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外資系企業の日本人と日本企業の外国人、ストレス要因と解決は 心療内科医の立場から

海原純子博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授
グローバルビジネス(写真:アフロ)

心療内科医として外資系企業に勤める方からの相談を受けることが多いのですが、「外資系企業をひとくくりにして語ることができない」というのが最近の特徴という気がします。というのは「外資系企業」とは「外国法人又は外国人が一定以上の出資をする企業」ですが、様々な形態があり悩みもそれぞれ異なるからです。また外資系企業でなくても外国人の従業員が多くしかもアジア系だけでなく欧米など多国籍にわたっている職場では、文化の相違でコミュニケーション不全を起こす場合などもあります。

買収でおきやすい適応障害

環境要因のストレスが多くて適応障害を生じやすいのは、企業が外資に買収された場合でしょう。これまで比較的安定していると思っていた職場が一転していつ部署がなくなるか、という不安に陥る方がいます。経営の主導権が買収先の外資なので、自分の将来が見通せなくなったり仕事の進め方が変化して疲労がたまるなどの弊害が出やすいといえます。

英語はあなどれないストレス要因

Aさん(40代)の勤務先は外資に買収されて合併しました。経理一筋でベテラン管理職のAさんですが、買収された企業のシステムに合わせて変わる給与や評価の基準を変更するための作業で連日超過勤務が続きました。また英語の報告書を書くためその作業に時間がかかり、それまで英語をほとんど使わなかったAさんは疲労感が増加。語学に関しては全従業員に研修が課され、管理職はさらに個人レッスンが必須で試験まで受けることになりました。Aさんは英語の得意な部下に「その英語でよく管理職になれましたよね」といわれ自己肯定感が低下。加えて外資から来た外国人に自分のポストをとられて降格するのではないかという不安も続き、めまいや耳鳴りなどに悩まされるようになり受診した結果、メニエール症候群という診断をされました。

英語が苦手な管理職にとって、英語はストレス要因になることがあります。英語に不安があるため、報告書を書いたりメールで連絡したりする際、正確さをキープするための確認作業に時間がかかるという物理的ストレス要因があるのに加えて、これまで管理職として過ごしてきた自信が揺らいだり、部下や同僚に馬鹿にされる、あるいは馬鹿にされるのではないかという不安に陥ったりします。試験などがある場合はさらにそれが加速し、試験前には緊張が続くという方もいます。仕事能力が高いにもかかわらず英語が不得意という管理職がいるのは事実です。自己肯定感を失わずに語学学習を可能にする方策が早急に必要でしょう。またともすれば語学が苦手なことが仕事能力不足というレッテルを貼られて自分のアイデンティティーが揺らぐことも問題です。想定外に外資系企業になってしまった職場で適応障害を起こさないように必要な語学サポートとともに自己肯定感をキープできるような心のサポートが不可欠です。

ポストが突然消滅して失職

ある日、本社の指示で自分のポストがそっくりなくなるということが外資では珍しくありません。B子さん(30代)は100% 外資の一流企業に転職して1年目でした。総務でマネージャー的な仕事をしており日本人の上司に信頼されて仕事をしていましたが、本社の指示でB子さんのポストが廃止されることになりました。B子さんは転職を余儀なくされることになりました。怒りと不安で睡眠障害が起こりましたが、ひどくなる前に受診して気分を持ち直し退職金の交渉を粘り強くすすめました。退職はしたものの退職金は満足がいくまで粘れたので自信がつき次の就活にむけてまた一歩踏み出すことが出来ました。

能力でポストを失うのではなくポスト自体がなくなるために職を失うということが外資では珍しくはなく、このことで自己肯定感を失わないことがストレスを乗り切る大きなポイントです。外資では能力ではなくポスト消滅による失職があるという事実を一般の方にもっと知ってほしいと思います。

