緊急テレワ一ク1ヶ月目、GMO熊谷正寿代表に聞く『成功する在宅勤務』の秘訣
KNNポール神田です。
GMOグループは、2020年1月16日(木)に災害対策本部を立ち上げ、1月26日(日)に世界6000名(国内約4650名)のうち、4,000名の在宅勤務を決定。翌1月27日(月)から、在宅勤務を実施している。在宅勤務開始からちょうど1ヶ月経過。GMOグループ熊谷正寿グループ代表にZOOMビデオ会議による『テレワークインタビュー』を実施。
■在宅勤務モードの4者別拠点による異例のインタビュー
通常のCEOインタビューならば、先方企業にお伺いし、広報担当や秘書の方と同室で行うというケースが一般的だが、GMO社はもっか4,000名もの『テレワーク/在宅勤務』を実施中。熊谷代表も広報担当の方も秘書の方も、そして筆者もすべてが別々の場所からアクセスしてインタビューという異色の『テレワークインタビュー』となった。
今回、熊谷CEOにインタビューしたくなったのはこのツイートがきっかけだった。
在宅勤務開始から3週間。何が凄いかと言うと、業績に影響がほぼ無い。この結果を見て、そもそもオフィスが必要なのか真剣に考えている(汗)
そしてその『結果』というのがこの決算レポートだった。
https://ir.gmo.jp/pdf/presen/gmo20200212_01.pdf
業績への影響はなし
金融◎ WEB集客○ 訪問営業 ▲ という結果であり、
在宅勤務は…
1.働き方改革にプラス
2.オフィスコスト削減
3.経営効率向上
に貢献している。
■単なる在宅勤務のメリットではない、すでに次のフェーズが見えてきた…
在宅勤務によるメリットやデメリットはある程度想像つきやすいことが多い、しかし、今回のインタビューでは在宅勤務を中長期的に続けていくとどうなるのかという視点で伺うことができた。それは、オフィスの改革や働き方やワークライフバランスの改革だけにとどまらず、経営層にとっても社員にとっても、双方共にメリットのある次世代の働き方の姿ともいえるのかもしれない…。
■週1回の在宅勤務で1200名増員、週2回の在宅勤務で2400名の社員の増員が可能となるオフィス倍増計画
「この1ヶ月間の4,000人もの緊急在宅勤務の経験を通じて、中長期的には『オフィスコストの削減』につながることを確信しました。今まで25年間、わたしたちの会社ではパートナー(GMOでは社員をパートナーと呼んでいる)は、ずっと右肩上がりの増員でオフィススペースは常に余裕を持っていても、数年で手狭になっていました。しかし、今回の1ヶ月におよぶ、在宅勤務のアンケートを取り、それをもとにある強力な確信を持つことができました。
たとえば、週5日間勤務のうち、1日を在宅勤務にすれば、フリーアドレスの座席では、20%を常に空けることができます。それをグループ全社で、週1日の在宅勤務を徹底すれば、全員で6,000人いますので、20%にあたる1,200名分のオフィススペースを活用することができるようになるのです。それが、週二日の在宅勤務であれば、オフィスを40%空けることができるようになり、2,400名分が増員となっても、オフィスを増やすことなく、現在のオフィスのままで対応が可能となるのです。これは会社を120%〜140%も有効活用できるのです。
これから1〜2年はオフィスを拡充する必要がなくなり、オフィスコストの増加抑制の効果が生まれ、利益率の改善につながります。私たちは上場企業なので、決定事項でないことをお話しできない立場にありますが、個人的には、これをぜひやりたいと決めました(笑)」
■オフィスコスト削減効果の『50%を在宅勤務手当』でパートナーに還元したい
「次に、考えているのが、オフィスコストの削減効果の分配です。例えばオフィスコストの削減効果が『100』実現することができたならば、そのうちの『50』をパートナーの『在宅勤務の手当』というカタチで還元し、残りの『50』を利益計上するという仕組みです。なぜこう考えたかというと…。
今回、4,000名のパートナーにアンケートをとった結果、いろんな意見を聞くことができました。全体的に良い意見が多かったのですが、中には『光熱費が気になる…』『会社に行けばランチが無料だったのに…』という声もありました。…であれば、『在宅勤務手当』というカタチで反映できれば解決できると考えました。まだ、幹部たちと十分にディスカッションができていませんが、ボクの感覚では、週に2日の在宅勤務というワークスタイルは十分に行けそうな手応えを感じています。そこで会社の有効活用ができ、セーブできたコストの50%を還元するのは会社にとってもパートナーにとっても双方にとってハッピーな姿だと考えています。」
■在宅勤務でサボったり副業したりする人は?
□筆者のまわりの経営者では、在宅勤務となると家でサボったり、副業する人がでてくるのではと懸念されている経営者の人も多いのですが、そのあたりを熊谷さんはどう考えておられますか?
