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無敗の世界ヘビー級挑戦者候補、コウナキが番狂わせのKO負け 〜ブルックリンでわかった3つのこと

杉浦大介スポーツライター
Photo By Sean Michael Ham/ PBC

3月7日、ブルックリン バークレイズセンター

WBA世界ヘビー級挑戦者決定戦

ロバート・ヘレニウス(スウェーデン/36歳/30勝(19KO)3敗)

TKO4回1分7秒

アダム・コウナキ(ポーランド/30歳/20勝(15KO)1敗)

ポーランド人コンテンダーの真価

 衝撃的な形で試合が終わった瞬間、コウナキの支持者ばかりだった場内は静かになった。

 序盤は優位に戦っていたポーランドの人気者が、4回にカウンターの右を浴びてダウンを喫する。デビッド・フィールズ・レフェリーにはスリップと判定され、ダメージが残ったまま即座に試合再開されたことは災いとなったのだろう。

 直後、ヘレニウスの左フックでコウナキは弾け飛ぶようにまたダウン。リングサイドのファンからの悲鳴が飛び交う中、追い討ちの連打で足をふらつかせるコウナキを見て、レフェリーはやむなくストップをかけた。

 「僕の夜ではなかった。これがボクシング。タフなスポーツだ。今日は物事が自分の良い方向に転ばなかった。これも良い経験にして、また戻ってくるよ」

 初黒星に落胆を隠し切れなかったコウナキだが、それでも舞台裏では記者たちの質問に辛抱強く答えてくれた。

 こんな真摯な姿勢とアグレッシブなファイトスタイルゆえに、30歳のポーリッシュはいわゆる“ローカル・フェイバリット”になりつつあった。それでもディフェンスの拙さは以前から指摘されており、早期の取りこぼしを心配する声は関係者から出ていたのも事実。そんな背景ゆえに、すでに大きく峠を超えたヘレニウス相手の敗北は衝撃的ではあっても、大きな驚きではなかった。

痛恨の敗戦後、控室前で報道陣の質問に答えるコウナキ 撮影・杉浦大介
痛恨の敗戦後、控室前で報道陣の質問に答えるコウナキ 撮影・杉浦大介

 コウナキはエキサイティングで、精力的で、技術的に限界があるヘビー級コンテンダー。今後もノーガードの打ち合いでファンを沸かせ続け、同時にまた手痛い負けを味わうこともあるのだろう。

人気者が初黒星を喫したことの意味

 昨年8月のクリス・アレオーラ(アメリカ)戦で8790人を動員したのに続き、今回もコウナキがメインのノンタイトル戦に8811人が集まった。観衆のほとんどはポーランド人かポーランド系。赤に染まった場内には応援ソングも鳴り響き、母国のヒーローを本当に一生懸命に応援する姿が印象的だった。

 コウナキはこれが10度目のバークレイズセンター登場。その過程で、なぜか地元人気を獲得できなかったダニエル・ジェイコブス(アメリカ)あたりよりも遥かに上の興行力を確立するに至った。PBCとアル・ヘイモンがこの選手を優遇したのも理解できる。だからこそ、無敗の勢いのままタイトル戦まで持っていけなかったことはマネージメントサイドにとっても痛恨に違いない。

 「うまくいかなかったな・・・・・・」

 コウナキの初のKO負け後、興行に携わったある関係者は思わずそう呟いていた。

 昨年6月、ジャーレル・ミラー(アメリカ)の薬物違反が発覚した後、コウナキはアンソニー・ジョシュア(イギリス)の代役挑戦者に名前が挙がった。結局、コウナキ側は準備不足とPBCの引き止めがゆえにこのオファーを拒否。おかげでアレオーラ戦、ヘレニウス戦ではPBCから相場以上の報酬を受け取ることにもなっている。

 ただ、ここでの敗北で、さらなるビッグマネーファイトのチャンスはとりあえず霧散。今さらながら、コウナキは500〜700万ドルが手にできたジョシュア戦を受けなかったことへの後悔を感じているだろうか。ヘビー級のマッチメイク、マネージメントの難しさを改めて示す一例ではあるのかもしれない。

崩れたPBCのシナリオ

 わずか3ヶ月ほど前まで、デオンテイ・ワイルダー(アメリカ)、アンディ・ルイス(ルイス)を抱えるPBCはヘビー級4団体王座をすべて保持していた。黒人層の期待を浴びるワイルダー、メキシコ系初のヘビー級王者となったルイスは強力タッグ。ワイルダーを軸に据え、ルイス、コウナキといった人気選手を順番にぶつけていくのがドリームシナリオだった。

 フューリー 、ルイス、コウナキ、そしてジョシュアといった各国、異人種の人気者を倒していけば、ワイルダーは現在とは比べ物にならないくらいのスーパースターになっていただろう。ところがーーー。

 昨年12月、ルイスはジョシュアとの再戦に完敗してWBA、IBF、WBO王座から陥落。さらにご存知の通り、2月22日にはWBC王者だったワイルダーもタイソン・フューリー(イギリス)との再戦に完敗を喫し、PBC傘下のタイトルホルダーはいなくなってしまった。加えてここでコウナキも敗れ、昨年11月にワイルダーにKO負けしたルイス・オルティス(キューバ)も含め、PBCが抱えるヘビー級の看板選手たちはすべて前戦で敗北を味わったことになる。

 ルイス対ジョシュアの再戦はやらなければいけない試合であり、ワイルダー対フューリーもワイルダーに十分勝機ありと思われていた一戦だった。一連のカードを振り返り、PBCの方向性が間違っていたとは思わない。ただ、思うような結果が出なかったということ。この流れは、今も昔も変わらず、ギャンブル性も強いヘビー級の特色を象徴しているとも言えるのだろう。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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