新たな変異ウイルス オミクロン について今わかっていること(2021年12月14日)
南アフリカから新たな新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異体(variant)が報告され、その流行状況と性質の変化に懸念される部分が多いことから、WHO は、2021年11月26日にこの新たな変異ウイルス(B.1.1.529)に「オミクロン」(o)というラベル付けをし「懸念される変異体(Variant of Concern)」に分類しました(ステートメント、最新情報ページもだしています)。
ちなみに命名は 2文字飛ばしていますが、どのように名前が選ばれたかは NYT の記事が詳しいです。
2021年12月14日現在までにわかっていることをまとめます。
変異ウイルスオミクロン
オミクロン変異体(変異株という用語は間違いです。 strain=「株」、ではなくvariant=「変異体」です)は南アフリカの伝染病研究所が2021年11月22日に新たに発見したものです。
実際には2021年11月11日にボツワナの患者からはじめて検出されていたことがわかっており、同14日以降に採取された南アフリカのサンプルから確認されています。これらの情報は南アフリカから発信されています。
南アフリカ共和国のハウテン州という地域では、新型コロナウイルス感染症の流行が現在拡大していますが、その地域で流行しているウイルスを調べたところ11月12日から20日までに検査対象となった77例のサンプルすべてがオミクロンであったことが判明しています。
ハウテン州においては、特に若者や学校においてデルタ変異体による流行が大きくおこっていたようですが、この波が収束しはじめたところで、新たな流行の波が起こりはじめておりその検体でオミクロンが多く検出されているという形になっています。また南アフリカはワクチン接種率が現在24%程度であり、まだ十分にワクチンが行きわたっていない状況です。
この変異体オミクロンは、すでに日本を含む 57 か国以上国で検出されています(トラッキングする記事、こちらも、があります)。GISAID には 200件以上の登録データがあります。
また一方で、各国の機関もすばやく対応・検討を実施しています(国立感染症研究所、ECDC、WHO)。アメリカのファウチ博士も伝播性が上昇していることを前提とした対策が重要であるとの認識をしめしており、米国も渡航制限を開始しています。
WHO は非常にすばやく動き、最初の報告からわずか 2週間以内でこのオミクロンを VOC に位置付けたことになりますが、すでにオミクロンはある程度国際的に広がっていることが考えられる状況です。
現在までにわかっているオミクロンの性状・性質
ウイルスの変異の系譜をたどってみられる系統樹上では、オミクロンはデルタとは全く関係のない系統であることがわかります。由来は正確には不明で、一部で免疫不全者の感染等によって変異が多く蓄積したのではないかという説もながれていますが、多くの変異が蓄積したメカニズムなどは現状よくわかっていません。
このオミクロンについて懸念されていることは主に
① 伝播性の上昇がありデルタ以上なのではないか、ということと
② 多くの変異(スパイクタンパク質だけで32か所以上)があることから免疫逃避をはじめとする多くの性質の変化があるのではないか、ということです。
②については、これまでの他の VOC 変異体にみられる変異も含む、50か所以上の変異が認められており、少なくとも32か所はスパイクタンパク質にみられることがわかっています。スパイクタンパク質内の受容体と結合する部位(RBD)にも10-15の変異があることがわかっています。これらの意義については後に考察します。
伝播性について
そもそも変異ウイルス(変異体、variant)というのは、どういうものかというと、ウイルスの設計図であるゲノム情報(新型コロナウイルスの場合にはRNAに書き込まれている)が書き換わったウイルスのことを指しています。設計図が書き換わると、そこから作られるタンパク質や制御情報が変わることによって、ウイルスの性質が変わることがあるわけです。
特にウイルスの性質のうち、変わることで疫学的に特に問題となるのは以下の3つの特徴と考えられます。
