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減収減益のアップル、しかし巧みなIR戦術に学ぶべき事

神田敏晶ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

KNNポール神田です。

米アップルが(2019年1月)29日発表した2018年10~12月期決算は、売上高が前年同期比4・5%減の843億ドル(約9兆円)となり、最終(当期)利益は同0・5%減の199億ドルだった。スマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の中国市場での販売不振が主因で、16年7~9月期以来、9四半期(2年3カ月)ぶりの減収減益となった。

出典:アップル約2年3カ月ぶり減収減益 クックCEO「想定より厳しかった」

英文リリース

https://www.apple.com/newsroom/2019/01/apple-reports-first-quarter-results/

Appleの第一四半期発表 2019年1月29日 出典:Apple
Appleの第一四半期発表 2019年1月29日 出典:Apple

製造業であるAppleだが、

売上843億ドルで199億ドルが最終利益だ。利益率が23.6%あるメーカーである。

2019年初頭の『Apple Shock』と呼ばれるニュースから考えると当然の結果で、すでに業績は織り込み済みだ。スマートフォンそのものが成熟し、減衰を始める時期に見えるからだ(5Gの間との谷間の時期と呼ぶべきだが…)。

今回の発表でAppleは、今までと少し違った数字の出し方をしている点が気になった。

■最初にネガティブなファクトをすべて出し切る

年初のティムクックによる書簡で、ネガティブな情報を四半期発表前におこなった。なので今回の発表はネガティブながら、すべて想定の範囲だ。しかも、常に来季予想も発表している。そして、これはいつも低めだ(笑)。当然、来期はクリアすれば予想を上回る。

■数字の発表スタイルを変える

アップルは今回の決算から製品別の販売台数の開示を取りやめたのだ。

販売台数を発表すればするほど、韓国サムスンや中国ファーウェイの上昇が目立つ。「収益の実態を示さないため」(ルカ・マエストリ最高財務責任者)としている。その、替わりに今までのインストールベースの巨大なiOSの稼働台数をひっぱりだしてきた。

アップルは2019年度第1四半期の収益を発表し、現在世界で使用されているiPhoneが9億台にのぼることを明らかにしました。また、2018年末時点でのアクティブなiOSデバイスは合計14億台に達しています。

アップルCFOのルカ。マエストリ氏は、この数値に関してはiPhoneとiOSデバイス全体それぞれの台数を定期的に公表する予定だと付け加えています。ただ、iPadなど個別のモデルに関しては述べませんでした。

マエストリ氏はまた、iPhoneのなかではiPhone XRがもっとも人気がありついでXS Max、XSの順で売れていることも明らかにしています。こうした情報はiPhoneがいまもかなりのペースで売れつづけており、アップルの携帯電話事業に3億6000万人がお金を支払い続けていることを投資家に示します。

出典:iPhone、稼働台数が世界で9億台を突破。iOSデバイス全体では14億台

iPhoneが世界で9億台稼働しており、iPadなどを含む、iOSデバイスの合計は14億台にのぼる。世界の携帯電話OSのマジョリティはGoogleのAndroidである。しかしそれ以外は、AppleのiOSであり、iOSのスマートフォンはAppleしか販売していない。完全なる垂直統合はAppleのお家芸であり、歴史でもある。完全な使いやすさを保証する代わりに、ユーザー独自のカスタマイズは認めない。これは好き嫌いが別れるところだが、Appleの中で完結できる世界はとても安泰で安心である。

■サービス部門の粗利益率63%を初めて開示

アイフォーンの売上高は前年同期比15%減少したが、その他の製品は全て増収。サービス収入は19%増の109億ドル。パソコン「Mac(マック)」の売上高は8.7%増の74億ドル。タブレット「iPad(アイパッド)」の売上高は17%増の67億ドル。

同社が製品カテゴリーとして初めて特定した「ウエアラブル、ホーム、アクセサリ」の売上高は33%増の73億ドル。

同社はサービス部門の粗利益率も初めて開示し、63%だったことを明らかにした。

出典:アップルの決算発表、業績の落ち着き示す-時間外取引で株価上昇

メーカーであるのに、Appleが利益率が23.6%と最初に記述したが、サービス部門の粗利益率は63%という驚異的な利益率を今回発表した。投資家心理は減収減益だったが、儲けのアルゴリズムの成長に興味を持ったことだろう。AppleのIR(インベスター・リレーションズ)の上手さはこういう数字をずっと隠し持っているところだ。

そう、サービス分野の利益率の高さもAppleという企業のもうひとつの魅力だ。iOSプラットフォームからの売上から30%のApple税を確保できているからだ。サードパーティーが有料サービスを展開するたびにAppleはディストリビューションフィーやプラットフォームとしてののショバ代が3割確保できるのだ。サードパーティーは7割の利益だ。今までのパッケージビジネスから比較すると多い利益だが、最初からネット上のサービスでアプリ内課金を嫌がる事例も増えてきている。Netflixなどもアプリ内課金から撤去しはじめた。

5G時代の登場までに、スマートフォンのハードウェアの進化はわずかな変化しか期待できない。現在のスマートフォンの進化のメインがカメラ機能だからみんなが買い替えに動かない。しかし、5Gになると3G時代とはかなりちがった様相になることだろう。ハードウェアの一斉交換期間が5年間くらい継続するからだ。そして、重要なのが、株価や時価総額の瞬発的な連動だけではない、次世代のデバイスやサービスの動向をAppleのIRからも読み取れることだ。

そう、すでにある14億台のiOSにおいて、63%の利益率のサービスをどう掛け合わせるかが最大の課題なのだ。

ゲームのサブスクリプションもあれば、ドラマシリーズの企画も、いろんなプランをどう組み合わせるのか。

IRの数字からティム・クックCEOの視点に立って考えてみることもできそうだ。

ITジャーナリスト・ソーシャルメディアコンサルタント

1961年神戸市生まれ。ワインのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の出版とDTP普及に携わる。1995年よりビデオストリーミングによる個人放送「KandaNewsNetwork」を運営開始。世界全体を取材対象に駆け回る。ITに関わるSNS、経済、ファイナンスなども取材対象。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部、サイバー大学で非常勤講師を歴任。著書に『Web2.0でビジネスが変わる』『YouTube革命』『Twiter革命』『Web3.0型社会』等。2020年よりクアラルンプールから沖縄県やんばるへ移住。メディア出演、コンサル、取材、執筆、書評の依頼 などは0980-59-5058まで

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