【ちなみに】韓国はどうやって新代表監督を決めているのか。ハリルホジッチ就任の可能性は?
新監督は、多くの報道どおり日本人候補者に絞られているのか。26日の日本サッカー協会理事会では、日本代表新監督の選定について少なからず決定・発表がありそうだ。
この話題について少し別の視点を。
”韓国はどうやって監督を決めているのか”。
現地では、日本の26日の動きを想定して、こんな報道がなされている。
「一足早い日本、A代表チーム 森保―ベンゲル 2トップ体制生まれるか?」(スポーツソウル)
”2トップ体制”という文脈は日本の報道を引用したものに過ぎない。しかし”一足早い”という点は重要だ。よく状況を言い表している。
日本の状況を立体的に理解するために、隣国の状況を。
日本との違い。選任委員会の結成、タイムリミット、現監督の再任も選択肢の一つ。
韓国も日本と同じく、ロシアW杯で指揮を執った自国出身監督の契約期間満了に伴い、新監督を探す時間を過ごす。
同じ東アジアの地にあって、外国人監督の招聘に苦慮する点は似ている。いっぽう日本と違う点は主にこういったところだ。
■代表新監督選任委員会を構成し、委員長が7月5日に会見を行った。
■タイムリミットを「9月」に設定。日本と同じくW杯後の初戦は9月7日、11日のAマッチデー(ホームゲーム/コスタリカ、チリと対戦)だが、韓国はリミットを遅く設定したかたちに。
■現監督(シン・テヨン監督。契約期間は7月末まで)の再任も選択肢の一つに残している。
■現状では外国人監督の就任が有力視される。
韓国は折からの代表チームの不振、協会幹部による不祥事・不手際などで強く批判を受けてきたからだろう。新監督選定の過程を可能な限り伝え、ファンとコミュニケーションを取ろうとする姿勢も伺える。
韓国よりアフリカ、中東、そして日本を好む
まず、日本と大きく違う点は代表監督選任のための委員会が結成された点だ。5日にソウルにて第1回の会合を行った”国家代表監督選任委員会”。メンバーは次のとおりだ。
チェ・ジンチョル Kリーグ連盟競技委員長(02年W杯代表)
ノ・サンレ 元チョンナム・ドラゴンズ監督(97年フランスW杯予選代表)
チョン・ジェグォン ハニャン大監督(98年にポルトガルでプレー)
パク・コナ 元ソウル・イーランド(Kリーグ2部)前監督/柏レイソル在籍歴あり
キム・ヨンチャン 大韓体育会(体育協会)訓練企画部長
スティーブ・プライス(英国人サッカーコラムニスト)
選手時代に実績があり、かつフリー的に動ける存在が集まった。さらに、サッカー協会の上層に位置する体育協会関係者と外国人の視点。こういった構成の委員会で代表監督を選定していくという。
また、同委員会が構成される背景には日本とは違う事情がある。サッカー協会会長がプレーヤー出身ではなく、財界人なのだ。チョン・モンギュ会長はヒュンダイ自動車、ヒュンダイ産業開発の会長職を経て、現在は2018年5月に結成されたヒュンダイ系列の企業グループ”HDC"の会長職を兼任する。
5日の会見にも同席し、外国人監督選定の可能性について、こんな言葉を口にした。
「難しい点もある。私自身、過去には代表監督のみならず、(企業での)外国人の雇用経験もあるのだが、韓国は外国人の好む場所ではない。韓国よりアフリカや中東を好む。(東アジアに目が向いたとしても)韓国より日本を好む。同じサラリーであれば、50%プラスしてこそ来るという制約がある。よい外国人を連れて来ても韓国にしっかりと適応できるのかという点はまた別の問題だ。国内の監督であれ、外国の監督であれ、上手くやれるシステムを作ることがより重要」
HYUNDAIグループの創始者、チョン・ジュヨン氏の甥にもあたる同氏。一部では”人はいいが、決断力に欠ける”との評価もある。「日本をより好む」という発言は、かなり思い切ったものに見えるが、いっぽうで財界人の立場から言うことは言う、という挟持の現れか。
ロシアW杯の総括は「新監督選定をやりつつ行う」
