Yahoo!ニュース

どんなウイルスで、どのように感染するのか? 新型コロナウイルスのそもそも論

峰宗太郎医師(病理専門医)・薬剤師・研究者
(写真:アフロ)

 世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスについて、トランプ米政権が、中国湖北省武漢市内のウイルス研究所が発生源となった可能性について調査を始めています。研究所内でコロナウイルスがコウモリから人に感染して広まったなどとの報道もありますが、そもそも新型コロナウイルスとはどういったものなのでしょうか。

 改めて基本的なことを見直しつつ、後半では感染力や感染ルート、致死率などいくつかのトピックについて、簡単にみてみたいと思います。

今回の新型コロナウイルスの名前について

 流行している新型コロナウイルスの正式名称は severe acute respiratory syndrome coronavirus 2(SARS-CoV-2) というものです。そして、この SARS-CoV-2 によって引き起こされる「病気」のことを COVID-19 (コヴィッド ナインティーンと発音) といいます。

 ●International Committee on Taxonomy of Viruses(ICTV) 

 これは正しく伝える上では重要で、繰り返しになりますが SARS-CoV-2 というウイルスが感染することによっておこる病気を COVID-19 というのですね。COVID-19を発症したとは言いますが、SARS-CoV-2を発症したとは言いませんし、SARS-CoV-2 に感染したとは言いますが、COVID-19に感染したとは言わないのです。

そもそもコロナウイルスとは

 コロナウイルスとはその遺伝情報を細胞内部などに存在する核酸のひとつ「RNA(リボ核酸)」に持つウイルスの仲間です。分類上はコロナウイルス科(Family Coronaviridae)に属するウイルスのことを指します。このコロナウイルス科はさらに亜分類され、オルソコロナウイルス亜科とレトウイルス亜科にわかれますが、SARS-CoV-2 はオルソコロナウイルス亜科に所属し、さらに、その下の分類の属のうちベータコロナウイルスという属に属します。

画像

 ●Gorbalenya, A.E., Baker, S.C., Baric, R.S. et al. The species Severe acute respiratory syndrome-related coronavirus: classifying 2019-nCoV and naming it SARS-CoV-2. Nat Microbiol 5, 536-544 (2020).

 コロナウイルスは、動物に感染するものが多数知られているのですが、ヒトに感染するものとしてはこれまでに 6種類 が知られていました。そして今回流行している SARS-CoV-2 はヒトに感染する7種類目なのです。

 既知の 6種類のコロナウイルスのうち、4種類は主にヒトに感染するコロナウイルスでヒトコロナウイルス(Human Coronavirus(HCoV)) と呼ばれており、それらの名前はそれぞれ、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1 というものです。

 これらの 4種類は、いわゆる「風邪」(かぜ症候群)をおこすウイルスで、風邪の10~15%程度、流行期では35%程度はこれらによるものとも言われています。これらのコロナウイルスによる感染症は、多くは軽症ですみますが、時にはインフルエンザ様の高熱などの症状がでることもありえます。ただ基本は、風邪のウイルス、というものです。

 今までに知られていたコロナウイルスでは残りの 2種類が大きな病気をおこすものです。一つは、コウモリ由来と考えられる、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)です。これは2002年に広東省で発生して、かなりの流行になったので覚えておられる方もいると思います。重症急性呼吸器症候群(SARS)では、飛沫によりウイルスのヒト-ヒト感染が起こり、致死率は 9.6%と高かったのです。これはその後 2003年には収束しています。

 もう一つは中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)です。これはヒトコブラクダに風邪を起こすウイルスで、ヒトにも感染します。2012年にサウジアラビアで発見され、致死率は 34.4% と報告されています。

 ●コロナウイルスとは 国立感染症研究所

コロナウイルスの性状

 コロナウイルスはいずれもウイルス学的にはプラス鎖の一本鎖RNAをゲノムとするウイルスで、大きさは 100~120 nm(ナノメートル) ぐらいの球形をしていて、表面の突起(スパイクタンパク質という成分)が王冠(コロナ)のよう見えることからコロナウイルスと名づけられました(太陽のコロナも同じ語源)。このスパイクタンパク質はインフルエンザの突起であるへマグルチニン(HA)、ノイラミニダーゼ(NA)などとは別物です。

