佳子さまも感動!”目で見る言葉”と伝統芸能がとけあう、「手話狂言」の世界とは?
滑稽な表情を巧みに演じ、踊るように腕や手を動かしては、足を踏み鳴らす。満員の客席からは、舞台上の演者の所作に、時折どっと笑いがあふれる。しかし、そこにはガイドとして流れる音声以外、言葉は聞こえてこない。
それが1月8日、秋篠宮ご夫妻の次女・佳子さまが、国立能楽堂で鑑賞された「第43回手話狂言・初春の会」の上演模様だ。演じているのは「日本ろう者劇団」の俳優さんたち。
実は、佳子さまが鑑賞される前日、筆者も同じ公演を実際に見てきたが、もしかしたら佳子さまもいらっしゃるのでは…と思っていたところ、その日は昭和天皇の命日とあって宮中祭祀が行われていることもあり、控えられたのだろう。
今回ご一緒に訪れる予定だった紀子さまは、昨年末からご体調がすぐれず、数日前から胃腸が不調であったために出席がかなわなかった。
◆佳子さまが鑑賞された「手話狂言」の舞台
600年以上も受け継がれてきた伝統芸能の、能や狂言を鑑賞できる国立能楽堂は、JR千駄ヶ谷駅から徒歩5分のところにある。開演から30分ほど前に到着したが、すでに建物の前は、今日の公演を見に来た人たちで賑わっていた。中に入ると、手話で話している人々の姿があちらこちらにあった。
「手話狂言」の公演は、黒柳徹子さんが『窓ぎわのトットちゃん』の印税をもとに設立した、社会福祉法人トット基金が主催している。聴覚に障がいがある俳優らが集まる「日本ろう者劇団」はトット基金の支援を受け、様々な演劇を手話によって上演しているが、最も力を入れているのがこの「手話狂言」だ。
公演の最初には黒柳徹子さんのお話があり、41年前にイタリアのパレルモで初めて手話狂言を披露したことや、手話表現の面白さについて楽しいトークを展開。
演目については、手話狂言を指導する和泉流狂言師・三宅右近さんの息子、三宅近成(ちかなり)さんが見どころを解説していく。
たとえば、餅を食べてから文無しが判り、業平が右往左往する「業平餅(なりひらもち)」の演目では、主人公である在原業平が自分の名を告げるにはどうするのか。いろいろ工夫を重ね、平安時代の貴族男性が威厳を出すために、顔の横につける扇状の装飾を手話で表し、それを「業平」の名であるとして表現したという。
しかも、ただ単に手話を状況説明の言語手段とせず、狂言という独特の所作と表現世界を崩すことなく、滑らかに演じるのは途方もない努力が必要だったことだろう。自在に手話を話し、その上達ぶりが注目される佳子さまも、そのあたりに注目されていたのではないだろうか。
◆佳子さまと手話、ますます広がる可能性
「業平餅」のほかにも、ヤブ医者と下界に落ちた雷様との騒動を描く「雷」、狐を恐れる滑稽譚「狐塚」が上演されたが、いずれも、これぞ狂言と心から楽しめる内容だった。
狂言役者の修業は「猿に始まり、狐に終わる」と言われる伝統芸能。どこか難しく考えるむきもあるが、実はそこに手話が加わると、演じる役のキャラクターをさらに引き立て、豊かな表情とともに物語がさらにわかりやすくなったのは、とても意外な発見であった。
佳子さまも幼い頃からフィギュアスケートやダンスなど、体を使って表現することにまい進されてきたので、終演後の演者の皆さんとの懇談では細部まで質問されたとのこと。「手話狂言」を演じる苦労や、伝えるための創意工夫を十分に理解されていたのだ。
去年、ペルーを公式訪問された時には、現地で使われている手話を事前にマスターして、聴覚に障害がある子どもたちと交流されたほど、もはや佳子さまにとっての手話は、日常の一部といっても過言ではなく、思い入れも深い。
トット基金では全国の学校に出掛けて「手話狂言」を上演し、手話と狂言の醍醐味を子どもたちに伝える活動も行っているという。今年はパリで公演する計画も立てているそうで、日本文化の素晴らしさを広めるきっかけにもなるだろう。
来年、日本で初めて耳の聞こえないアスリートのための国際スポーツ大会、デフリンピックの東京開催が予定されており、手話への関心がこれからますます高まるに違いない。