次の大地震では家に帰れず、こどもを迎えに行けない。72時間一斉帰宅抑制とは#阪神淡路大震災から27年
1月17日で阪神淡路大震災から27年。そして、16日のトンガ沖火山噴火に起因する夜間の津波警報・注意報で、東日本大震災を思い出した方もいらっしゃることと思います。
津波の場合は、高台などへ避難を直ちに開始するため、事前に非常持ち出し袋の準備をしたり、高台の親戚宅などに必要なものを備蓄し、逃げることに専念することも重要です。
ただ、阪神淡路大震災のように都市部を大地震が襲った場合、移動すること自体が危険になる場合があります。そのため現在、首都圏などの都市部では、72時間一斉帰宅抑制の方針がうちだされています。
私は、東京都の防災コーディネーター研修で一斉帰宅抑制の講師をしたり、首都圏の様々な世代にも防災研修を実施しているのですが、地震の際、家族が心配なので、家に帰りたいと思っていたり、帰ることが前提になっている方にお会いすることが多いなと感じています。
今年、27年目の阪神淡路大震災は、午前5時46分と早朝の地震であったため、職場ではなく自宅で被災された方が多くいました。当時、私の父の職場は、神戸の三宮でしたが、家にいたため無事でした。職場にいた場合、その建物は倒壊していませんでしたが、洗濯機の中で振り回された衣類のように、机や什器、コピー機が散乱していたということなので、命に関わるケガもありえた状況でした。そして、仮にケガがなかったとしても、当時は、まだ一斉帰宅抑制の発想はありませんでした。余震も続く中、家族のために帰宅しようとして命を落としていた可能性も高いと思っています。
阪神淡路大震災、そして東日本大震災、熊本地震など、過去の災害から得た様々な教訓があります。次の大震災の際に皆さまの命が守られること、被災しても我慢したり人生を諦めなくてすむように公的にも私的にも事前の備えをすることが、災害で失われた命の追悼になるとも思っています。
今回は、事前の備えとして、72時間一斉帰宅抑制のことをお伝えしたいと思います。
なぜ72時間一斉帰宅抑制が必要なのか
72時間一斉帰宅抑制については、東京都がピクトグラムを使ったわかりやすい動画を作っています。
職場にいたAさんと外まわり中のBさんを例に、クイズに答えながら、大地震の時にとるべき行動を学ぶ内容になっています。
家族が待っていたとしても、帰宅しないことが勧められる大きな理由は2つあります。
72時間が人命救助のデッドライン 帰宅すると救命・救助の妨げに
1つめは、多くの人が帰宅することで、道路が塞がれてしまうと、救命・救助の妨げになることです。災害発生時の人命救助のデッドラインは72時間と言われています。
72時間は、むやみに動かず、安全な場所にとどまらないと、救える命が救えなくなってしまいます。
群衆雪崩などの二次災害に巻き込まれるおそれ
2つめは、群衆雪崩などの二次災害に巻き込まれるおそれがあることです。
群衆雪崩の危険がクローズアップされたのは、阪神淡路大震災から6年後の2001年兵庫県明石市の花火大会歩道橋事故でした。
1平方メートルに13人〜15人の人が密集した歩道橋で、群衆雪崩が起こり、0~9歳のこどもと高齢者の11人が亡くなり、247人が負傷した事故です。
明石市の事故調査報告書には、群衆雪崩と将棋倒しの違いが以下のように記載されています。
また、同報告書には、
とあります。
人口の多い都市部で同じ現象が起きることが想定されています(1)。
また、二次災害は余震によっても発生します。倒れる電柱、降ってくる看板やガラス、壁の崩落、一瞬で倒れるブロック塀など、帰宅する方が安全を確保できる場所でとどまるよりも危険になります。
みなさまの職場が都市部であれば、帰宅抑制の方針が出されている場合があります。ご自身の市町村の情報を確認してみていただければと思います。
阪神淡路大震災の被災地である神戸市も「STOP一斉帰宅 安全な場所からむやみに移動しないで」の動画を2021年2月に作成しています。
