エポスカード特許を巡る訴訟の報道されていない争点について
「【スクープ】丸井G元役員がエポスカードを巡る特許で古巣を提訴、発明対価90億円と主張」というニュースがありました。「丸井グループの元常務執行役員が、傘下のエポスカード社長在任時に生み出した発明の対価(約90億円)の一部支払いを求めて同社を東京地方裁判所に提訴したことが...分かった。」ということです。
青色発光ダイオード特許の中村修二博士やオプジーボ特許の本庶佑博士のケース等、巨額の利益をもたらした特許の発明者への対価に関する訴訟がたまにあります。しかし、冒頭の記事中にも書かれているように、ビジネスモデル特許(正確に言うと「ビジネスモデルを実現する情報システムの特許」)の対価が訴訟で争われることは珍しいかもしれません。
対応する特許を検索してみたのですが、記事中の原告となった役員(瀧元俊和氏)を発明者とする特許は発見できませんでした。エポスカードを出願人として、冒頭記事中の情報から2014年に出願された特許を検索すると、該当特許は特許5663696(「ポイント管理システム」)と思われます(この特許の内容については別途解説するかもしれません)。しかし、この特許の発明者としては全然別の人の名前がクレジットされています。
中村修二博士が青色発光ダイオード特許の発明者であり、本庶佑博士がオプジーボ特許の発明者であることには疑いの余地はありません(貢献度がどれくらいかという点は対価の算定に関係してくるので重要な論点ですが)。そう考えると、今回のケースはこれらの過去のケースとは様相が大部異なりそうです。対価の算定以前に、そもそも真の発明者は誰かという話が重要になってきます(細かい話ですが、平成26年の出願なので平成27年の特許法の職務発明規定の改正は効いてきません)。なぜか、冒頭のダイヤモンドオンラインの記事ではこのあたりの事情にまったく触れていません(有償記事の方で触れているのかもしれませんが)。
発明者の明確な定義は特許法には規定されていませんが、一般には、「発明者とは、当該発明の創作行為に現実に加担した者だけを指し、単なる補助者、助言者、資金の提供者あるいは単に命令を下した者は、発明者とはならない」とされています。そうなると、今回の訴訟の原告の役員は、自分が実際に技術的アイデアを創作したことを立証しなければなりません。メーカーや研究開発企業であれば、ラボノート等で立証する仕組みを用意しているところもあると思いますが、サービス業ですと2014年当時の記録が残されていない可能性も十分にありそうです。いずれにせよ、特許法関連の論点満載で要注目の訴訟ではあります。