画像

 また、このスパイクタンパク質は、ワクチンを作る際のターゲットになります。というのは後に述べるように、スパイクタンパク質をつかうことでウイルスは細胞内に侵入するのですが、ワクチンというのは細胞にウイルスが侵入するのを防ぐ抗体というものをつくるのが一つの大きな目的になっているからです。

 さて、ウイルスの表面はエンベロープと呼ばれる脂質二重膜でできた成分が覆っています。このエンベロープがあるということは、一般にアルコール消毒や界面活性剤(石鹸など)に弱いということになります。よって、コロナウイルスはアルコールによる消毒が可能で、石鹸などに弱いといえるのですね。

 そのほかにエンベロープに組み込まれたエンベロープタンパク質(E)やRNAとくっついているヌクレオカプシドタンパク質(N)などがありますが、これらの、ウイルスの形をつくるタンパク質のことを構造タンパク質と言ったりもします。

画像

 ● Fields Virology, 6th ed. (Knipe DM & Howley P, eds)Masters PS, et al:Coronaviridae.,Wolters Kluwer, 2013

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 の設計図(ゲノム)の構造と成分

 新型コロナウイルスの設計図である一本鎖(+)RNAには、複数のタンパク質となる情報が書き込まれています。サイズは約 30kb(塩基が3万つながっているのである意味では3万「文字」とも言えます)で、これはRNAウイルスとしては最も大きい部類です。RNAをゲノムにもつウイルスとしてコロナウイルスは大きく、様々な機能を自前で持っているともいえます。

 今回の流行に際して、ゲノム情報は非常に早くに解読・解析がなされ、2020年1月にはGlobal Initiative on Sharing All Influenza Data(GISAID)というデータベースサイトに公開されました。その後、GenBankなどの他のデータベースにも登録がなされています。

 さて、新型コロナウイルスの RNA には、ウイルスの構造をつくるスパイクタンパク質(S)など先に解説した成分だけでなく、ウイルスそのものを増やすために働く PLpro、3CLpro と呼ばれる酵素や、ウイルスの RNA 自体を増やすために使われる RNA 依存性 RNA ポリメラーゼ(RNA-dependent RNA polymerase、RdRp) という酵素なども含まれます。

 スパイクタンパク質はワクチンのターゲットになりうるのでした。一方、ウイルス自身を複製するために用いられる酵素などは、抗ウイルス薬のターゲットになります。よって、現在進められている抗新型コロナウイルス薬は、これら RdRp などをターゲットとしているものが多いのです。

画像

新型コロナウイルスSARS-CoV-2の細胞への侵入の仕方

 ウイルスというものは、ウイルスだけでは増えることができず、必ず細胞に侵入して、その細胞の機能を利用して自分を増やすものです。新型コロナウイルスは、表面に突き出しているスパイクタンパク質というものが、細胞の表面にある分子(受容体・レセプターと呼ばれる)にくっつくことから侵入を開始します。

 この受容体は新型コロナウイルスの場合には、アンジオテンシン変換酵素2 (ACE2、エースツーと発音)という分子であることが早くにわかりました。つまり、新型コロナウイルスは、ウイルスの表面に突き出ているスパイクタンパク質が、まず、侵入するターゲットである細胞の表面にある ACE2 分子と結合することから侵入を開始するのです。この受容体というのはウイルスによって全くことなるものなのですが、今回の新型コロナウイルス SARS-CoV-2 は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)や風邪を引き起こすコロナウイルスである HCoV-NL63 と同じ分子を使うことがわかりました。

 ACE2 が多く表面に出ているタイプの細胞であると、ウイルスが表面につきやすくなり、感染しやすい可能性などが考えられます。

画像

 スパイクタンパク質-ACE2 という結合が生じたのちに、II型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TMPRSS2)という酵素などがはたらいてスパイクタンパク質の一部を切断して変形させたりすることが起こり、その後にウイルスのエンベロープと細胞の膜が融合するとウイルスは細胞内に侵入します。その後、ウイルスの内容物が細胞の中へ侵入して自分の複製を開始させるのです。

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 はどこからやってきたのか

 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 はどこからやってきたのか、遺伝子の変わり具合を家系図のように書いた、遺伝子系統図(系統樹ともいいます)をもとに考えてみます。