こどもを迎えに行けない 安否確認体制をどう整えるか
帰宅困難者となった際に最も心配な事項は、家族の安否です。
園や学校の防災訓練では、以前は、保護者への引き渡し訓練がメインだったかもしれません。しかし、現在、都市部では、親は一斉帰宅抑制で迎えに行けません。そのため、訓練では、保護者への引き渡しができないことが想定されていなければいけません。
都市部の学校や園は、児童が72時間、安全にとどまることが可能な体制になっているでしょうか?また、個別に保護者と連絡を取ることに手間取ると目の前にいるこどもの安全を確保できなくなるかもしれません。事前に安否確認の手段を決めておき、大災害に連絡が取れなくなることも想定して、その際の避難場所、待ち合わせ方法なども決めておく必要があります。
津波避難の事例ですが、「津波で生き残るために必要な「3つのS」保護者引き渡しに伴う危険と問われる覚悟」で、保護者に引き渡しをすることをやめた園について記事にしています。4月からシークレット避難訓練を続けている覚悟と実践例を参考にしていただければと思います。
また、家族間でも、位置共有アプリやSNSを利用したり、複数の連絡手段を確保するとともに、連絡が取れなかった場合の72時間経過後の待ち合わせ場所と待ち合わせ時間について話をしておく必要があります。時間を決めておいた方が会える確率は高くなります。
災害時なので、想定外は当然起こりますし、全ての機器が使えなくなってしまう場合もあります。それでも事前の準備や話し合いをしていることで、いざというとき連絡が取れる可能性を増やすことができます。
東京都にお住まいの方は、東京都防災アプリを入れておけば、「安否確認」の項目から、Googleパーソンファインダー、メール、LINE、Twitter、Facebookなどに送信しやすい仕様になっています。
一時滞在施設、災害時帰宅支援ステーション
その他、一斉帰宅抑制となった場合、移動中の人は近くに避難できる場所が必要になります。各都市で、一時滞在施設や災害時帰宅支援ステーションなどが整備されつつあります。
「一時滞在施設」という言葉を初めて聞いたという方がいたら、通勤や通学途中のどこにあるのか、あらかじめ場所を確認しておいてください。
行き場のない帰宅困難者を原則3日間受け入れる施設です。
東京都の一時滞在施設はこちらからご確認いただけます。
また、帰宅できるようになった際、飲みものやトイレ、情報の支援を行う場所として、災害時帰宅支援ステーションとなる場所があります。
この災害時帰宅支援ステーションのステッカーは、全国統一ステッカーなので、お近くのコンビニやガソリンスタンド、ファミリーレストランなどを確認してみてください。
このステッカーは阪神淡路大震災の教訓から生まれたものです(2)。
交通機関が災害で途絶えたとき、通勤・通学者や観光客を速やかに避難させるための支援が欠かせないという教訓から、関西の自治体(関西広域機構)とコンビニエンスストア、外食企業等の間で協定が結ばれました。この協定に参加しているお店には、ステッカーが貼られています。当初は関西だけでしたが、関係者のご努力で、現在は全国に広がったものです。
今まで見ても記憶に残っていなかった方は、今日から、意識していただくと、多くの場所で支援があることに気づくかと思います。お子様と一緒に探してみるのもおすすめです。
阪神淡路大震災の今日だから、一つでも防災アクションを
以上、72時間一斉帰宅抑制について説明しました。72時間安全な場所にとどまるためには、職場での備蓄や安全確保、そして移動するときには安全に移動できる服装や靴を職場に備蓄しておくことも必要です。
詳しい内容は、東京都帰宅困難者対策ハンドブックでご確認ください。
阪神淡路大震災が起こった1月17日の今日、すぐにでも実践できる防災として、災害時帰宅支援ステッカーのある場所を確認したり、帰宅抑制についての内容を知っていただければ嬉しいです。
(1)
NHK 災害列島「それでもあなたは帰りますか? 帰宅困難者「群集雪崩」の危険」
(2)