個人型確定拠出年金(iDeCo)の取引相手を決める、もっとも簡単な公式
個人型確定拠出年金は、金融機関によってサービスが違う
「自分の老後のためにお金を貯めるなら、国は税金を取らないよ」という仕組みが確定拠出年金(個人型)です。この個人型確定拠出年金、2017年1月からの利用者範囲の拡大を控え、愛称はiDeCo(イデコ)と決まり、金融機関各社のつばぜり合いが激しくなってきました。
まず、金融商品のラインナップ拡充、特に運用にかかる手数料の低い投資信託の充実が進んでいます。ラインナップを全取っ替えしているところもあるくらいです。これはすなわち金融機関の取り分を減らしてでも、客にとって有利な運用条件を提示するということです。SBI証券、楽天証券、労働金庫連合会などが目立った取り組みとなっています。
また、口座管理手数料の引き下げも進んでいます。一定残高の条件を満たすか、自分の銀行から引き落としをかけてくれるなどの取引条件を満たせば、口座管理手数料を引き下げる、という戦略です。残高が積み上がるまで時間がかかることも考慮し、一定期間は自社の口座維持手数料をゼロにする(国民年金基金連合会側が徴収する167円は絶対にかかるが)というところもあります。こちらもSBI証券、楽天証券、りそな銀行、みずほ銀行、野村證券などが攻めに出ています。
2つの戦略はいずれも「金融機関によってはサービスが異なってくる」というiDeCoの特徴がよく現れています。国の制度だと思っていると、民間の金融機関ごとにサービス競争が行われており、ずいぶん違ってくるのです。
金融機関の競争は一方で、ユーザーサイドとして「どこでiDeCoの口座を開設するか」を悩ませる要因にもなっています。しかし、各社の競争がほとんどゼロだった数年前と比べればこれはうれしい悲鳴というべきでしょう。
比較検討サイトが徐々に増えてきているが、決め手はどこに置くべきか
iDeCoで各社の差が出るのは、下記の2つのポイントです。
1.口座管理手数料
口座管理コストを引かれるのがiDeCoの損得を難しくしている要素ですが、これも各社によって異なります。
必ず引かれるのは「国民年金基金連合会(制度の実施主体)」「信託銀行(実際の資産を預かる))」の費用で合計で月167円です。
しかし、ここに運営管理機関(iDeCoビジネスを担当する金融機関のこと)のコストをどれくらい乗せてくるかは各社の裁量によります。月400円以上乗せてくるところもあれば、条件つきながら0円としてくるところもあり、年4800円もの差が生じえます。
2.運用商品の手数料
預貯金等に預けてしまえば手数料はかかりません(込み込みで超低金利が提示されていると考える)。しかし株式等で運用する場合の選択肢である投資信託は手数料が取られます。これは運用にかかる売買手数料や事務手数料です。信託報酬(運用管理費用)といいます。
この信託報酬、年3%くらい徴収する投資信託もあれば、年0.3%以下の投資信託もあります。仮に残高が100万円あったとすればその差は年2万7000円にもなりますし、残高が500万円くらいまでふくらんだときは、年13万5000円にもなる大きな差です。
残念ながら手数料が高いことは高い運用成績を保証しませんし、手数料が高いから元本割れの可能性が減るわけでもありません。手数料の低い運用選択肢があることはとても重要です。
各社のサービス比較を、制度実施主体である国民年金基金連合会は行っていません。そこで、第三者の比較サイトが役立ちます。Yahoo!はまだ比較サイトを用意していませんし(作るのならば私が監修します!)、価格.comも今のところ比較サービスがないようです。
投資信託の評価会社であるモーニングスター(https://www.morningstar.co.jp/ideco/)や、NPO401k教育協会(iDeCoナビhttp://www.dcnenkin.jp/)が比較サイトを運営しています。
それぞれ、各社の情報を一覧できる便利なサイトですが、「ズバリここ!」という検索にはしていないところにちょっとだけもったいなさがあります。
簡単な公式で、納得のいく比較をしてみよう
そこで今回は、筆者がいくつかの雑誌の取材で提案した「iDeCo比較用の公式」を紹介したいと思います。
公式はこうです。
''' (α:月額口座管理手数料をスコア化した数値)
口座維持手数料(月額、税込)円×12÷10000
+
(β:バランス型ファンドのもっとも運用手数料
が低い商品の税込み手数料(年率、税込))
α+β=ランキングスコア'''
低いほうが優秀(安いということ!)
