球児を守りたい…完全ナイター&サスペンデッド導入へ、夏の甲子園を続けるためにできることから改革を
育った環境が違うと、こうも違うのかと不思議な感覚になる。アメリカで育った長男が夏季休暇を利用して日本に一時滞在していた。右投げの私が左腕投手の息子に教えることは皆無に等しいが、現役時代に家庭を空ける時間が多かったこともあって、時間が許す限りは練習に付き合った。湿度の高い日本で午前中に1日3時間程度。高校1年になった息子の球を受け、汗だくの日々を送った。日本にいても、息子には甲子園が遠くの世界に映っているようだった。
いよいよ大詰めを迎えた今夏の全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)は猛暑、長雨による相次ぐ順延など気候変動と思われる影響に加え、チーム内での新型コロナウイルス感染を理由に棄権するチームもあった。コロナ禍で昨年は戦後初めて大会自体が中止となり、今年は2年ぶりの開催だった。アメリカ育ちの長男には同年代の高校生がプレーする「夏の甲子園」は無縁かもしれないが、私自身はこの時期になると高校生だったころの自分を思い出す。
当時は「練習中に水を飲むな」という時代。現代とは「常識」が「非常識」が180度違った。一方で、変わらないことがある。一球にかける高校生の青春、一球で運命が変わる筋書きのないドラマだ。今夏も横浜が広島新庄との試合で九回2死から1年生が逆転サヨナラ弾を放った。「感動やドラマを高校生に求めるな」という読者がいたとすれば、その主張を否定するつもりはない。だけど、実際に「KKコンビ」の活躍に胸を躍らせ、大学時代には「松坂世代」というとんでもない高校生とドラフト・イヤーが重なることに感嘆の思いを抱いた思い出は少しも色あせない。
日本の猛暑はいつしか、酷暑と呼ばれ、高校生が真夏の炎天下で野球をしていいのかという議論が深まっている。投手の連投が問題視され、1人の投手は「1週間に500球以内」という球数制限が導入されたが、今度は異常気象による雨天順延やノーゲームへの対応が急がれているのだ。ノーゲームでも投手の球数はカウントされる。けが防止の観点からすれば当然かもしれないが、力投がすべて「無駄球」になってしまう。試合日程が「過密」になると、球数制限の影響を受ける投手も増える。19日の第1試合では、近江と日大東北の試合が5回裏に雨脚が強まって中断。両チームは2時間以上もベンチで待たされた挙句、ノーゲームになった。日本高野連はその日、サスペンデッドゲーム(継続試合)の導入を検討していくことを明かしたが、私も賛成だ。メジャーなどでも導入されており、本塁打や安打も幻にはならず、記録の公平性からも採用すればいいと思う。
ニュースを見ていると、8月下旬の関西は猛暑続きのようだ。今夏の甲子園は決勝が当初予定より4日ずれこんで29日になったが、もしも31日以降に順延になった場合には、日中に高校野球を行い、ナイターでプロ野球を行う「同日開催」も決まっている。相次ぐ順延で、芝のメンテナンスなどが今年はできないなどの影響が出るが、報道によれば、阪神の矢野燿大監督も全面協力の姿勢を見せたという。
雨天の影響があったとはいえ、大会日程を29日やプロとの同日開催を視野に8月いっぱいまで広げることができるなら、昼間の最も暑い時間は試合を行わず、一日3試合で午前と夕方に集中するという案もあるのかなと思う。コロナ禍で今回はかなわなかったが、いずれはブラスバンドも戻ってくる。暑さ対策はグラウンド内だけにとどまらない。球児はイニングの半分は攻撃中で、ベンチに戻ることができる。その間に水分補給や栄養補給も可能だ。しかし、スタンドの観客や学校関係者、生徒らの健康状態はどうすればいいのか。
1日3試合、あるいは昼間の時間帯を避けるヒントになった日があった。台風に見舞われた今年は8月15日、降雨で第1試合が約3時間遅れで始まり、その影響で第4試合は午後7時10分から始まった。試合終了は午後9時40分。スポーツ新聞の報道を目にしたところでは、史上最も遅い開始時間と終了時間だったらしい。暑さの厳しい昼間の時間帯に試合をせず、あるいは例えば湿度や気温で「基準」を設けて、それを超えた場合のみ昼間の試合を後ろへずらし、第4試合を今回のように完全ナイターという選択肢があれば、1日4試合でも可能なはずだ。
「あんな炎天下で高校生が野球をやるべきじゃない」という論調はこれからも大きくなると思う。大雨の中で無理に試合消化をしようと、ボールがぬかるんだグラウンドで転がらないような状況でプレーしていた試合もあった。暑さに関しては、高校球児や応援に来てくれた人、観客が命を落とすようなことは絶対にあってはならない。それは当たり前のこととして、どうすれば夏の甲子園をこれからも続けていくことができるのか。どういう対策が必要なのか。早い段階で議論を進めていくことは必要ではないかと思う。5年後、10年後を考えた取り組みが「夏の風物詩」「高校球児の青春」を守ることになる。