楽器を愛する人に朗報! 感染を防ぎ安全に演奏をするポイントをまとめた動画が公開
収束の気配を見せない新型コロナ。特に影響を受けているひとつが、吹奏楽や合唱などの活動です。楽器を吹いたときや合唱をしたときに出る飛沫などの微粒子が、感染のリスクになるのではないかと指摘されているからです。
今月、吹奏楽の演奏家や、感染管理の専門家が協力し、スクールバンド(吹奏楽部など)の練習の際に安全に活動を行うポイントをまとめた動画を作り、公開しました。
制作に関わった人たちに、動画に込めた思いと共に対策のポイントを聞きました。
感染リスクがあるから音楽は諦めるべき?
お話を伺ったのは、バンドディレクター・指揮者として活動する甘粕宏和(あまかす・ひろかず)さんと、東京都看護協会で新型コロナ対策プロジェクトのアドバイザーを務める縣智香子(あがた・ちかこ)さんです。
Q 甘粕さんは演奏家として、全国のスクールバンドでの指導を行っています。コロナの感染拡大後、学校の吹奏楽部などではどんな変化がありましたか?
(甘粕)コロナの感染が広がり始めた2月下旬ごろ、小中高に臨時休校が要請されました。同時に、吹奏楽を含めた部活動も中止になりました。
3月のアンサンブルコンテスト全国大会が中止、卒業式や入学式など春の行事も取り止めが相次ぎ、全日本吹奏楽連盟主催の行事も中止が発表され、夏休みくらいまでほぼすべての音楽イベントは開催が困難な状況となりました。
日本中のスクールバンドで練習してきた学生のみなさんは、行事などでの発表をひとつの目標として必死に練習をしてきました。それが奪われたことによる喪失感はどうすれば埋められるのか、指導の立場にある私たちにとっても模索する日々でした。
夏以降、十分な感染対策で各団体が知恵を絞り、工夫を凝らしたコンサートなども少しずつではあるものの行われるようになってきています。一方で、思うように活動できる団体とそうでない団体の格差もうまれています。
例えば大学の吹奏楽部は、いまでも構内に入ることも許されずストップしたままとの声も聞かれます。日本中にたくさんある市民バンドも練習会場の問題などでまだまだ苦労が多いように感じます。
これから気温が下がり乾燥する冬場を迎えるにあたり、安全で楽しい吹奏楽活動を継続して行う術を考え、それをひとつでも多くの団体に伝えることが必要だと思っています。
Q リスクがある中で、部活はお休みした方が良い、という意見もあると思います。どのような思いで動画を作られたのですか?
(甘粕)新型コロナウイルス感染症にはまだわかっていないことも多いです。
一方で「正しく恐れる」ために必要な情報を得たり、「換気」や「手洗い」などすぐにできる対策を講じることでリスクを下げられること。そして何より音楽を愛する日本中の中高生たちと、「自分で考えること」の大切さを共有したいと思いました。
私も発起人の一人として関わらせていただいている「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」では、クリーンルームなどを利用した実証実験を行い、楽器を演奏した際の感染リスクについて検討し報告書にまとめました。
ただ報告書は107ページに渡り、少し分量が多いと感じられる方もいるかもしれません。そこで、そのエッセンスだけを動画にまとめました。「感染対策」というと小難しい印象ですので、親しみやすくユーモアのある内容で、飽きずに最後までご覧いただける15分程度という長さにしました。
演奏中だけじゃない!意外な感染リスクとは
Q 縣さんは東京都看護協会の新型コロナ対策プロジェクトのアドバイザーとして、様々な業界における感染管理の助言を行っています。感染を防ぐ、という視点で吹奏楽部などの活動をご覧になって、どんなところが気になりました?
(縣)楽器の演奏に関わる感染リスクと言われると、管楽器(トランペット、フルートなど)など息を吹き込む楽器の演奏そのものが注目されがちですよね。でも意外と見過ごされがちなのが、練習やバックステージなどで多くの人が集まったときの基本的な感染対策です。
たとえば、管楽器を演奏するときにはマスクを外すと思いますが、演奏が止まったときに、そのまま近距離で会話するとリスクになります。また、唾液が付着しているマウスピースや管楽器、スワブの貸し借りや共有も控えたほうがいいですね。
また演奏中以外でも、例えば休憩時間中にマスクを外して近距離の飲食・会話をしたり、トイレの後の手洗いの徹底などには気を付けたほうが良いです。
Q その対策として、どのようなことがポイントになるでしょうか?
(縣)対策としては、非常に基本的なことを心がけることが効果的です。マスクを外しているときに会話する時は距離をとったり、結露水を抜く時は周囲に飛び散らないようにハンカチを当てるなどです。
練習中に何度も手洗いするのは難しいと思いますので、手で顔(目・鼻・口)を触らないよう心がけたり、スワブや文房具、譜面台などは自分専用で使用することにすればリスクは下がります。
特殊楽器(コントラファゴット、コントラバスクラリネットなど)についても専用にすれば良いと思います。特殊楽器の共有を避ける選曲も対策になると考えます。
(縣)もちろん、音楽活動そのものがリスクだとして、避ける手もあるかもしれません。しかし、私たちは今、音楽以外にも学校・仕事・旅行など様々な活動を感染対策を行いながら生きています。他の活動と同様、音楽だけにリスクがあるわけではありません。きちんと対策すれば、音楽を通して心を一つにしたり、目標を目指したりする経験を諦める必要はないのです。
感染の発生をゼロにすることはできないかもしれませんが、今回紹介した感染対策を行うことで、感染が発生した時に周囲の人にうつすリスクを減らし、守ることができます。生活の中に対策を落とし込み活動を続けていただきたいと思います。
動画の内容は、クラシックや吹奏楽の全国団体による実験「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」のデータに基づいています。内容は報告書として公開されていますので、詳しくは、日本管打・吹奏楽学会のホームページをご参照ください。
【取材協力】
甘粕宏和(あまかす・ひろかず)さん
東京音楽大学卒業。現在、神奈川大学吹奏楽部、東京都立片倉高等学校吹奏楽部、柏市立柏高等学校吹奏楽部、柏市立酒井根中学校吹奏楽部をはじめ全国数多くのバンド指導に携わっている。(一社)日本管打・吹奏楽学会 生涯学習委員会委員。21世紀の吹奏楽“響宴”会員。やまももシンフォニックバンド指揮者。
縣智香子(あがた・ちかこ)さん
感染管理認定看護師、NTT東日本関東病院に在職。
産業医科大学産業保健学部卒・国立看護大学校研究課程部(修士)在学。
東京都看護協会新型コロナ対策プロジェクトアドバイザーとして活動。「#コロナ下の音楽文化を前に進めるプロジェクト」では具体的な感染対策の立案・検討を担った。
クラシック音楽演奏、および関連活動に伴う感染対策に知見を有し、プロオーケストラ・合唱団・音楽大学の活動再開に伴う相談に多数応じている。
オーケストラにおけるコントラバス演奏を学生時代より継続。現在もNTTフィルハーモニー管弦楽団に在籍。NTT東日本東京吹奏楽団での演奏経験もある。