画像

 SARS-CoV-2 はベータコロナウイルスに属するのでした。そして、このベータコロナウイルスのなかで塩基配列、つまりゲノムの情報が近い他のウイルスとしては、SARS-CoV-1 つまり重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こすコロナウイルスがあり、よく似ていることがわかっています。

 これまでに探索されてきたさまざまな動物由来を含むコロナウイルスの遺伝子情報を比較すると、より類似度の高い、つまりもっと似ているコロナウイルスがコウモリやセンザンコウなどから見つかっています。これらのことから、SARS-CoV-2 の祖先は、コウモリなどの野生動物に感染するコロナウイルスであろうと考えられます。

 ●Lam, T.T., Shum, M.H., Zhu, H. et al. Identifying SARS-CoV-2 related coronaviruses in Malayan pangolins. Nature (2020).

 ●Andersen, K.G., Rambaut, A., Lipkin, W.I. et al. The proximal origin of SARS-CoV-2. Nat Med 26, 450-452 (2020).

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 の感染ルート

 新型コロナウイルス SARS-CoV2 はヒトーヒト感染といって、ヒトの間で感染することがわかっていますが、そのルート(感染経路、感染様式)が問題になります。

 新型コロナウイルスは主に「飛沫感染」と「接触感染」によって感染することがわかっています。これらは他のコロナウイルスでも同様の感染様式をとると考えられています。

 飛沫感染とは、咳やくしゃみをした際に生じる比較的大きな「飛沫」や、呼気に含まれる飛沫などである「エアロゾル」中にウイルスが含まれ、その飛沫などを吸い込むことで感染がひろがる経路です。新型コロナウイルスSARS-CoV-2 は、唾液、鼻水、喀痰などの上気道の分泌物にも多く出てくることがわかっています。なので、ウイルスを含む「しぶき」などが飛ぶと感染源となるのですね。

画像

 ここで紛らわしいのは、飛沫感染よりも細かい「飛沫核」というものでも感染が成立する「空気感染」というものです。別の呼び方では飛沫核感染とも言います。これは、麻疹ウイルス・結核菌・水疱瘡のウイルスで有名な感染様式なのですが、新型コロナウイルス SARS-CoV-2 ではほぼ起こっていないと考えられています。さらに紛らわしい言葉に「エアロゾル感染」というものがありますが、これはまた別の記事で解説することとします。

 飛沫(しぶき)は一回のくしゃみで 40,000 個近く、5分間の会話で 3,000 個ちかくも飛んでいると言われており、これは重要な感染ルートになります。

 飛沫感染を防ぐ対策としては、他の人と距離をとること(Social distancing)、症状のある人との接触を避けること(avoid sick contact)、咳エチケットを守ること、換気を行うことに加えて、リスクを下げることとしてマスクをすることなどがあります。

 さて、一方の接触感染は、鼻や口にさわったりしたことでウイルスの付着した手や、汚染された物を触れることで、主に手が汚染され、さらにその汚染された手で目・鼻・口などの粘膜を触ることでウイルスが感染する経路ですね。これは共有するものなどを介してくる感染ルートであり、ドアノブやエレベーターなどのボタン類、ジムでの共有機材、時に現金の受け渡しなどでも起こる可能性があるルートです。

 接触感染を防ぐ対策としては、手を洗うこと(消毒も)、手で顔を触らないように注意すること、環境を消毒することなどがあげられます。

 ●Cai J, Sun W, Huang J, Gamber M, Wu J, He G. Indirect virus transmission in cluster of COVID-19 cases, Wenzhou, China, 2020. Emerg Infect Dis. 2020 Jun.

エレベーターで集団感染が起こったのではないかと示唆される。

 ●新型コロナの唾液を介した感染は起こり得るのか?

