世界初「財布」に「盗難補償」が誕生したビジネスモデル
KNNポール神田です!
独創的なデザインで人気を博している『abrAsus薄い財布』を愛用しつづけて長くなる…。
その財布に、今なら「TrackRの警備」と「東京海上日動の盗難補償」が無償でつくというキャンペーンが、はじまったと聞き、このキャンペーンのビジネスの座組みのあり方が気になり取材を申し込んだ。
そう、よくあるコラボ型のキャンペーンなのだが、『保険×ITベンチャー×財布屋』という掛け合わせがどのように発生し、どう企画され、どのくらいのコストで、どう展開されて実現したのか?の興味からだ…。
誰が、どのように「やりましょう!」と持ちかければ、このような展開になるんだろう?また実施に至るまでにどのような問題が発生し、解決なされたのかを、本当のところはどうよ?をビジネス視点でレポートしてみたいと思う。
『東京海上日動火災保険』は、日本の損害保険業界トップ企業であり139年の社歴の日本を代表するリーディングカンパニー、そしてIoTデバイス『TrackR』、そして『abrAsus薄い財布』はこだわりの独自デザインで財布やカバンをイノベーションする雑貨ベンチャー『バリューイノベーション』の製品だ。一体、どうやってこの3社のキャンペーンは誕生したのだろうか?
CES2018年で3社の出会い
「2018年、米ラスベガスでのIT展示会の『CES』でTrackRの方を通じて、バリューイノベーションさんをご紹介いただきました」と語るのは、東京海上日動 本店営業第五部の村上 隼也 課長代理。
「私ども東京海上日動のグループ会社の『あんしん生命』では、時計メーカーのFossil社さんの『MISFIT』やドコモ・ヘルスケア社さんの『ムーブバンド』のウェアラブル端末を活用した『あるく保険』を2017年度より販売しています。『あるく保険』は、1日平均8000歩以上お客様が歩かれますと、健康増進還付金という形で保険料の一部がキャッシュバックされるという保険商品です。ウェアラブル端末とスマートフォンでお客様の健康増進の取組みを継続的にサポートでき、保険料もキャッシュバックできるという仕組みなのです。今年参加した『CES』では、『あるく保険』のような新たなIT商品と保険の組み合わせを考えてリサーチをしていました。そこで『TrackR』と『薄い財布』は弊社にとってもシナジーがありそうだと感じました」と東京海上日動 村上 隼也 課長代理
『無くならない財布』があれば誰も困らない 南 和繁 代表
「みなさんが『財布』をお求めになる時ってどんな時かというと、その多くが、『プレゼント』や『紛失』なんですね。普通の日常シーンで、『今日は財布を買おう!』なんて気分にはなかなかなりませんよね。そこを打破する企画が『キャンペーン』なんです。従来からおかげさまで『薄い財布』の認知度は、ターゲティング広告などで上がってきている。しかし、いつか欲しいと思っていただきながらも、残念ながら『今日』はお買い上げいただけないのです。そこでキャンペーンをいろいろと考えておりました。そして、究極的なのが『無くならない財布』があれば誰も困らない。無くならないというよりも、失くなる前に、気づきがあれば失くなるリスクは激減する。
実際の動作イメージのデモ
幸い、TrackRさんと弊社の『薄い財布』との相性はものすごくいい。低電力のBluetoothで半年は持ち、TrackRのIoTを財布に入れておくだけでスマートフォンと離れると、相互にアラートしてくれるというソリューションがある。また弊社の『薄い財布』であれば、小さくコンパクトなのでスマートフォンと同じ場所に存在している確率が非常に高い。さらに、自分でなくても、他人がTrackRのアプリを持っていれば、他人に知られることなく、他人のTrackRが自分のスマートフォンに存在場所をお知らせしてくれる。これは口頭で説明しにくいのですが…。
これぞ、究極の『落とし物発見ツール』だと思うのです。しかし、この『TrackR』のアプリのインストールベースを増やさなければこの便利な機能は社会で使えない。価格を抑えても普及させたいTrackRさんと、『無くなりにくい財布』を目指す弊社と、さらに、IoT時代に備えた新たな保険の提供を目指す東京海上日動さんが『薄い財布』や『ひらくPCバッグ』の本体代金の盗難を補償
してくれるという3社の思惑が一致しこのキャンペーンとなりました。3社ともにR&D(研究開発)要素が強く、今回は弊社バリューイノベーション側が、TrackRや東京海上日動の保険料を負担させていただいております。
先着1000名様ですが、世界初の『無くなりにくい財布』のキャンペーンは、売り手側における三方良しの関係が、お客様や社会にとっても三方良しの関係を築けると思い、それらの費用は弊社の販売促進費として考えています。従来の広告費用とはちがったマーケティングの機会であり、パブリシティ効果も見込めます。このように神田さんがヤフーニュース個人にも取り上げてくれるし(笑)」 とバリューイノベーションの南 和繁 代表取締役
ねこの捜索保険の『ねこもに』
…とはいえ、東京海上日動のような歴史のある大企業にとって、保険の市場規模とかを考えればインパクトのある数字につながりそうにないのだが…。どうだろうか?
