参院選科学技術政策アンケート 各党の回答を比較する
6党から回答いただく
前回記事でお伝えしたとおり、参院選に際して、サイエンストークスさんと共同で、科学技術政策に関するアンケートを主要政党に送付した。
ご多忙のなか、自民党、公明党、民進党、日本共産党、おおさか維新の会(維新)、日本のこころを大切にする党(こころ)の6党から回答をいただいた。各党の政策担当者の方々に御礼申し上げる。
各党は私たちの質問にどう答えたか。早速みていきたい。
政府研究開発投資26兆円(5年間)は妥当か
質問1は、政府の研究開発投資に関するものだ。第5期科学技術基本計画では、5年間で26兆円とされているが、それが妥当かどうかを聞いた。
- 妥当だと思う
自民党、公明党、民進党
- 増額すべき
共産党、こころ
- 無回答
維新(「国際競争力強化の点からは増額を検討すべきだが、費用対効果の精査が必要。」とご回答いただいた)
研究費はどうする?
2問目は研究費に関する各党の考えを聞いた。以下選択肢と各党の回答。
- 研究者が安定して研究に取り込むことができるような仕組み作りが必要
公明党、民進党、共産党、こころ
具体策
共産党
研究者が安定して研究に取り組むことができるように以下の施策をとることが必要と考えます。
・国立大学の「類型化」をやめさせ、教育・研究をささえる基盤的経費を十分に確保する。
・私立大学への「公費負担」原則を確立し、「経常費の2 分の1 助成」を実現する。
・公立大学への国の財政支援を強める。
・国が各大学の「改革」を誘導する資金を廃止し、独立した配分機関を確立する。
・人文・社会科学を含む科学・技術の総合的な振興計画を確立する。
・研究者が自由に使える研究費(大学・研究機関が研究者に支給する経常的な研究費)を十分に保障するとともに、任期制の導入を抑え、安定した雇用を保障する制度を確立するなど、研究者の地位を向上させ、権利を保障する。
・科学技術基本計画を政府がトップダウンで策定するやり方をあらため、日本学術会議をはじめひろく学術団体の意見を尊重して、科学、技術の調和のとれた発展をはかる総合的な振興計画を確立する。
こころ
申請書類の作成は事務作業であり、研究者にやらせるべきではない。数名の研究者あたり1人程度の専任職員をつけるべきである
- 現状維持で問題はない
- 回答留保
- その他
自民党
大学等や国立研究開発法人の運営費交付金等の基盤的経費を確実に措置するとともに、科学研究費助成事業の抜本的な改革を進めながら拡充を図るなど、我が国の研究力強化に努めていく。研究者が研究そのものに集中することができるよう、研究開発環境の改善や研究機関全体の機能の向上を図るため、全ての競争的資金について、間接経費30%を確保する。また、研究者の負担の軽減につながる競争的資金の制度改善を一層推進していく。
維新
国立大学運営費交付金や私立大学経常費補助金のような経常費は削減し、研究ごとの補助金を増やすという方向は正しい。大阪での補助金見直しも、人件費や事務費等の経常費は大幅に削減して、事業ごとに精査した補助金を増やすという方向で進めてきた。
以上のような方向で、現行制度の一層の見直しを行い、ムダな経常費のさらなる削減と研究資金の充実を検討すべきである。一方、研究申請の事務手続きの効率化・合理化、研究不正や研究費の目的外使用の抑制は当然必要である。
競争性を担保した安定した基盤的研究費の導入は?
