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W杯もいよいよ佳境に!名GKセーザル、ノイアー、クルトワらに見られる「ボールにアタックする」意識

斉藤健仁スポーツライター

◇名GKに見られる「ボールにアタックする」意識

2014年ブラジルワールドカップ(W杯)では、残念ながらグループリーグで敗退してしまったが、「GK王国」の一つイタリアでは「1-0(ウノゼロ)」の哲学の影響もあり、早くからGKの重要性に気づいていたという。「ザックジャパン」こと日本代表よろしく、監督とGKコーチはセットであるケースが多いのも特徴的だ。

ただ、2012年に「世界最強のゴールキーパー論: GK王国イタリアの技術・戦術・哲学」(出版芸術社)という本を書いたときに、イタリアGKコーチ協会の会長を務めるクラウディオ・ラパッチョーリ氏は、こうも言っていた。

「ヨーロッパ内ではUEFAから巡回コーチが回っているなど、イタリアであれ、どこでもあまり指導内容やレベルは変わらなくなってきている。GKのスキルだけでなく、戦術眼も優れているGKが多いのはオランダかもしれない」

つまり、現在では、GKの指導という面ではイタリアが特段リードしているというわけではなく、欧州の強豪国においては指導レベルは変わらなくなってきているというわけだ。

W杯の決勝トーナメント1回戦のブラジル対チリのブラジル代表のGKジュリオ・セーザル、ドイツ対アルジェリア戦でのドイツ代表GKノイアー、ベルギー対アメリカでのベルギー代表GKクルトワなどが、特に意識が高かったのは、イタリア語では「Attacca la palla(アタッカ・ラ・パーラ)」と呼ばれる「ボールにアタックする」感覚だった。

「ボールにアタックする」という感覚は、少しでもボールを前で触れるということだ

  1. GKの基本的な立ち位置として、シュートが向かってくるときに、ボールと2つのポストを結んだ延長戦上に立ち、少しでも前に位置を取れば、シュートコースを狭くすることができる。
  2. GKは前に出ることで、たとえキャッチできなくても、速いボールに対して、しっかり弾くことができる。
  3. もちろん、シュートだけでなく、クロスボールに対してアタックしてボールを弾けば、相手にシュートを打たれることがない、というわけだ。

※ゴールキーパーの基本的な姿勢は、肩幅くらいに構えて、手は下である(上のボールよりも下のボールの方が反応しづらいため)。相手がボールを蹴る瞬間に足を広げてステップを踏む「スプリットステップ」は、最近では、相手の振りの速いシュートやトゥキックに対応するために、あからさまには、やらないGKが多くなってきた(軽くジャンプをしている選手はいる)。

ブラジル代表GKセーザルは、そのスキルはイタリア仕込みであり、チリとの試合でも、常にボールに対して積極的に働きかける姿が間だった。ドイツ代表GKノイアーはアルジェリアのカウンターに対し、DFラインとGKの間のスペースができても、前に出る意識が高く、シュートを打たれる前に足でクリアしていた姿が印象的だった。ベルギー代表GKクルトワも2-1で迎えた延長後半9分、アメリカ代表デンプシーの決定的なシュートを積極的に前に出てセーブし、チームに勝利をもたらした。

決勝トーナメント1回戦のフランス代表対ナイジェリア戦で、ナイジェリア代表GKエニェアマは試合を通して良いセービングをしていたものの、フランスのMFポグバが得点を挙げたコーナーキックの時だけ前に出たがパンチングでミスしてしまい、失点してしまった。またブラジル対クロアチアの開幕戦を思い出してほしい。ブラジル代表FWネイマールが、ゴール右隅にコントロールして決めたシュートがあった。もちろんコースは素晴らしかったが、クロアチアのGKは大股で構えるのではなく、肩幅くらいに構えて、前に出てセーブしていれば手がボールに届いてはずだ。

GKやGKコーチはどうしたらゴールを0点に抑えることができるかといつも考えているものの、「このやり方でやれば必ず押さえられる」という絶対のメソッドは存在せず、100%の正解というスキルも手法もない。ただ、前に出て「ボールにアタックする」意識、姿勢、スキルが相手のシュートからゴールマウスを守りことにつながり、チームに勢いづけることは間違いない。

優勝カップを掲げる可能性は残り8カ国となった2014年ブラジルW杯。準々決勝以降も「アタッカ・ラ・パーラ」の意識が高い、素晴らしいGKの競演を楽しみたいと思う。

◇ベスト8進出チームのGK

ブラジル/ジュリオ・セーザル(34歳)

1997年からフラメンゴ(ブラジル)でプレーし、2004年からイタリアに渡りキエーボに所属、2005年から2012年までインテルでプレーし、イングランドのQPRを経て、現在はカナダのトロントに所属する。

コロンビア/ダビド・オスピナ(25歳)

2005年からアトレティコ・ナシコナルでプレーし、2008年から現在までフランスのニースに所属。

フランス/ユーゴ・ロリス(27歳)

2005年からニース、2008年からリヨンのゴールを守り、2012年にイングランドのトッテナムに移籍した。

ドイツ/マヌエル・ノイアー(28歳)

2006年からシェルケのゴールマウスを守り、2011年にはバイエルンに移籍し、現在に至る。

オランダ/ヤスハー・シレッセン(25歳)

2010年にNECでデビューし、2012年からアヤックスに移籍し、昨シーズンは25試合に出場した。

コスタリカ/ケイラー・ナバス(27歳)

2007年から地元の強豪サプリサでプレー、2010年からスペインに渡り、アルバセテを経て、2011年からレバンテの守護神を務める。

アルゼンチン/セルヒオ・ロメロ(27歳)

2006年は地元のラシン・クラブでプレーし、2007年からオランダに渡り、2010年までAZでプレー。その後はイタリアのサンプドリアを経て、昨シーズンはフランスリーグのモナコに在籍。

ベルギー/ティボー・クルトワ(22歳)

2008年からベルギーのゲンクに所属し、2010-11シーズンに大活躍し、2011年からスペインのアトレティコ・マドリードに移籍し、昨シーズンのリーグ優勝に貢献した。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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