「例えば、東京海上日動は、『オープンストリーム』様と『ねこもに』というペットの捜索サービスを手がけさせていただいています。猫がいなくなった場合には、8割の発見率を誇る猫の探偵さん(ジャパンロストペットレスキュー)の費用を保険で補償させていただいています。とてもユニークな保険だと自負しています。こちらは日本のIT展示会での『CEATEC』でオープンストリームさんとお話をし、誕生したサービスです。これは私たちが、真剣にIoT時代に、「保険×IoTデバイス」でいろんな不安をとりのぞくことができればと考えているからです。
いろんな意味で、弊社のお客様でない方々にも、IoTデバイスを購入する機会を後方で「安心面でご支援したい」と考えているからです。保険に興味が無い方でも、保険が最初から付いていてくれれば安心と感じていただけます。そういった意味ではマーケットサイズというよりも、ユニークなIoTデバイスとの掛け算で新たな補償を提供していきます。IoTデバイスの普及で、リスクを減らせれば保険料も、もっとご負担のないカタチでも提供できるのではないかと考えております」と、東京海上日動火災保険株式会社 本店営業第五部 住田 弥生 さん。
キャンペーンにおける問題点は?
世界初のキャンペーンは、はたして順風満帆に行ったのだろうか?常にビジネスの現場では想定外のトラブルがよく発生する。しかも、業界が違う座組であればあるほどその逆風は見えないところから吹いてくるものだ。
「『TrackRの警備』というコピーライティングも出てくるまでに、どう表現するのかで相当悩みました」
バリューイノベーション南 和繁代表
そして対象商品は、「薄い財布」「ひらくPCバッグシリーズ」「かわるビジネスリュック」の5商品となった。
「特に『保険商品』の場合は、お客様へのご説明時には誤認を与えないことが重要で、当初『財布の保険』となっていたのですが、保険と書いてしまうと、中身や現金までも対象と誤認される恐れがあるので、財布本体の『盗難補償』と表記しなければならなかったことでしょうか。お客様に誤認を与えない表現として、最終的に、『TrackRの警備』と『東京海上日動の盗難補償』が結びつきました」東京海上日動 住田 弥生 さん
今回、取材期間中でまだ、盗難補償の対象はないそうだが、購入日から1年間有効ということなので、無くなった財布が見つかったという事例も登場してくるかもしれない。しかし、TrackRが存在することによって、財布をなくすというリスクが非常に少ないそうだ。
実際に筆者も取材後に、自分の『薄い財布』にモニター用の『TrackR』を入れてみたが、意外に便利なのは、財布側からスマートフォンを呼び出すことや、スマートフォン側から財布を自由に呼び出すことができる機能だった。出かける時に、あれ?と思った時にすぐに探せるメリットがある。また、スマートフォンだけ持ってトイレに行くと、財布と離れて悲しがったりするのだ。薄い財布は、ほとんどポケットにいれたままなので『TrackR』のスイッチを入れて、部屋の中でのスマートフォンの検索に非常に役立っている。
今回のキャンペーンは、3社のメリットが活かせる座組であったことがよくわかった。最後に整理してみるとこのようなビジネススキームのメリットがあるようだった。
バリューイノベーション(abrAsus薄い財布)側のメリット
1.従来の広告効果+キャンペーンプロモーション = 1000セット分の保険代金+TrackRのプロモーション費用
2.『財布』という商材の購入機会促進チャンスの醸成
3.話題性とパブリシティー
東京海上日動側のメリット
1.「動産保険」×IoTハイテクツール=新たな保険のバリュー
2. より安心、安全を訴求し、新たな保険の価値を提供できる
3. リーディングカンパニーとしての新たなる挑戦
TrackR側のメリット
1.普及することによって、便利さが拡大するサービス
2.1000台の新規ユーザーが見込める
3.新規ユーザーの口コミや買い増しが期待できる