困難だと理解しながらもスポーツ界の慣習・文化と向き合い続ける筒香嘉智の愚直なまでの継続力
【指導者や保護者を対象にオンラインイベントを実施】
すでに複数メディアが報じているように、レイズの筒香嘉智選手が1月31日に、アマチュアスポーツの指導者や、スポーツに携わる子どもを抱える保護者約100名を集め、オンラインイベントを開催した。
2時間以上に及ぶ同イベントでは、アマチュアスポーツにおける意義や指導法のあり方について、筒香選手なりの考えを伝えるとともに、指導者や保護者が感じている質問に筒香選手が答えるなどして、中身の濃い交流の場となった。
例えば「少年野球や高校野球に求めたいことは?」(中学野球部顧問)、「中学時代に一番印象に残っている言葉や指導は?」(高校野球部指導者)、「スポーツを続ける子どもに親としてのかかわり方は?」(野球少年の保護者)などの質問に対し、筒香選手は一つ一つ丁寧に答え続けた。
【オンラインだから可能になった初の交流】
筒香選手といえば、これまでもオフシーズンの時期に様々なイベントに参加し、メディアを通じてアマチュアスポーツに対する提言を続けてきたのは知られるところだ。
ただメディアを通じての発信は広く行き渡る一方で、基本的には一方通行であり、どの程度の効果があるのかを確認するのはなかなか難しい面があった。
だが新型コロナウイルスの影響で、日本国内にすっかりオンライン文化が浸透していく中、直接指導者や保護者と繋がることができるようになり、今回のイベント開催に至ったわけだ。
筒香選手の話を聞いてみたい、質問に答えて欲しいと集まった参加者たちも、オンラインならでは新潟、長野、東京など各地から集まっていた。
筒香選手も「これまでは報道を通じて時差が生じていたと思いますが、それがライブというか生になったことで、また違った感じ方をして頂けるんじゃないかと感じています。こうしたリモートでする良さもあると思います」と、手応えを口にしている。
【子どもたちに伝えた継続力の大切さ】
筒香選手は今回のイベントのみならず、1月16日に出身地の和歌山県橋本市の小学生72名を対象にしたオンラインによる「トークとエクササイズ体験会」を実施し、子どもたちと交流している。
筒香選手は2019年に同市の「スポーツ推進アドバイザー」に就任しており、以来兄・裕史氏と連携しながら同市におけるスポーツ指導の充実と、指導者や教員の啓蒙活動に注力してきている。
そこでも筒香選手は、子どもたちの質問に丁寧に答えていたのだが、いかにも彼らしいと印象に残った場面が、「苦手なことを好きになるのはどうしたらいいのか?」という質問に答えた時だった。
「僕も苦手なことがたくさんありますし、他の野球選手と比べても、人よりできるのがすごく時間がかかるタイプです。
苦手なことを好きになろうと思っても、なかなかなれないと思うので、苦手なことを諦めずにすることによって苦手なことができるようになった時というのは、嬉しく喜びが大きいと思います。そうしたら自然に好きになると思うので、苦手なことを諦めずに、できるように毎日コツコツと継続することが大事じゃないかと思います」
【「スポーツ界、野球界全体がいい方向に」】
これまで筒香選手が様々なかたちで発信を続けるのは、「スポーツ界、野球界全体がいい方向に向かって欲しい」という願いがあるからだ。
だが高校野球をはじめアマチュアスポーツ界は、長年培われてきた慣習・文化が今も根強く、なかなか筒香選手の声が関係者に届きにくい状況にある。シーズン中は筒香選手に代わり、橋本市で啓蒙活動を続けている裕史氏も過去2年間の活動について、以下のように説明している。
「行政とスポーツ選手が組むということで楽しみしていた部分があったのですが、実際はなかなか伝わり方が難しかったです。
少しずつ共感してくれる指導者が1人、2人でてきているのは事実ですが、結果としてこうというのは言えない気がします」
たとえ慣習・文化が理想的ではなかったとしても、それを変えようとするのは、計り知れない労力と時間を要するものだ。だからこそ筒香選手の愚直なまでの継続力こそが、今スポーツ界が必要としているものなのかもしれない。
【少しずつ広がり始めたネットワーク】
そうした筒香選手の地道な活動があったからこそ、彼に共感する仲間が徐々に増え、ネットワークも広がり始めているようだ。
例えば今回のオンラインイベントでも、日本スポーツマンシップ協会会長の中村聡宏氏がゲストとして登場し、勝利至上主義以上に大切なスポーツの意義について力説している。
子どもたちを諭したように、筒香選手はこれからも毎日コツコツと活動を継続していくのだろう。