やや具体的な質問だが、競争性を担保した安定した基盤的研究費の導入の可否を聞いた。
- 望ましい
民進党、こころ、
- 回答留保
維新(研究成果が上がるか否かについて、研究者の意見は最大限尊重されるべきであるが、補助金に関する制度設計は、受給者向けのアンケートだけでは決められないと考える。)
- その他
自民党:競争的資金について、その多様性や連続性を確保しつつ、大幅に拡充する。
公明党
公的研究費は研究の多様性を確保しつつ、より戦略的、効果的に活用されることが必要であり、そのために、研究資金制度における使用ルールの統一化による使い勝手の向上、基礎から実用化・社会実装までのシームレスな研究支援の実現、間接経費の適切な措置等による研究設備・機器の共有化促進のインセンティブ付与などの改革を断行すべきです。また、優れた独創的・先駆的な研究を支援する科学研究費助成事業をはじめとする競争的資金の大幅な増額を図るべきです。こうした観点の下、提示された案も含めて検討していきたい。
共産党
研究分野は、特定の分野に集中投資するよりも、少額でも広く配分するほうが効率的といわれています。提案されている「競争性を担保した安定した基盤的研究費」は、方向性として賛成しうるものですが、具体的な制度設計については不明ですので、評価は差し控えたいと思います。
若手研究者のポスト
卓越研究員制度を中心に聞いた。
- 現状の取り込みで十分
- 「卓越研究員制度」よりも多くの博士研究者に安定的なポストを提供すべきである
民進党、こころ、共産党
以下具体的記載
民進党
研究者が研究に専念できる環境を整備するため、補助員の配置などに対する支援を検討します
共産党
安定的な若手研究者のポストを確保するために以下の施策が必要と考えます。
●大学・研究機関の人件費支出を増やし、若手研究者の採用をひろげる――大学教員にしめる35歳以下の割合は11.0%に低下し、将来の学術の担い手が不足しています。国立大学法人が「総人件費改革」で5年間に削減した人件費だけで、若手教員1 万6 千人以上の給与に相当します。国立大学や独法研究機関が削減した人件費分を回復するために、国から国立大学や独法研究機関への運営費交付金を大幅に増額し、若手教員・研究者の採用を大きくひろげます。
●年俸制や任期制の導入に歯止めをかける――国による誘導策をやめさせ、導入に歯止めをかけます。大学教員、研究員の任期制は任期制法の廃止を含めた見直しを行い、大学においては正規雇用を基本にすべきです。改正された労働契約法の実施に関して、大学における有期雇用の実態と法改正の影響について国による調査を行います。有期雇用の大学教職員、研究者、非常勤講師に契約更新5 年上限を予め求めることは法改正の趣旨に反する行為であり、やめさせます。有期契約が1回以上反復されて5年経過した雇用を無期契約に転換した場合に、国が大学に対して財政支援する奨励制度をつくります。大学や研究機関が期限のある国の資金でプロジェクト研究を行う場合に、その資金で有期雇用される研究者や職員を期限終了後も雇用するための財政支援を国が実施すべきです。
- 若手研究者への支援は不要
なし
- 回答留保
大阪維新
制度導入から間もないので当面は成果を注視すべきだが、一般的に言えば、研究者の働き方・待遇を多様化することは、労働制度改革の一環としても望ましい
- その他
自民党
卓越研究員制度や、大学の人事制度の抜本的改革を含む大学改革等を通じた優秀な若手研究者の育成・確保、研究マネジメント人材等の多様な科学技術イノベーション人材の育成・確保、即戦力社会人や企業マインドを持つ人材の育成、女性研究者の活躍促進に向けた支援の充実、さらには次代を担う人材の育成等を進める。
公明党
若手研究者は、任期付雇用などによる一定の流動性があるのに対して、シニア研究者の流動性が低いという、世代間の流動性格差が発生しています。このため、テニュアトラック制の導入拡大等により、若手のキャリアパスを明確化すると同時に、若手のための安定したポストの拡充に取り組む必要があります。また、年俸制の導入やクロスアポイント制度の活用など、シニア層も含めた一層の流動性向上のための取り組みや、卓越した研究員が安定的なポストに就きながら機関の枠組みを超えて活躍できる取り組みなどが必要です。
安定性と競争性を担保する日本版テニュアトラック制度の可否
これもやや具体的な質問だが、安定性と競争性を担保する日本版テニュアトラック制度の可否を聞いた。
- 望ましい
民進党 公明党、こころ
民進党
大学などの理系カリキュラム改善やインターンシップを産学官連携で推進し、またテニュアトラック制(任期付き研究者が審査を経て専任となる制度)の普及により優秀な研究者を支援します。
- 望ましいが改訂が必要
なし
- 不要
なし
- 回答留保
維新
安定性と競争性を担保するとのことだが、安定性を重視しすぎると、安易に既得権化するおそれがあるので、その点には留意が必要と考える。
- その他
自民党
若手研究者の安定的なポストを大幅に増やすとともに、優秀な研究者が大学や公的研究機関、産業界の枠を超えて活躍できる環境を整備する。
また、キャリアパスを多様化するため、産業界と連携した若手研究者や大学院生に対する企業家・イノベーション人材育成を実施するとともに、産業界の研究職や知的財産管理等の研究支援に携わる専門職等での活躍を促進する。公的研究機関等における、ポスドクなどを対象とした専門人材育成の取り組みを支援し、活躍機会を拡大する。若手研究者が自立して研究に専念できるようにするための新たな研究資金制度として、当該研究者の名前を冠した「冠プロジェクト」を創設する。
共産党
若手研究者は、「大学を渡り歩き、様々な分野の研究者と交流することでこそ成長する」と言われています。そうした若手研究者の流動性と雇用の安定性を両立させる一つの案として注目したいと思います。
オープンアクセスはどうする?
