足を踏み入れた20歳に、会見の席で質問が飛びます。その時の彼女の答えが、冒頭に記した一言でした。

 コーチのサーシャ・バインが「イノセント(無垢)」と形容し、米国のベテラン記者が「時に脆いと思われるほどに、繊細」と記した大坂の人となり。しかし同時に、コーチは彼女を「Killer Instinct=殺し屋の本能」の持ち主だとも言います。

「それは誰もが持っているものではない。例えば僕にはない。一部の人だけが持って生まれた資質……与えられたギフトだということを、彼女には説明したんだ」。

 

 その「一部の人だけが持って生まれた資質」を、彼女は準決勝のコートで示します。屋根が閉まり、暗転したスタジアムの中でカクテル光線に照らし出されコートに歩み出た彼女は、「とてもうれしかった」と言いました。

 第1セットの第3ゲームで瀕した3連続ブレークポイントの危機、そして第2セットの第2ゲームでの8度のデュース――試合の分岐点になっただろうそれらのゲームの重要性を、大坂は「Killer Instinct」で嗅ぎ分け、そして切り抜けます。

 敗れたキーズは試合後、「自分が悪いプレーだったとは全く思わない。ただ2つのゲームで、私は完璧なテニスができなかった。それだけ」と言います。さらに、「今回の大坂は過去の対戦時と何か違ったか」と問われると、昨年の全米準優勝者は間を開けずに返答しました。

 「いつもと違ったプレーだったかはわからない。ただ今日の彼女は、決めるべき場面で、やるべきことを“execute”した」。

 “execute”とは、計画や任務を“遂行する”という意味で主に用いられる言葉。まさにこの日の大坂は、Killer Instinctを発揮し、遂げるべきミッションを実行したのです。

 スコア以上の接戦を制したその先の、決勝の舞台で彼女を待つのは、テニスに出会ったその時から、憧憬の目を向け続けてきたセレナ・ウィリアムズ。

 「負ける夢は見ない」彼女は、夢を“遂行”するために、夢のステージへと進んでいきます。

※テニス専門誌『スマッシュ』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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