新型コロナウイルス SARS-CoV-2 の感染力について

 ウイルスの感染のしやすさというのは機序(メカニズム)としてはいろいろなものが関与します。

 ウイルスの数はまずは重要で、大量にウイルスが産生されるものでは感染の可能性がよりたかくなることが、一般的には多くなります。また、いくつのウイルス粒子が身体に入ると感染が成立するかもウイルスによって異なり、ウイルスの性質そのものによって感染の強さは当然違います。さらに、感染経路がどの程度存在していて対策がどの程度されているか、など人の行動などによっても感染しやすさは当然変わるわけです。

 なので、純粋にウイルスそのものの感染力ということを考えるよりは、実際の社会のセッティングにおいてウイルスがどの程度感染を広げやすいかを評価できることの方が有用であると考えられますね。

 集団でみていったときに、1人の感染者が何人の次の感染者にウイルスをうつすか、すこし専門的に書けば、「1 人の感染者が生み出す2次感染者数の平均値」を、基本再生産数(R0、アールノートまたはアールゼロと発音)と言います。

 ●新型コロナウイルス感染症の「感染力」はどれくらい強いのか?

 

 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 においては、武漢においてこの R0 は、1.4-2.5 程度と見積もられていましたが、一部のモデルによる推定では武漢では 5.7 程度まであったのではという推測もされました。R0 は対策の状況などによっても変わるので、国や感染する集団が異なれば値は変わってきます。

 ●WHO の一月時点での評価 

 ●Sanche S, Lin YT, Xu C, Romero-Severson E, Hengartner N, Ke R. High contagiousness and rapid spread of severe acute respiratory syndrome coronavirus 2. Emerg Infect Dis. 2020 Jul.

画像

 さて、この R0 をいくつかの感染症で比べてみたいと思います。比べてみますと、季節性インフルエンザは R0 が 1-3 とされることが多く、インフルエンザより新型コロナウイルス SARS-CoV-2 は感染力が強いといえるでしょう。一方、空気感染をする麻疹では R0 は最大 18 にも達すると考えられています。これは非常に強い感染力ですね。それに比較すれば弱いといえます。

 上にも述べましたが、この R0 という値は、対策をすることで変わってきます。R0 が1より大きいと流行は拡大しますが、R0 が1未満であれば流行は収まっていくのですね。よって、様々にとられている対策というのは、R0 を1未満にすることが目先の目標ともなりえます。

新型コロナウイルス感染症 COVID-19 の重症化率と致死率

 重症化率というのは、SARS-CoV-2 に感染した人のうち重症となる人の割合ですが、これは重症化の定義が重要になります。日本の厚生労働省の定義では、人工呼吸器管理が必要または集中治療室での治療が必要というものが重症とされています。

 また、SARS-CoV-2 感染がすなわち COVID-19 発症ではなく無症状の人もいることに注意する必要があるのですが、細かくなるので今回は述べません。

 さて、そのような重症化率ですが、これは地域や国、対策などによっても異なり、さらには時々刻々と変わるものでもありますので、現在見積もられているおおよその数値をあげておきます。重症化率について日本は約4%、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号で2.8%、中国は約5%、イタリアでは約12%となっています。

 ●新型コロナウイルス感染症の国内発生動向(厚生労働省 2020年4月12日現在)

 致死率(Case fatality rate, CFR)というのは、感染者のうち死亡した人の割合になりますが、これは、定義はシンプルですが、状況については重症化率同様地域や国により大きく異なります。現状では、日本や韓国、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号で約2%、ドイツでは約2.2%、アメリカで約3.8%、中国で約4%、スペインやフランスでは約10%、イギリス・イタリアでは約12%となっています。

 ●How Deadly Is Coronavirus? What We Know and What We Don’t The New York Times 

 重症化率・致死率に国や地域による差がおおきくあることは事実ですが、この差がなぜ生じているかについてははっきりとわかっていることはありません。どういった可能性があるかについては今後みてみたいと思います。

 今回は新型コロナウイルス SARS-CoV-2 について基本的なところを簡単に見てきました。次回以降、トピックごとに新型コロナウイルス関係の話題を見ていきたいと思います。

 ※文中の図版については、出典が明記されているもの以外は著者作成。

医師(病理専門医)・薬剤師・研究者

医師(病理専門医)、薬剤師、博士(医学)。京都大学薬学部、名古屋大学医学部、東京大学大学院医学系研究科卒。国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所等を経て、米国国立研究機関博士研究員。専門は病理学・ウイルス学・免疫学。ワクチンの情報、医療リテラシー、トンデモ医学等の問題をまとめている。

峰宗太郎の最近の記事