研究論文のオープンアクセスについて聞いた。
- 義務化が必要である
こころ
- 義務化は不要である
- 回答留保
維新:海外事例を参考に、検討していくべきである。
- その他
自民党
自民党は第5期科学技術基本計画の策定に先立ってとりまとめた提言において、学術論文のオープンアクセスを含むオープンサイエンスに関する取組の強化について、政府に申し入れ、基本計画にもその内容が反映されている。
また、政府においては、公的研究資金による研究成果は原則として公開すべきという方針を示しており、わが党においても、研究成果の社会一般からの広く容易なアクセスを可能にするオープンアクセスについては推進すべきと考えている。
公明党
実態を調査・把握し、関係者の意見・要望も伺いながら、検討すべきです。
民進党
実態を把握し、関係者のご意見も聞きながら、検討していきたい。
共産党
先進的な諸国の学術論文のオープンアクセス化を参考にしつつも、分野を問わず一律に義務化を進めることによる諸問題もあるとの意見も考慮して、日本学術会議など関係者の意見をふまえて、OA 化を検討していくべきと考えます。
大学のあり方は?
- 将来的な統廃合も含めた改革をすべき
自民党、維新、こころ
- 現在の数は維持すべきだが、運営面での改革は必要
共産党
- 現状のままでよい
なし
- その他
公明党
18歳人口は平成33年ごろから減少することが予測されており、大学を取り巻く環境は厳しくなる中で、どの大学も危機意識を持って経営に取り組み、自主改革を進めることが、まずは重要と考えます。
国立大学については、現在、平成28年度からの第3期中期目標期間における自主改革を進めているところであり、私立大学についても「私立大学等に関する検討会議」において経営基盤の強化など総合的な議論が始まりました。
いずれにしても、ていねいに議論を進め、今後のより良い方策を検討していくべきと考えます。
民進党:学生が減少するなかで、安定した経営基盤を確保することは必要だが、丁寧に議論をしていくべき。
大学のグローバル化
- 国がさらなる予算を措置することにより進めるべき
自民党、民進党、共産党
- 各大学の自助努力により進めるべき
こころ
- 進めるべきではない
なし
- その他
公明党
社会経済のグローバル化が進む中、大学の役割として、様々な場でグローバルな視点を持って活躍できる人材の育成がますます強く求められるようになっています。各大学は、それぞれの特色や強みを活かしつつ、大学のガバナンス改革も進め、大学自体の体制や組織文化そのものの国際通用性を高めるなどして国際競争力を向上させていかなければならないと考えます。グローバル化を進め、世界に伍する教育研究の展開拠点としての教育環境を整備するためには、国が支援していくことも必要と考えます。
維新
研究・教育の水準を高める形でグローバル化を進めるべき。国、大学の費用負担の在り方については、設問のような択一式では決めがたい。
人文社会科学系の見直しは?