5日の会見では記者団とかなり突っ込んだやり取りも行われた。韓国メディアが紹介した、キム・パンゴン委員長との一問一答を抜粋する。
――監督候補は何人なのか。
候補は約10人。やりたい、という人を見つけ出すのではなく、我々が求める人材を探すという考えだ。我々が持つポートフェリオ(リスト)に合う人物だ。すでに除外された人材もいる。いっぽうでそこにぴったりはまる人物がいるのならすぐにでも会いに行く考えだ。哲学に見合う人物には会う。そういう考えだ。
――有名な監督より、有能な監督を探すとも発言したが。
危険な要素は多い。自分にとっても最初の監督選任であるためプレッシャーもある。今思えば、2014年ブラジルW杯の後に大監サッカー協会がファンマルバイク(オランダ)監督を選任しなかったのは正しかったと考える。(欧州に暮らし、代表戦の時のみ韓国を訪れるという彼の提案は)韓国のマインドに合わない。金額を多く払うことよりも、哲学に合う監督を探す。かなり慎重な立場から監督選定をやっていくことになるだろう。
――シン・テヨン現監督は事実上除外されたのではないか。
”再任”ではなく、あくまで新監督候補の一人だ。ドイツを下した点は称賛されるべきところ。また代表チームを率いる際の様々な状況を知っている点は明らかだ。いっぽうで(昨年7月に就任後)9月にW杯アジア予選を終えてからも時間がなかった。本人の意向を聞きつつ、会って評価したい。現時点でもすでにメディア対応能力、選手とのコミュニケーション能力などで高い評価を下している。決して除外はしていない。
――最終的な監督選任のデッドラインは?
9月の国際Aマッチデーに新監督で臨めるよう、ベストを尽くす。
――選任委員会で、ロシアW杯までのシン監督の評価は行われなかったのか。
ロシアW杯での評価ははっきり言って難しかった。ベスト16には入れなかったが、完全な失敗事例だとも言えない。だからこそ新監督の候補の一人として競ってもらおうということになった。細かい評価は保留とし、まずは新しい監督の選任条件を先に作ろうということになった。ここからの委員会実施で評価が下されていくだろう。
――10人の中には韓国人監督も含まれるのか。
難しい質問だ。その部分でも多く悩んだ。基本的には国内監督のラインも残して置こうと考えている。様々な議論をしてきた。ここからも多く悩んでいくと思う。
――新監督に対し、ある程度の任期の保証はしていくのか。
やっていきたいと考えている。シュティーリケ監督にはもともと4年間を約束していた。大韓サッカー協会がつねに監督リストを作っているような状況では混乱する。持続的に分析していきたい。W杯が終わって選手とも話した。「一つの哲学が続いてくれたら嬉しい」という話が出てきた。私も同感だ。韓国代表チームを哲学が引き継がれていくものにしたい。
――哲学、の定義とは?
大韓サッカー協会が持っている哲学がなければならない、ということだ。一方に偏ったものではない。我々韓国の長所を活かせる哲学だ。代表チームが哲学を持つためには、大韓サッカー協会が哲学を持たなければならない。受動的な指導者ではなく、能動的なサッカーをやれる哲学を。
――抽象的な話ではないか?
そうではない。サッカーでボールを所有する際の基本前提条件は”前進”だ。そこに韓国的な哲学を足していけると考えている。アジア予選では能動的にやれると思うが、W杯本大会では違った状況になりうる。それでも基本的な哲学を持っていることが重要だ。我々と哲学の違う監督でも結果は残せるかもしれない。しかし優先すべきは哲学だ。スタイルが違う監督を選ぶ考えはない。
(中略)
――委員長の評価では、ロシアW杯は成功なのか失敗なのか。
ベスト16に入れなかったのだから、成功だと言うのは難しい。もっとよくやれたと思っている。しかし完全な失敗だとも思わない。しかしこういった微妙な結果は、監督の選定段階で大きな問題にはならない。シン監督の準備過程とリーダーシップで評価する。
(中略)
――金銭的条件のラインは?