αは要するに100万円預けたときの手数料を年率で換算したものです。
βについては、運用商品リストからバランス型と呼ばれる投資信託をみつけ、その中で一番手数料が低いものを選びます(運用管理費用ないし信託報酬として記載されている)。
公式にあてはめてオススメの金融機関はここだ!
日々、各社の新プラン発表もあるなか、執筆時点で筆者の把握している範囲で、いくつかの金融機関を比較したところ、有利な金融機関の例は下記のようなものです。(現プランと新プランが異なる場合、2017年1月からの新プランで試算)
〇SBI証券
α:0.2004 β:0.1836 合計スコア:0.384
※残高50万円以上の場合
50万円未満の場合、スコアは0.7728
〇りそな銀行
α:0.5796 β:0.1944 合計スコア:0.774
※2年間は口座手数料割引あり(A)
りそなからの引き落とし等で割り引きあり(B)
ちなみに(A)0.3948、(B)0.7092 になる
○野村證券
α:0.54 β:0.2376 合計スコア:0.7776
※資産残高が200万円を超えると割引拡大
この場合スコアは0.6816に下がる
○中央労働金庫
α:0.5664 β:0.2808 合計スコア:0.8472
〇楽天証券
α:0.2004 β:0.6480 合計スコア:0.8484
※残高10万円以上の場合。
10万円未満もキャンペーンあり。
ちなみに旧態依然とした個人型確定拠出年金のスコアは1.5以上になります。たとえば
<明らかにダメな例>
〇ゆうちょ銀行
α:0.6444 β:0.918 合計スコア:1.5624
(なお、これよりスコアが悪い金融機関も多数ある)
いくつか試算してみたところ、この公式で1.0を超えているところは基本的に対象外としてもいいと思います。
ここに取り上げている5社は候補として十分に検討に値します。ちなみに楽天証券はバランス型投資信託の手数料が高めですが、個別投資対象ごとの投資信託の手数料は安いので、自分で投資を選択できる人にとってはSBI証券と並んで有力な検討対象になります。
決め手は口座管理手数料と運用手数料のバランス
いずれにせよ、口座管理手数料と運用に関する手数料(信託報酬)のバランスで考えてみることが、個人型確定拠出年金(iDeCo)口座選びのポイントです。
運用の手数料はそもそも私たちのリターンについてはマイナス要因です。確定拠出年金は税金という手取りをマイナスさせる要因を取られずにすむわけですが、運用の手数料も低いなら低いに越したことはありません。
また、口座管理手数料も「運用のコスト」として考えるとバカにならないものがあります。100万円の残高で年6000円の口座管理手数料を払うということは、運用の手数料として考えれば、資産全体にさらに年0.6%の手数料を払っているのも同様だからです。
iDeCoについては、金融機関各社の取り組みが徐々に盛り上がってきていますが、CMのインパクトや営業マンの押しの強さだけで口座を開設するにはもったいない選択肢です。
今回の公式をヒントにして、自分にとって納得のいくパートナー選びをしてみてください。
(公式についての備考)
本公式はiDeCo初心者(それはつまり投資初心者)がWEBからデータを選んで計算し、また現実的な投資対象として選択することを想定していますので、バランス型ファンドを検討軸としています。
公式をカスタマイズしてみたい、という人は投資の理解度に応じて、下記のように手を入れてみてもいいでしょう。
「αについては残高50万円で評価すると、口座管理手数料を厳しく評価することになる」
「βについては、日本株と外国株のインデックスファンドの手数料最安の2本の合計とする、など投資信託の評価方法を変えると投資商品の評価軸を変えることができる」