① 伝播性 (transmissibility) の上昇
… ヒトからヒトへうつりやすくなる
② 病毒性(virulence)の上昇
… より重い病気を引き起こすようになる
③ 免疫逃避(immune escape)
… 再感染しやすくなったりワクチンの効果が弱まったりする
この三つについてオミクロンはどうなっているのでしょうか。
現時点での結論からまとめると、デルタより上昇していることがほぼ確実な状況となっています。
まず、伝播性の上昇については、南アフリカ一部地域において、特に検出割合でみるとデルタに置き換わっているように見えました。しかしこれも、先にしめした南アフリカの流行の立ち上がりを見ている部分であるということ、検査率も十分とは言えない現状があることを考えて読み解かなくてはならないデータです。
デルタに対して置き換わりがおこっているとすれば、伝播性がデルタより高い可能性はもちろん理由として考えられますが、流行している人の層がちがうことなど、他の要因ももちろん理由として考えられますので、現状でオミクロンがデルタより伝播性が高いと断言することはできません。一部報道では南アフリカのゴーテン地域において急激な患者数の増加があり、実効再生産数(R)が1.93 あるのではないかとされ、南アフリカでの R の平均値(1.47)より高いと言われています。ただ、これら R の値は人の行動や対策度合いによっても変わるため、即座にウイルスの伝播性の上昇だけで説明できるわけではありません。
また先にのべた南アフリカからの速報では、デルタと比較して最大3倍程度までの伝播性の上昇がある可能性が示されました。
すでに煽り立てるような記事もでていますが、これはラムダ変異体のときに「最凶の変異株」などと煽り立てた反省が活かされていない、慎重さを欠いた良識のないものであると考えます。
デルタとの比較において、伝播性が上昇していることを示すデータがてきています。まだ詳細な数値は明ですが、デルタより伝播性が高いと言って良いでしょう。
病毒性について
これはまったく不明という状況です。まずは検査が十分になされて、比較がなされることが重要です。現状、病毒性が高くなっているかどうかについて検討することは困難です。南アフリカからの報告ではオミクロン感染者の中に無症状者もいることがわかっています。
免疫回避について(ワクチン効果等)
新型コロナウイルスのワクチンは、主に、ウイルス表面に突き出しているスパイクタンパク質というものを標的とする中和抗体を誘導する、という仕組みで作用するものです。
ウイルスの表面に突き出しているスパイクタンパク質は、ヒトの細胞表面にある ACE2 というタンパク質と結合することで感染のプロセスを開始させます。
この、スパイクタンパク質とACE2が結合する部分のプロセスを防ぐことによって感染やウイルスの増殖を防ごう、というのがワクチンや中和抗体製剤ということになります。
さて、オミクロン変異体においては先にも述べたように、非常に多くの変異が蓄積していることがわかっています。
特に先に述べたように感染にかかわりワクチンのターゲットの成分であるスパイクタンパク質には、この変異体では 32 以上(37という解析結果もあり) もの変異が蓄積されています。それらのうち、D614G や N501Y については伝播性上昇に関連していることが知られており、E484、K417Nについては免疫逃避に関わる可能性があります。さらにH655Y、N679K、P681Hもフリン切断・スパイクタンパク開裂部位(S1/S2)という重要な機能のある部分に近いことから、感染などの性質の変化が起こっている可能性も推測されます。
すでにこれらの変異の個所と、これまでに報告されている文献についての内容がまとまったレポートがすで公開されています。さらに、様々な試験結果をまとめた非常にかりやすいサイトもあります。
では実際に、オミクロンに対して、ワクチンで誘導されたり他の変異体に感染した場合にできた中和抗体は効きにくくなっているかというと、様々検討で、実際に抗体が効きにくくなっていることがわかってきました。
いずれの検討でも、デルタと比較して中和抗体の効果が低下していることが示されています。
