仮説上の現象「恒星の完全崩壊」が実在する証拠を発見!恒星大量消滅事件の謎の解明へ
どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。
今回は「恒星消滅事件と、完全な崩壊を遂げる恒星」というテーマでお送りします。
ドイツのマックスプランク天体物理学研究所などの研究チームは、「VFTS 243」という非常に特殊な連星系を研究し、その成果を2024年5月に発表しました。
研究の結果、超大質量星が「完全な崩壊」と表現される仮説上の現象を起こすという、これまでで最強の証拠を提示することに成功しています。
またこれまでに、恒星が短い期間で突如消滅するという観測事例が数百例もあり、大きな問題となっていましたが、新発見はその問題の解決に繋がる可能性もあります。
本記事では、恒星消滅事件に触れ、その後最新の分析について解説していきます。
●恒星消滅事件
太陽のような恒星という天体は、進化の過程で明るさが変化したりしますが、寿命が数百万年から十数兆年もあり、恒星の進化によって明るさが変化するペースは非常にゆっくりとしたものであると考えられています。
中にはそれ以外の様々な理由によって明るさが短期的に変化する「変光星」に分類される恒星も多数存在しますが、恒星自体は安定して存在しており、突如として星そのものが消滅することはありません。
また、大質量の恒星の場合、寿命が尽きると超新星爆発という大爆発を起こし、短期間で姿を消しますが、数か月にわたってとてつもないエネルギーで輝くため、超新星を起こして消滅した星を見逃す可能性は低いです。
このように安定した存在であるはずの恒星が、超新星のようなまばゆい輝きを放たずに突如として消えるなどという現象が発生したらどうでしょうか?
「Vanishing and Appearing Sources during a Century of Observations(VASCO)」というプロジェクトでは、恒星がたった100年という宇宙スケールでは一瞬の間で消滅する瞬間を捉え、その原因を解明することを目的としています。
VASCOは米国海軍天文台が70年前に撮影した最も古い観測記録と、Pan-STARRSと呼ばれるプロジェクトによる最近の観測記録とを比較し、さらに天の川銀河内にある個々の星々の位置や速度などのパラメータを明らかにすることを目的としたガイア計画で得られたデータを用いて再確認も行ったところ、実に800以上の恒星が原因不明の消滅を遂げたことが明らかになりました。
それらの多くはまだ消滅したことが確定しているわけではなく、今後より詳細な研究が必要ですが、本来安定した存在であるはずの恒星という天体が、超新星の痕跡もなく突如消滅していたとしたら、それは本当に興味深い現象です。
●完全な崩壊
恒星消滅事件は、大質量星の「完全な崩壊」により消滅したという説が有力視されています。
○大質量星の一般的な最期
太陽の8倍以上の質量を持つ大質量星では、その中心で核融合反応が最終段階まで進むと「鉄」という元素が形成されます。
鉄は安定しているので核融合の燃料とならず、それ以上反応が起きなくなります。
そもそも恒星という天体は、核融合の膨張力と自身の重力で釣り合うことで形を維持していますが、末期の大質量星の核で鉄が形成されると、星の核が自身の重力で急激に圧縮され、崩壊します。
大質量星の核で重力崩壊が起こると、一般的には超新星爆発が発生し、星の外層を構成していた大量の物質が周囲に飛び散ります。
○特殊な「完全崩壊」の仮説
しかし理論的には、一部の超大質量星において重力崩壊の結果ブラックホールが形成された瞬間、周囲の物質もそれに飲み込まれてしまう場合があると考えられています。
このような仮説的な現象は「超新星の失敗」や「完全な崩壊」と表現されます。
この場合、一般的な超新星ほどの光や物質を周囲に放出しないため、それほど明るく輝きません。
このように大質量星が完全に崩壊したと考えると、前述の恒星消滅事件を説明できるかもしれません。
あくまで完全な崩壊は現時点では仮説上の現象であり、それがどのような条件で発生するのかなど、この現象については謎が多いままです。
●完全な崩壊が実在する証拠を発見
ドイツのマックスプランク天体物理学研究所などの研究チームは、「VFTS 243」という非常に特殊な連星系を研究し、その成果を2024年5月に公表しています。
研究の結果、超大質量星が仮説上の現象である「完全な崩壊」を実際に起こすことを示す、これまでで最強の証拠を得ることに成功しました。
VFTS 243は、地球から16万光年ほど離れたお隣の銀河「大マゼラン雲」に存在する天体で、太陽質量の25倍の大質量星と、太陽質量の10倍のブラックホールが10.4日周期で公転し合う連星系です。
VFTS 243の公転軌道は綺麗な円形であり、分析の結果、これはブラックホールを形成したかつての大質量星が、完全に崩壊することでブラックホールを形成したことを示唆していると判明しました。
超新星爆発時に放出された大量の物質の放出方向に偏りがあると、形成された中性子星やブラックホールといったコンパクト天体は、その反動で大きく加速されます。
このような現象は「キック」と呼ばれます。
生成されたコンパクト天体が中性子星であれば、超新星爆発時のキックによって獲得する速度は100~1000km/sにもなります。
さらに重いブラックホールが形成された場合はキックで獲得する速度はもう少し落ちますが、それでもかなりの速度になるはずです。
しかし完全な崩壊においては物質をほとんど放出しないため、形成されたコンパクト天体はほとんどキックされないと考えられています。
かつて存在していたより大質量の恒星が崩壊し、ブラックホールとなった際にキックが発生していれば、ブラックホールの軌道が乱れ、楕円形となるはずです。
研究チームによると、VFTS 243の綺麗な円形の公転軌道を説明するには、キックによるブラックホールの加速は10km/s以下である必要があり、特に4km/sである可能性が最も高いそうです。
これは一般的な超新星爆発時のキックによる加速より遥かに小さい値であるため、よってこの円形の軌道はかつての大質量星がブラックホール形成時に超新星爆発に失敗し、完全に崩壊したことを示す強力な証拠となります。
今回の研究により、VFTS 243は大質量星の「完全な崩壊」という仮説上の現象の存在を裏付ける貴重な実例となりました。
今後この現象を含めた恒星の進化のシナリオを理論化する上で、VFTS 243の存在が重要視されるでしょう。