ドイツ、新型コロナウィルスの脅威 外出・接触制限で市民の生活はどう変わった?
ドイツの新型コロナウィルス感染拡大が止まらない。メルケル首相は3月22日、感染連鎖を最小限に食い止めるべく、全国的な外出制限措置を発令した。適用期間は3月23日からとりあえず2週間だった。だが、感染者はこのところ1日当たり4.000人から5.000人ほど確認されており、事態は深刻だ。「人命を守る」を最優先に掲げ、外出と接触制限措置をさらに2週間延長した。
ドイツ国内の感染者数は、4月3日現在、84,794人、感染による死亡者は1,107人に上る(4月3日05時10分、米ジョンズ・ホプキンズ大学まとめ)。
外出と接触制限で戸惑う市民
メルケル首相は4月1日、外出と接触制限措置を「4月19日まで延長する」と電話記者会見で発表した。
外出と接触制限措置の延長は、イースター祝日(4月12日、13日))を挟む19日まで。つまりこの期間、日帰り旅行や家族と親せきが集まることを禁止したことになる。メルケル首相は、「人命が第一」と市民に訴え、協力を求めた。これはあくまでも現時点での判断であり、その後、外出制限措置を解除するわけではないとした。
また独保健相シュパ―ン氏は、「リスクグループとされる基礎疾患を持つ人(高血圧・糖尿病・心臓や肺疾患など)や高齢者においては、今後外出制限期間が一般市民よりもさらに長期にわたるだろう。病院や医院の負担はさらに増え続けることが考えられ、状況は悪化しかねない」と示唆した。
さらにロベルト・コッホ研究所のヴィ―ラー所長は、「まだ予断は許されない。何時収束するか、現時点では予測できないが、この先数か月はかかるだろう」と見解を語った。
ここで外出と接触制限措置について少し紹介したい。
まず公共の場では、市民3人以上が集まることを禁止。例外として同居家族は可能。屋外では、他人との距離は最低1.5メートル、できれば2メートルの距離を置く。飲食店は営業禁止、ただしテイクアウトや宅配は可能。通勤や通院、他者への手助けなどはこれまで通り可能など、細かく規定されている。
この措置を守らない市民には罰金が科せられる(州によって罰金額は異なる)。例えば国内で感染者の一番多いノルトライン・ウヴェストファーレン州では、1人当たり200ユーロ(2万4000円)から最高25,000ユーロ(300万円)の罰金が科せられる(1ユーロ=120円で換算)。
不安そして買い占め
日に日に感染者と死亡者が増えていく中で、来週、いや、明日のことさえ想像できない現実に、市民の不安は募るばかりだ。そして各地のスーパーマーケットやドラッグストアに駆けつける消費者が急増した。パスタ類や米、野菜や果物の缶詰、インスタントスープなど長期保存のできる食品や、トイレットペーパー、消毒液などが瞬く間に店から消え失せていった。
独政府は「商品は十分ある。流通が追いついていないだけ。買い占めはやめるように」と語るが、やはり市民の不安は収まることがなかった。
なかでもトイレットペーパーは、何度買いに出かけても棚に商品が補充されていなかった。筆者は、同品を探して、マンハイム近郊のスーパーやドラックストアを何軒も訪ねたが、案の定入手できなかった。「来週また入りますので、心配なく」と店員さんに言われたが、搬送される正確な日時がわからない限り、頻繁に足を運ぶしかない。
そうこうしているうちに、品薄の商品は1人当たりの販売数が限定されるようになった。キッチンペーパーやトイレットペーパーは1人1パック、小麦粉は1キロ入2袋、オリーブオイル1本など。意外だったのはドライイーストの売り切れが続いていることだ。パンや菓子を焼くのが大好きなドイツ人らしい。また、ザワークラウト(酢漬けキャベツ)も徐々に見かけなくなった。長期間にわたる外出制限措置を想定して、ビタミン補給用として買い占められているようだ。
外出・接触制限は何時まで続く?
今回の新型コロナウィルス感染拡大を抑止する制限について、多くの市民は異議を唱えておらず、現状況では一人一人ができることをすべきと賛同しており75%が正しい規制だと回答、20%はさらに厳しい規制を求めている。
一方で、市民の精神的負担も日々募っていくばかりだ。自宅にこもる時間が長くなるにつれてフラストレーションが高まり、家庭内暴力も増えるだろうという声もある。
一番心配なのは、家族の健康状態、経済の安定、両親や高齢の友人など、自身の精神健康状態などと続く。この調査は3月、18歳以上のドイツ人686名を対象としたアンケート調査による複数回答をまとめた結果だ。(出典・ドイツ連邦統計局)
見えない新型コロナウィルス感染の脅威
ドイツ内でどのように新型コロナウィルスが感染していったか、ここでふり返ってみたい。最初の感染者が確認されてからわずか2か月ほどで外出制限措置を導入したドイツだが、瞬く間に変貌を遂げる街の様子に、市民も驚くばかりだ。
人口約8100万人のドイツでは1月22日、バイエルン州の男性が国内初の感染者と判明した。この男性は、ミュンヘン近郊の勤務先で行われたセミナーに参加した中国人女性から感染したという。男性はすぐ隔離されたが、本人はいたって元気で過ごしていると感想を述べた。同セミナーに参加した他の社員も隔離されたが大事に至ることはなかったことから、事態は下火になったかのように見えた。
だが2月下旬になると、感染者数の増加は各地で加速した。感染者の多くが、イタリアやオーストリアでスキーを楽しんだ後、帰宅した人達。あるいは海外で感染者とコンタクトのあったビジネスパーソンだ。そして伝統的なカーニバルを祝う市民が各地にあふれ、感染が拡大していき、3月上旬から深刻な状況となった。
この時点で独政府は市民に外出自粛を要請したものの、毎冬流行するインフルエンザのような疾患と楽観する市民も多く、晴天の日には公園や街なかに人々がまるで何もなかったかのように集まっていた。
外出自粛の要請は、独政府の声明にもかかわらず一部の市民に届かなかった。そのため、メルケル首相は感染者拡大抑止の次のステップとして、外出と接触制限措置を発令したわけだ。
例年、ドイツの多くの家庭ではイースターとクリスマスに家族が集まり、近況報告や旅行の思い出などを語り合う。我が家も子供達との再会を楽しみにしていたが、イースターには実現しそうもない。今年、家族全員で食卓を囲むのは何時になるのだろうか。
まずは各自が自主隔離を心がけ、新型コロナウィルス感染の収束を願うばかりだ。