文化の違いに理解が足りない上司

Cさん(30代)はアメリカ人、企業買収で来日して半年です。ただ大学院時代に日本に留学して語学などを勉強していた経験があるため、日本語もかなり堪能なので日常生活に不便はない状態です。職場では課長職を務め、上司の部長は英語が得意な日本人、部下は日本人という状況です。昨年末のストレスチェックで高得点。特に仕事の量と質のストレス、さらに上司のサポート不足、ということがストレス要因となっていました。お話しによると特に大きなストレス要因は上司とのコミュニケーションでした。

クリスマス1カ月前のこと。ふだんアメリカで暮らす両親がクリスマスに合わせて訪日することになったCさんは、家族全員で過ごすことを楽しみに上司の部長に「2日間の休みを取りたい」とメールで連絡しました。上司の部長は流ちょうな英語で「いいですよ。クリスマスですからねえ。」とメール対応。ところがそのあとに「でもねえ、あなたは休みが多くないですか?そうじゃない?」「部署のことも考えてくださいねえ」と続けていました。

Cさんは決して休みが多いわけではありません。クリスマスは有給の範囲で取るだけです。勤怠も良く朝から夜かなり遅くまで日本的な働き方をしています。にもかかわらず「部署のことも考えろ」というのは「クリスマスは家族とともに過ごす休み」という欧米文化の常識を無視したものでしょう。日本人にとっては「クリスマスくらいで休むな」という思いがあるかもしれませんが、宗教的な意味もあるクリスマスを「そんなことくらい」にするのは危険です。日本人に正月休暇をやめなさいということに匹敵することかもしれません。

日本人なら忖度して仕事に出たかもしれませんがそこはCさん。きちんと休暇を取りました。忖度させるような表現は欧米人には通用しません。信頼を失うだけです。「YesかNoか、はっきりしてほしい」というのがCさんの言葉でした。いくら英語が得意でも欧米の文化やコミュニケーションスタイルを理解していなければ外国人の上司には適任とはいえないでしょう。

「リスペクトがない」日本企業に悩む外国人女性

外資ではなくても外国人のスタッフが増えるとコミュニケーション不全をきたすことがあります。東南アジアの一流大学を卒業したD子さんはメディア関連の日本の企業に就職しました。大学時代にアメリカに留学しIT技術を学び、中国語のほか英語、日本語はネイティブ並み、ドイツ語、フランス語も日常会話ができるという能力が高い方で、仕事に関して意欲をもって就職したのです。ところが入社して半年のストレスチェックで高ストレスを指摘されました。お話によると「リスペクトがない」のがストレスだということでした。この言葉を聞いてピンときました。日本の企業ではともすれば新入社員の女性は「女の子」扱いになりやすいといえます。与えられた仕事もD子さんの能力にしてはどうかと感じられるものでした。このことでD子さんはリスペクトがない、という気分になったようです。また部署の上下関係、特に部下に対しての言葉使いなどで部下に対しての配慮不足を感じていたようです。

D子さんの能力に合わせた仕事内容の再構築などを部署の長などと話し合うことを提案したところ、環境改善によりD子さんは元気に働けるようになりました。若い、女の子というレッテル貼りをやめ能力を正確に把握し人材についてのリスペクトを持ち仕事を進めるのが、外国人を部下に持つ上司の心得といえるでしょう。

博士(医学)・心療内科医・産業医・昭和女子大学客員教授

東京慈恵会医科大学卒業。同大講師を経て、1986年東京で日本初の女性クリニックを開設。2007年厚生労働省健康大使(~2017年)。2008-2010年、ハーバード大学大学院ヘルスコミュニケーション研究室客員研究員。日本医科大学医学教育センター特任教授(~2022年3月)。復興庁心の健康サポート事業統括責任者(~2014年)。被災地調査論文で2016年日本ストレス学会賞受賞。日本生活習慣病予防協会理事。日本ポジティブサイコロジー医学会理事。医学生時代父親の病気のため歌手活動で生活費を捻出しテレビドラマの主題歌など歌う。医師となり中止していたジャズライブを再開。

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