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ホントに自称“難民”だけ?NHK「クロ現」が無視した「暴行で流産」「拉致され殺害予告」当事者の声

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
問題のクローズアップ現代+の放送 NHKウェブサイトより

 NHKの番組「クローズアップ現代+」が批判を浴びている。「日本での難民認定申請は、就労目的」という法務省・入国管理局の主張を無批判に伝えるものであった一方、実際に紛争地などから日本に庇護を求めてきた難民当事者の声は番組中、一切紹介されなかったのだ。「クローズアップ現代+」の番組内容に対し、難民支援に取り組むNPOからも、難民への差別を助長すると危惧する声明が出された。

〇名古屋入管局長の大暴言

 問題の放送は、今月6日に地上波で放送された「自称“難民”が急増!? 超人手不足でいま何が…?」と題した回。少子高齢化による人手不足が深刻になる中、就労目的で来た外国人が「難民」と偽りの申請をすることで、滞在・労働許可を得て、日本で就労している、というものだ。

 技能実習生や留学生等の一部が“難民”と自称として難民認定申請を行っていること自体は事実であるが、問題は、いわゆる「真の難民」、つまり戦争や迫害などから、庇護を求めて日本に来た、難民認定申請者の存在を、番組中で全く取り上げなかったことだ。その一方で、法務省・入国管理局の明らかに事実と異なる主張が取り上げられた。番組中、名古屋入国管理局の藤原浩昭局長は、こうコメントしている。

「その申請の理由を見ると、『借金に追われている』とか、いわゆる政治難民とは考えられないような理由を挙げて申請をしてくるということが多くみられる。本当に困って、あるいは政治的迫害を受けてというものは、ほとんどありません」

出典:クローズアップ現代+より

 だが、認定NPO法人「難民支援協会」(JRA)の広報担当・野津美由紀さんは次のように反論する。

名古屋入管の審査によって難民不認定となったものの、訴訟によって不認定処分取り消しとなり、難民として認定された事例はいくつもあります。2016年には、名古屋高裁が、ネパール人二人とウガンダ人の不認定処分を相次いで取り消しました

 上記の事例では、名古屋入管に難民不認定とされたネパール人男性は、現地過激派5,6人に拉致された上、銃を突き付けられ「入党しなければ殺す」と脅されている。同じく不認定とされたウガンダ人女性は、野党の党員であったために、政府支持派の男達から殴る蹴るの暴行を受け、流産した。さらに現地野党幹部が「彼女は与党から命を狙われている」と証言している。彼らの訴えを、名古屋高裁は「難民認定基準ハンドブック」(国連難民高等弁務官事務所・編)にしたがって事実認定し、不認定処分を取り消したのだ。

 クローズアップ現代+は、これらの事例を踏まえた上で、藤原・名古屋入管局長の「本当に困って、あるいは政治的迫害を受けての難民申請はほとんどない」という発言を紹介したのだろうか。

〇事実と異なる解説、入管の主張を一方的に放送

 クローズアップ現代+の「自称“難民”が急増~」の回では、他にも事実と乖離した解説やナレーションが行われていた。

「本来、難民とは、紛争や暴力のまん延によって迫害のおそれがあり、国を逃れた人々のことです。世界的に多いのが、シリアなどの国々。しかし今、日本で難民申請が増えているのは、フィリピン・ベトナム・インドネシアなど、東南アジアの国ばかりです」

出典:クローズアップ現代+より

 シリア難民も日本で庇護を求めているが、2017年12月までに難民認定申請した約80人のうち、認められたのは12人だけだ。そもそも、日本の難民認定数は先進国としては異様に低く、2017年の認定率は、わずか0.2%。本来、難民として認定されるべき人々も認定されない状況が続いている(関連記事)。

 

 フィリピンでも、ミンダナオ島周辺では、長年の政府からの弾圧・搾取に反発する先住民族の独立派や、イスラム過激派などが、政府軍と対立。外務省の「フィリピンの危険情報」でも、

「2017年5月以降,南ラナオ州マラウィ市を占拠していたイスラム過激派組織と治安部隊との間で続いた衝突は、同年10月に終結を迎えたものの、未だに現地では同組織関係者の捜索等が続行されており、流動的な治安情勢が続いています」

出典:https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2018T014.html#ad-image-0

として、渡航中止勧告が発令されている。

 東南アジアの国々でも、ミャンマーでは、同国政府軍によるロヒンギャへの苛烈な弾圧は、世界中が懸念していることだ。だが、そのロヒンギャの人々でさえ、日本では入管の収容施設に拘束されている関連記事)。また、同国では、政府軍によるシャン族やカチン族などの少数民族への弾圧、これに抵抗する現地武装勢力との戦闘も続いており、シャン州やカチン州などについて、外務省は渡航中止勧告を発令している。

