浦和レッズの進化が止まらない!後半戦のキーワードは『3バック対策』だ
レッズサポーターの期待感がいつもと違う
消化試合数にバラつきはあるが、2021年のJ1前半戦を終え、浦和は6位につけている。昨季は10位、一昨季は14位に低迷。今季はリカルド・ロドリゲスを新監督に迎えて再出発を図るシーズンだった。それを踏まえれば、前半戦の6位は上々だ。
何より、今季はファンやサポーターの空気が変わった。純粋に、浦和レッズに期待する人が増えた。コロナ禍のため、それを観客動員数で定量的に計ることは出来ないが、ポジティブな空気はひしひしと伝わる。
なぜ、空気が変わったのか。
今季の浦和は、意図的に戦術を組み立てる様子が見えるため、伸びしろに期待しやすいのはある。また、クラブがキャスパー・ユンカーや酒井宏樹、西大伍、江坂任などの名選手を積極的に補強しているのも、熱を高める大きな要因だろう。
それ以外で個人的に決定的だと思うのは、第6節の川崎戦だ。未だ無敗の絶対王者に0-5でボロ負けを喫した後、サポーターのブーイングが渦巻くスタジアムを、リカルド・ロドリゲスは選手と共に一周した。「何よりもチームの責任者が矢面に立つことが必要。こういう時だからこそ、近くにいるべきだと思った」との言。
この男気、真摯な姿勢が、浦和サポーターの心をわしづかみにした。「これは信頼できる監督が来たぞ!」と誰もが思ったはず。その後、続く7節の鹿島戦からチームは3連勝。ここでリカルド・ロドリゲスの地盤は固まった。
ゼロトップと、ユンカーシステム
起点となった鹿島戦では、新戦術にもトライしている。武藤雄樹をゼロトップに置き、前線に空けたスペースを使って連動する新システムだ。明本考浩を飛び出し役として左サイドへ移し、右サイドバックには負傷で出遅れた西大伍が、満を持して登場。このゼロトップ布陣がゲーム支配力を高め、浦和は勝ち点を積み上げた。
しかし、この形も徐々に通じなくなる。相手に割り切って守備を固められると、ゼロトップの動きをしても、スペースが空きづらくなる。ワンパターンでは辛い。また、ゼロトップの4-1-4-1で、一度ハマった武田英寿が負傷離脱するなど、選手が揃わないことも災いした。10節のC大阪戦、12節の福岡戦では0-1、0-2と、ボールを持ちながらも攻め切れず、ノーゴールで敗れた。
そんな頃、チームが再びつまずき始めた5月初旬、颯爽とチームに現れたのが、キャスパー・ユンカーである。
この明確なフィニッシュを備えた点取り屋に合わせ、浦和は各選手がプレーすることで、アタッキングサードを攻め切る形がハッキリと見えてきた。13節の仙台戦は2-0、14節のG大阪戦は3-0、15節の神戸戦は2-0と、明らかに得点力が増している。
ユンカー加入後の変化を示す象徴的な選手は、田中達也だ。ゴール前のポジショニングが良く、クロスから得点できるユンカーが入ったことで、サイド突破とクロスに持ち味のある田中が出場機会を増やした。また、ゼロトップの解体に伴い、飛び出し役だった明本は、左サイドバックに新境地を見出す。このコンバートもハマった。
ゼロトップといい、ユンカーシステムといい、リカルド・ロドリゲスは現有選手の特性を生かし、システムのパズルを組み立てるのが巧い。それは試合中の采配にも見られる。この監督が修正を施した後は、がらりとゲーム内容が変わる。昨季は後半になればなるほど、選手が代われば代わるほど、内容が悪くなったが、今季は違う。修正がしっかりと利く。チーム全体がうまく回っている証拠だろう。
後半戦の鍵は、3バック対策
もっとも、監督の戦術パズルが巧すぎるが故に、最近は戦術の修正が飲水タイム待ちになるきらいもあり、それは若干気がかり。徐々に解決するしかない。
また、5月から無敵を誇ったユンカーシステムも、最近は詰まり気味だ。相手に特徴を分析され、苦戦する試合が増えた。ユンカーの得点ペースは下がり、小泉も徹底マークに遭っている。リカルド・ロドリゲスのパズルは、選手の特徴がピタッとはまるだけに、その形が選手の個に依存しがちで、相手に読み切られると弱い。そこをピッチ内で乗り切れるほどの柔軟性は、まだ無いようだ。
東京五輪でJリーグが中断する間、浦和は新たな変化が求められている。
キーワードは、「3バック対策」だ。
最近の浦和は、18節の湘南戦といい、22節の大分戦といい、3バックで球際に激しく来るチームに苦戦する傾向が見えてきた。なぜ、3バックに弱いのか? 今季の浦和は5レーンを分割したポジショナルな攻撃を仕掛け、4バック相手には隙間を突くコンビネーションを見せている。しかし、相手が3バック、あるいは撤退時に5バックとなる場合は、5レーンを最初から人に埋められてしまうため、向上させてきたポジショナル戦術の効果が薄くなる。
全体的な配置だけでは、攻撃の優位性を取れないので、5バック相手には局面を破っていく必要がある。その鍵を握るのが、新加入の江坂任、酒井宏樹、ショルツになりそうだが、個人的にはもう一人、興梠慎三に注目している。
思い返せば、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督の時代、浦和は5バックの相手を攻略するのを、むしろ得意としていた。どちらかと言えば、4-4-2で高い位置からプレスに来るチームのほうが苦手で、5バックの相手には押し込んで、攻め切って、勝ち切ることが出来ていた。
思い出してほしい。その要因は何だったのか。
まずは両サイドに、1対1で縦に仕掛けられる関根貴大、駒井善成がいたこと。そして、彼らにサイドを任せ、中央はKLM(興梠、李忠成、武藤)という、クロスに対して抜群の入り方ができる3人がいたこと。さらに森脇良太のように、5バックに対して後方から6人目でオーバーラップする選手もいた。5バックを崩す手段が、てんこ盛りだった。
もう一つは、最前線の興梠のクオリティーだ。5バックで構える相手に、5レーンを埋めて攻撃を繰り出せば、各所が1対1になる。となれば、一番ゴールに近いところで入れ替わってしまえば、即ビッグチャンスだ。その入れ替わりの能力が、興梠は極めて高い。相手が5バックのときこそ、最前線で起用したい選手だ。
それに合わせ、ユンカーをセカンドトップに下げてもいい。小泉も一列下げ、江坂を起用すれば、KJE(興梠、ユンカー、江坂)がクロスに入って行く形も、迫力満点だ。
一方、サイドから「縦に」仕掛けるドリブラーは、当時ほどの専門家がいないので、小泉や西と絡みつつ、連係で出て行くスタイルになるか。また、森脇のように6人目で後方からオーバーラップする選手は……酒井宏樹? それも面白い。
後半戦は最初から、札幌、鳥栖、広島、湘南など、3バックとの対戦が多く組まれている。初陣型、ゼロトップ、ユンカーシステムときて、次は? リカルド・ロドリゲス、3バックをぶち破る『第4のパズル』は、どんな絵になるのか。
再開が待ち遠しい。
清水 英斗(しみず・ひでと)
サッカーライター。1979年生まれ、岐阜県下呂市出身。プレイヤー目線でサッカーを分析する独自の観点が魅力。著書に『日本サッカーを強くする観戦力』、『サッカーは監督で決まる リーダーたちの統率術』、『サッカー守備DF&GK練習メニュー 100』など。