文部科学省の通達(国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(平成27年6月8日文科高第269号文部科学大臣通知)をきっかけに、人文・社会科学系の大学の再編が議論になった。これに関する意見を聞いた。
- 賛成
自民党
- おおむね賛成
こころ
- 反対
共産党
- その他
公明党
社会の大きな変化に柔軟に対応できる自己改革が国立大学に求められていると思います。教育や組織の在り方については、各大学自らが英知を絞って、新しい時代を見据えた改革に積極的に取り組んでいくべきと考えます。
民進党
地域における教育機関、地場産業、地方自治体の協力と連携を強化し、教育・研究・地域産業・地域再生の拠点としての国公立大学、高等専門学校づくりを進めます。大学学部改革はあくまで大学内の議論と方針に拠るものとし、文部科学省や財務当局が介入することを厳に戒めます。
維新(無回答)
安全保障・防衛関連研究は?
大学における安全保障・防衛関連研究について聞いた。
- 推進すべきである
自民党、こころ
- 推進すべきでない
民進党、共産党
- その他
公明党
大学や独立行政法人、企業等の研究成果が社会的に還元され、我が国および国民の安全にかかわる研究開発につながっていくことは重要と考えます。
安全保障技術研究推進制度においては、研究成果は公開が原則となっていますが、先の大戦の反省から防衛や軍備にかかわる研究とは一線を画してきた一般の大学や研究者には懸念を持つ人もいて、受け止め方は様々です。
大学における研究のあり方は、各大学の自主的な判断で行われるべきであり、各大学の判断を尊重するべきだと考えます。
維新
憲法の定める平和主義の範囲内で、完全保障環境の変化に応じた政策が必要である。その限りで、大学における安全保障・防衛関連研究も一概に否定されるべきではない。ただし、予算措置については、費用対効果の厳しい精査が当然必要である。
研究者と国民との対話
複数回答可で、以下の選択肢をなげかけてみた。
- 大学/研究者によるアウトリーチ(研究の意義の市民への説明)を奨励する
公明党、民進党、共産党、維新
- 科学技術コミュニケーション(大学/研究者が市民との議論の上で研究プランを立てるような双方向コミュニケーション)を奨励する
公明党、民進党、共産党、維新
- 科学技術コミュニケーション、リスクコミュニケーションに関わる人材の養成と公的機関への配置をおこなう
公明党、民進党、共産党、維新、こころ
- 原発に関して行われたような討論型世論調査等(http://www.cas.go.jp /jp/seisaku/npu/kokumingiron/dp/index.html)を政府が積極的に実施し、市民の声を科学技術政策に取り入れるようにする
公明党、民進党、共産党、維新
- 回答留保
- その他
自民党
科学技術に対する社会の信頼を高めるために、福島原子力発電所の事故対応の教訓も踏まえ、官邸の政治決定と科学的助言の機能強化やリスクコミュニケーションの充実を図るほか、研究者自らが国民と対話する研究現場の自発的な取組を支援する。
公明党
科学技術の社会へのかかわり方においては、社会の価値観やニーズなどについて、研究者の社会リテラシーの向上が必要です。
社会的合意形成にあたっては、科学者は科学的データの提供と専門的知識を、社会は自分自身の課題として主体的に捉え解決に取り組む姿勢を、政府は様々なステークホルダーが参画する意見交換の場を、政治はこれらの議論を踏まえた社会的決断をそれぞれ行う社会的責任を、それぞれ有します。原発事故のように、社会的リスクが顕在化した際、科学者が中心となって科学的知見から徹底的に議論を行い、リスクを解明することが必要です。
まとめ
以上、各党の回答を紹介した。ここで紹介しきれない記載もあるので、ぜひ各党の回答をご自身の目でご覧いただいたうえで、投票の参考としていただきたい。
公約では科学技術政策に関する記載がない党も、科学技術政策に関する政策を持っていることが分かった。また、各党の違いもみえてきた。
科学技術政策は選挙の争点になることはなく、前回の科学技術政策の公約比較の記事も、アクセス数は低かった。しかし、科学技術は私たちの生活や経済、文化に密接にかかわる。アクセス数は気にせず、今後も各党の科学技術政策をウォッチし続けたい。