「これは、そもそもなんですが、在宅勤務でサボったり、副業するような人は、会社に来てても、きっとサボったりしてる人なんですよね(笑)。だから、在宅勤務が採用できないというのでは、もはや今の時代の会社ではないですね。むしろ、在宅勤務の方が生産性が上がり、業績が上がる会社にしていかなければならないと考えています。」
■『痛勤時間』がなくなり『可処分時間』が増える
「パートナーの皆さんが、朝、起きてから、身支度をし、駅に行き、通勤電車にもまれてようやく会社に到着する。片道30分なら往復で1時間。片道が1時間の人ならば、往復で2時間。ピークの時間には『痛勤電車』となり、生産性のある時間でもない。もちろん給与がもらえる時間でもない。しかし、これが往復2時間の人であれば、週に2日の在宅勤務があれば、一週間で4時間、月にして16時間、年間52週だと208時間のゆとりのある自由な可処分時間として自由に使える時間となるのです。
基本的に在宅勤務はパートナーにとってのハッピーを生む制度でないと意味がないですね。みんながそれぞれ、自己統制力をもって望めばワークライフバランスも充実するはずなのです。8時間仕事をするとして、『痛勤時間』に2時間って、仕事時間の25%もがなにもできない時間ですからね。1日は、24時間以上延ばせないので、在宅勤務で通勤時間がなくなるというのは非常に大きいですね。」
■10年以上の在宅勤務に関してのノウハウ
□今週になってから、何千名単位の大企業が突如として、緊急『在宅勤務』に続々と参戦されました。在宅勤務をスムーズに実施するというノウハウは?
「私たちは、かれこれ10年以上も前から、在宅勤務を『訓練』として毎年おこなってきていました。今回も、BCP観点からの緊急対応のための在宅勤務ですから、ただ、訓練どおりおこなっているだけなんです。むしろ、在宅勤務に重要なのは、システムと組織の習慣にあると思うのです。
システム面では、『F5社』の『 VPN (Virtual Private Network)」』に、『VDI(Virtual Desktop Infrastructure:仮想デスクトップ基盤)』は、自社製の『お名前デスクトップ』をカスタマイズして使用しています。そして在宅のPCとネット回線さえあればデスクトップ環境に関しては、ほぼ会社にいるのと変わりがありません。むしろ、システム面やハード面は、いまやお金や開発時間をかければ実現するのですが、在宅勤務で、最も重要なのは、『組織の習慣』の方なんですね。」
■『組織の習慣』がそもそもないと在宅勤務の統率がとれない
「システム面よりも重要なのが、『組織の習慣』なんです。それは、『集う習慣』と『期限管理の習慣』に分解できます。『集う習慣』というのは物理的に集まらなくてもよく、集まりとしての組織力の強化です。宗教などと同様、毎週日曜に教会に集うことによって集まる力が生まれるのです。そのトレーニングが普段からないと組織力は形成されません。
それと同時に『期限を守る』という習慣です。期限というものに対してのコミットメントが習慣化していないと組織力が活かせません。
この『集う習慣』と『期限管理の習慣』の2つの習慣が徹底されていないと『在宅勤務』ではすべてが、バラバラになってしまいます。在宅勤務の成功の鍵は、この2つの習慣が十分にトレーニングされている必要があるのです。
そして、最終的には、システム面と組織の習慣の両輪がうまく回ることによって在宅勤務でも十分に成果が生み出せると思います。」
■10年にもおよぶ『在宅勤務』に関する知見
□GMO社では、普段から、ZOOMのテレビ会議システムで100人単位でのミーティングを常時おこなっているという。VDIツールの販売についてはすでにあるが、熊谷さんは、今回の新型ウィルスが落ち着いたら、それらの総合的な運用方法などをお客様には無償で提供していきたいという。また、株主総会は対面開催が基本であるがテレワークでできる「インターネット総会」なども安倍総理にも提言されている。
渋谷という繁華街に集って働くGMOで、1月末から『在宅勤務』の初動の速さで、すでに1ヶ月もの間、社員が会社に出勤せずに、業務を継続させ、業績に影響がでていない。そればかりか、新たな働き方からのオフィスの有効活用、報酬制度、それを支える組織の習慣にいたるまでを提言。
一朝一夕ではない、10年にも及ぶ蓄積がささえるネット企業ならではの成功の戦略の一端がうかがえた気がした。
■【追記】在宅勤務に関するアンケートが公開
2020年2月28日
~回答数2,800件の従業員(パートナー)の声から在宅勤務の課題を抽出~
https://www.gmo.jp/news/article/6699/
87.2%がプラスの評価 34%がとても良かったと反応。悪かったの評価は13% 一般事務の職種が在宅勤務と相性が悪そうだ。
業務に支障があった具体的な理由がわかる。在宅勤務の作業環境面での具体的な支障がよくわかる。