 また、番組中では触れられていなかったが、ここ最近、日本での難民認定申請が増えている国として、カメルーンがある。

 入国管理局の難民認定制度の見直しについても、一面的な解説だった。

 「入国管理局では今年(2018年)1月から難民認定制度の運用を見直しました。申請から2か月以内に簡単な審査を行い、明らかに難民ではないと思われるケースでは、就労も滞在も認めないことにしました。難民の可能性が高い場合には、速やかに就労を許可するとしています。この見直しの結果、今年1月~3月までの難民申請の件数は、前の年の同じ時期と比べて13%減っています」

出典:クローズアップ現代+より

 前出の野津さんは、難民認定制度の見直しの問題点について、こう指摘する。

今年1月の見直しによって、難民認定が不認定となり再申請した人々が、退去強制の手続きの対象とされるようになりました。しかし、2016年に難民認定、或いは人道的配慮からの在留許可された125人のうち、再申請での認定・在留許可された人は26人です。つまり、入管側の最初の審査で、『不認定』とされた人々の中にも、実際には庇護すべき人々が含まれているのです。それにもかかわらず、再申請だからと、一律に就労を禁じることは、帰れない事情があって難民認定の再申請している人達が生き延びる手段までも奪ってしまうことになります」

〇相次ぐ批判、問い合わせに回答なしのNHK

 「自称“難民”が急増~」の回の放送後、クローズアップ現代+の報道姿勢に批判的な意見がツイッター上でも相次いだ。

「今、世界で深刻な問題である難民問題について、偏見を広げてしまうのではないだろうかと、非常に疑問を感じました」

「クローズアップ現代の中の人は、想像力が欠け過ぎている…」

「少なくとも本日の #クロ現 まじめにBPO案件なのでは。『偽装』難民。キャッチーなのはわかるけど、偏った伝え方は良くないし、難民申請者に対しての偏見を助長しかねない」

東日本入国管理センターで頻発する被収容者の自殺・自殺未遂について、同センタ―に改善を申し入れる#FREEUSHIKUのメンバー達。筆者撮影。
東日本入国管理センターで頻発する被収容者の自殺・自殺未遂について、同センタ―に改善を申し入れる#FREEUSHIKUのメンバー達。筆者撮影。

 入国管理局の収容施設に拘束されている外国人達の人権問題について取り組むネット有志の #FREEUSHIKU も、クローズアップ現代+の放送内容について、

第一に、今回の番組は「日本が本来認めるべき難民も認めていない」という基本的事実をあえて報じませんでした。

第二に、今回の番組は、名古屋入国管理局局長の発言を異なる視点をナレーションなどで対置することなくそのまま放送し、国連にも勧告を受けた入国管理局の深刻な人権問題を隠しました。

第三に、今回の番組は「就労目的の外国人による難民申請が増えている理由」を正確に報じませんでした。

出典:https://note.mu/freeushiku2018/n/n3a9b21898a8d

と問題点を指摘した。

 難民支援協会もそのウェブサイト上で、クローズアップ現代+の放送に対し、「難民申請者全体のイメージを著しく損なう内容に終始していた点で、非常に遺憾です」との声明を発表した。

 クローズアップ現代+は、難民当事者や、その支援団体に取材を行ったのか。名古屋入管局長の発言について裏をとったのか。筆者は、NHKに問い合わせたが、問い合わせから10日あまり経つ今も、回答を得ていない。

 難民支援協会(JAR)は、その声明の中で、

「難民に該当しない人が、就労のみを目的に難民申請することは、JARとしても不適切だと考えます。しかし、それは、労働力を必要とする日本社会の現状に見合った外国人労働者の受け入れ政策がないなかで生まれている現象に過ぎません」

出典:https://www.refugee.or.jp/jar/publicity/2018/06/06-0000.shtml

 と指摘している。

*クローズアップ現代で放送された内容について―難民支援協会 https://www.refugee.or.jp/jar/publicity/2018/06/06-0000.shtml

 日本の政策・制度の不備を十分に掘り下げず、難民当事者やその支援団体の言い分も紹介せず、「自称“難民”」というパワーワードで差別や偏見を助長。その上、番組の制作過程についての問い合わせにも応答しない。クローズアップ現代+の姿勢は、「政治的に公平であること」「事実をまげないこと」等の倫理規範を示す放送法第4条にもとるものではないだろうか。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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