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「ハウス・オブ・カード」でケビン・スペイシーと同額のギャラを求めたロビン・ライトに、賞賛と皮肉の声

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「ハウス・オブ・カード」第3シーズンのプレミアに現れたロビン・ライト(写真:REX FEATURES/アフロ)

ロビン・ライトが、勇気ある行動に出た。Netflixの人気ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」の出演料を、主演でプロデューサーのケビン・スペイシーと同額しろと要求し、見事、勝ち取ってみせたのである。

ドラマの中でライトが演じるのは、主人公フランク・アンダーウッド(スペイシー)の妻クレア。「統計を見て、ここしばらくの間は、クレアのほうがフランクより人気があることがわかっていた。これを利用しなくてはと思い、『(スペイシーと同じだけ)払ってちょうだい。払ってもらえないなら、このことを公言する』と言ったのよ」と、アメリカ時間17日(火、)ロックフェラー・ファンデーションのイベントで、ライトは語っている。2014年の時点で、スペイシーの「ハウス・オブ・カード」のギャラは、1話あたり50万ドル(約5,457万円。)昨年の「Forbes」の記事によると、ライトのギャラは1話あたり42万ドル(約4,584万円)だ。それほど大きな開きはないが、ハリウッドにおける男女不平等があらためて論議を呼んでいる今だけに、ほかの女優たちのお手本になるためにも、立ち上がろうと思ったのかもしれない。

男優と女優のギャラの格差は、ずっと昔からある問題だ。最近は、スターのパワーよりもコンセプトがヒットの鍵となってきており、特定の俳優が必ず2,000万ドルをもらえるという時代ではなくなったが、20年ほど前には、トム・クルーズ、ブルース・ウィリス、アーノルド・シュワルツェネッガーなど、いわゆる「2,000万ドル級俳優」が片手では足りないほどいた。その頃でも、ジュリア・ロバーツやキャメロン・ディアスらトップ女優は、とうていそんな額をもらえていない。

この問題に新たな脚光を当てたのは、昨年のオスカー授賞式での、パトリシア・アークウェットの受賞スピーチだった。「6才のボクが、大人になるまで。」で助演女優賞に輝いたアークウェットは、全世界に放映される、この絶好の機会を利用して、「今こそ私たちみんなが平等の賃金を受け取るべき時です」と訴えたのである。さらに、秋には、ジェニファー・ローレンスがこの問題についてのエッセイをウェブサイトに投稿し、話題を呼んだ。ローレンスは、「アメリカン・ハッスル」で、7%のバックエンドディール(基本の出演料とは別に、映画のヒット具合によって後に受け取る報酬)を結んでいたが、クリスチャン・ベール、ブラッドリー・クーパー、ジェレミー・レナーらは9%をもらっていたことが、ソニー・ピクチャーズのハッキング事件で暴露されたのだ。ほかの人々と同様、このハッキング事件で初めて事実を知った時、ローレンスは、「ソニーに対してではなく自分自身に対して怒りを覚えた」と、そのエッセイの中で告白している。さらに、「好かれたいと思う気持ちがあったから、闘うことなく契約を結んでしまったのだと思う。難しい人、甘やかされている人と、思われたくなかった。(中略)でも、ネットで(共演者の)ギャラを知った時、私が一緒に仕事をしていた男性たちは、難しい人、甘やかされている人と思われることをまったく恐れていなかったのだとわかった」と続けている。

難しい人と思われることを恐れず自分の意見を言ったライトに対して、ソーシャルメディアでは、「ロビン、よくやった!同じ内容の仕事なら、女性はみんな男性と同じ賃金をもらうべき。でも、アメリカの多くのところで、それは行われていない」「彼女はそれだけのお金をもらう価値がある。でなければ、もらえなかったはずだ。プロデューサーはノーということもできたのだから」という賞賛の声が上がった。同時に、「このドラマはケビン・スペイシー無しではありえない。ロビン・ライトは別の人にやってもらうこともできる。だからギャラが違うんだ。『30 Rock』でティナ・フェイのほうがアレック・ボールドウィンよりギャラが高かったのと同じ。ティナ・フェイはあの番組の顔で、ケビン・スペイシーはこの番組の顔なんだ」「ロビン・ライトがケビン・スペイシーと同じ価値があるなんて、どこの世界の話?彼は客を呼び込むのよ。私は、ロビン・ライトが何に出ていたのかなんて、覚えていない」「同じ価値を持ち込まない人も、女性差別を出してきて、ゆすることができるわけだね」といった、批判や皮肉も飛び交っている。

ライトやローレンスのメッセージは正しくても、彼女らが一般人よりずっと稼いでいるという理由で、完全に共感できない人もいるようだ。今年のゴールデン・グローブ授賞式では、ホストのリッキー・ジャーヴェイスが、「ジェニファー・ローレンスがハリウッドでの男女賃金平等を求めたら、あちこちの人に支持されて、看護婦や工場労働者がマーチすることにまでなった。『25歳にもなって年収5,200万ドル(約56億7,560万円)で生きられるわけがない!』ってね」とジョークを飛ばした。ライトの件に関しても、「みんな、現実の問題に目を向けようよ。誰が50万ドルを稼ぐべきか、誰が65万ドルを稼ぐべきかじゃなくて。そのレベルになったら、『これだけ稼ぐべき』というのはない。だけど、マクドナルドやウォルマートで週40時間働いている人は、生活していけるだけの賃金を稼ぐべきだ。そこに集中しよう。金持ちの有名人のナンセンスに振り回されるんじゃなくて」というコメントが寄せられている。

一方で、知名度のある彼女らの発言だから、メディアが飛びついたというのも否定できない。大事なのは、これをきっかけに、自分の職場を見直してみる人々が、あちこちの業界で出てくるかどうかだろう。もしもそんな動きを広める手助けになるならば、単なる金持ちの有名人の戯言ではなくなる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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