韓国の国民感情もあるため、中国のように無制限に資金を使うことはできないと考える。ただし多くの投資はするつもりでいる。ヨーロッパから韓国に来るという判断は簡単なものではない。だからこそより多くの努力が必要。相手に来たいと確信を持ってもらう方法を考える。
会見後、大韓サッカー協会は国内最大のポータルサイト「NAVER」上での自らのアカウント上にこの内容を”写真記事”というグラフィック付きの記事として掲載した。改めて「わかりやすく説明」という点に力を注ぐ姿勢を感じさせた。
大韓サッカー協会作成記事:国家代表チーム 監督選任と関連する”気になること”にキム・パンゴン委員長が答えます
この記事で、大韓サッカー協会は、新監督に見合う条件を改めてこう示している。
”W杯という大会のレベルに合うこと。9連続本大会出場する国の格に見合うこと。W杯予選通過やコンフェデレーションズカップ優勝に近い経験を持つこと。あるいは世界的レベルのリーグで優勝した経験を持つ人材であってほしい”
合わせて、新監督は我々(大韓サッカー協会監督選定委員会)が提示したサッカー哲学と一致しなければならないとし、箇条書きで目指すスタイルを記している。
大韓民国サッカー代表チームは
能動的なスタイル(Proactive)で
試合を支配し(Dominate Game)
ポジティブな姿勢(Positive Attitude, Winning Mentality)と
情熱的な(Passionate)体力で勝利を追求(Game for Win)する
メディアに踊る候補の名。大韓協会は一転して”情報出さず”の方針に
こうやって、オープンな情報発信を試みた5日の後は、一転して情報が錯綜している。大監サッカー協会側も情報を遮断している状況だ。
メディアには、元ブラジル代表監督のルイス・フェリペ・スコラーリ、ルイス・ファン・ハール、アンドレ・ヴィラス=ボアス、クラウディオ・ラニエリらの名前が浮上。さらに前日本代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチも候補として報じられた。
9日、これについて大韓サッカー協会側が「最近、フェリペ・スコラーリ氏やハリルホジッチ氏との接触が報じられたが、事実無根。サッカーファンを混乱に陥れるばかりではなく、実際の監督の候補者にネガティブな影響を与える」と声明を発表した。
また、「この先、新監督発表時まで協会側として監督人事についてコメントする考えはない」とも。また、キム・パンゴン委員長は11日に新監督との交渉のためにヨーロッパに出発したが、大韓サッカー協会はその事実だけを認め、ルートについては一切明らかにしていない。
このうち、ハリルホジッチ就任説について、韓国各メディアの担当者に話を聞いてみた。
「候補にも入っていないと見ています。国内メディアは、アルジェリアメディアの報道を引用しているだけです。別に根拠はない。アルジェリア側から韓国代表監督就任説がなぜ出るのかも分かりません。エージェントが暗躍して、かき回しているという点が想像できるくらいです」(一般紙サッカー担当記者/7月中旬時点で)
「可能性は出てきていると見ています。キム・パンゴン委員長は渡欧後、メディアとの情報は遮断している。いっぽう別ルートから情報を探ると、候補が絞られていくなか、『ハリルホジッチ側が積極的』との話もあります」(スポーツ紙サッカー担当/7月下旬)
「20%くらいでしょう。リストが今、作られている段階ですから。韓国ではこういう場合、国内のエージェントが活発な動きを見せます。外国人側に韓国のエージェントが打診をして、『韓国に興味あり』という反応であれば、そこで協会側とつなぐという。よくあることです」(ウェブ系サッカーメディア/7月中旬時点で)
11日以降の情報は、”諸説紛々”といったところだ。
そういったなかでも、5日のキム委員長の「かなり慎重な立場から監督選定をやっていくことになるだろう」「危険な要素」という発言に注目だ。
ひとまずはオープンにメディアに指針を示し、時間をかけた。外国人監督路線が優先、という点も韓国国内では認識されている。それと比べると、日本は最初から情報をクローズにし、スピード勝負を挑もうとしている。26日の理事会後の報告では、選定過程、基準、そしてロシアW杯の総括はどう発表されるだろうか。
日本と韓国で違う方法を進む新代表監督選定、どちらにどう転ぶだろうか。