「ゆっくり茶番劇」騒動の再発を防ぐためには(1)
前回も書いたように「ゆっくり茶番劇」騒動は権利者による権利放棄で一件落着しそうです。特許情報プラットフォームを検索してまだ放棄されていないとツイートしている方が見られますが、これも前回書いたように登録関係の手続はリアルタイムでは処理されず結構な時間がかかります(以前に私がやった時の記録を見ると、書類提出から完了通知が戻ってくるまで1カ月ほどかかっています、現在はコロナにより手続全般が遅延する傾向にあるのでもっとかかる可能性があります)。放棄の事実が最初に記録されるのは登録原簿なのですが、ウェブで直接見ることはできず、有料(600円)の閲覧請求手続が必要なのでしょっちゅう見ることは現実的ではありません。また、特許庁では個別の案件の状況には回答できないとしています。権利者のマネージメント事務所が代理人弁理士に確認を取っているようなのでこれから先インチキが行われる可能性はまずないでしょうから、気長に待つしかないでしょう。
(追記)と書いたら6/1時点でもう権利放棄の申請書が出されたことが特許情報プラットフォームの経過場情報に載っていました。最近は早くなったのかもしれませんし、特許庁が空気を読んで巻きでやってくれたのかもしれません。
今回のケースはコミュニティの自治により解決したと言って良いでしょう。法的な争いなしに私的自治で解決できた点は喜ばしいと言えます。しかし、今後、同様の事件(ネットの共有財産的言葉を特定の人が商標登録)が起きた場合に、同様の手段で解決できるとは限りません。今回は当事者がコミュニティの中の人間であり、コミュニティからペナルティを受けることは避けたいという強い動機がありました。しかし、コミュニティなんて知ったこっちゃないという「無敵の人」が権利者になった場合にどうすべきかという課題は残ります。これは、商標権ならではの課題です(特許権であれば技術を公開してしまえば誰も特許を取れない状態にできますし、著作権であれば、Creative Commonsの枠組みにより、特定の人に権利を独占されない状況を作ることができます)。
以下、重要な論点を検討していきます。
特許庁の審査運用について
この話は何回か書いていますが、広く使われる流行語的言葉(たとえば、「ぴえん」「大迫半端ないって」「そだねー」「今でしょ」等)は、3条1項6号(識別力のない商標)として拒絶することが特許庁の最近の審査運用になっています(特定の人や企業が商標として独占すべきではない言葉なので当然です)。「ゆっくり茶番劇」もこの運用に従えば、拒絶になっていてもおかしくなかったのですが、そのまま登録になってしまいました。
おそらくは、審査官の周知性の判断において、テレビや新聞等のマスメディアでの使用が重視されているのではないかと思っています。上記に挙げた「ぴえん」等の流行語はネットの世界を越えてマスメディアでも有名ですが、そうなると3条1項6号で拒絶される可能性が増します。逆にネットの中で閉じており、マスメディアで扱われるケースが少ない言葉は周知性の判断において不利になると思えます。有名YouTubeチャンネル名が勝手登録されたケース、マスメディアの取材を受けないことが多いラーメン二郎の周知性が否定されたケースなどもこれを裏付けています。
機会があれば、出願された言葉の周知性の判断において、マスメディアだけではなくネットでの使用についてもより十分加味するよう特許庁に意見を述べてみたいと思います。おそらくは、そうするまでもなく、今回の騒ぎは当然ながら特許庁も認識しているでしょうから、何らかの運用変更が行われるのではないかとは思いますが。
続きます。