さらに実際のワクチンの効果が低下していることを示す報告も出ました。ファイザー製ワクチンのブースター接種をおこなっても、その発症予防効果は 75% 程度となる、というものです。今後さらに報告があるものと思われます。
免疫逃避については、ワクチンの効果の低下はあると言ってよいでしょう。
変異ウイルスへの対策について
個々人の対策
オミクロンについては不明なことが多い状況ですが、個々人の対策については変わることはありません。まずは基本的予防策の徹底。3密の回避、マスクをする、距離をとる、換気をする、手を洗う、体調不良なら外出しないなどを守ることです。伝播性の上昇があきらかであったデルタについても、これらの対策の徹底と、社会的な接触抑制策が良く効き、第5波は収束したと考えられます。たとえ大きな変異があったとしても変異体がテレポーテーションするようなことは考えられません。感染ルートを遮断するという基本予防策の徹底が重要です。
ワクチンについては、オミクロン以外ももちろん流行しているわけですし、現状用いることのできるワクチンを接種しておくこと、これが重症化はもちろん、程度の差はあれ感染・流行・発症への対策になることは間違いありません。ワクチンの効果が下がってはいそうですが、効果が0になるわけではありません。ワクチンを打たない、という選択へ向かわせるものではないのは当然です。できる予防策としてワクチンの接種を進めることはかわりなく重要です。
ワクチンの改良が必要なのか
世界的にワクチンメーカーのうごきは慌ただしくも素速い状況です。モデルナ社はオミクロン対策戦略として①高容量ブースターショット(1、2回目と同容量を使用)、②多価(変異体)対応ワクチンの使用、③オミクロンに対応した改良ワクチン(mRNA-1273.529)の開発を急ぐこと、をあげており100日もあれば出荷できるであろうと見通しを示しています。ビオンテック社など他社も同様に改良ワクチンの検討を発表しています。
このように各社の動きもはやい状況であり、行政も対応をすばやく行うと思いますが、前提として、改良したワクチンが本当に必要であるかは現状不明です。基本的対策でどこまで抑えられるか、現行のワクチンがどの程度効かなくなるか、が重要なファクターと考えられます。
国としての対策は
国という単位で見れば、水際対策とその後の流行の起点とさせないためのコンタクトトレーシングや流行状況を見ての社会的な対策が重要でしょう。水際対策は突破されることがいくらでもありますが、とにかく入ってきてもそれを大流行にさせないことが肝要です。そのためにもオミクロン変異体にかぎらず、現在の流行状況をよくみて、対策をはやめはやめに実施し、適切な情報発信によって国民の対策強度も速やかに変えられるようにしておくことが重要と思われます。
オミクロン対策としてはすでに日本政府は南アフリカとその周辺国の6カ国からの入国対策を強化していますし、国立感染症研究所でも監視を強めています(28日には日本でも VOC に指定されました)。
まとめにかえて
オミクロンについては依然不明なことが多い状況です。
まずは、オミクロンが大流行につながるかどうか、ここが問題であると考えられます。そのためには、南アフリカ内で抑え込むこと、飛び火した各地域でしっかりと流行が抑えられるか、ここが重要であると言えます。もちろん日本でも同様で、水際対策と、その後、をしっかり行うことでしょう。個々人のレベルでは基本的予防策をとりつづけ、しっかり強度を意識することが重要であると思われます。
ワクチンについては現状効果低下はありそうですが、効果がなくなるわけではなないといえます。さらなる検討が重要でしょう。いずれにせよ、既存の他の変異体対策も重要でありワクチン接種率の向上は図り続けるべきであると考えます。オミクロンへのワクチン効果が著しく低下し、流行も大流行となるようであれば、改良ワクチンの必要性が高まるということになると考えます。
現状、あまりに大騒ぎの状態もあるため、一般的には騒ぎすぎる必要はないと考えていますが、対応するプロは最悪に備えた徹底的な監視・検討と対策の実施を行うべきであるでしょう。
流行がつづくかぎり新たな変異体の出現はかならずあります。予防を徹底するとともに、世界全体でパンデミックを抑えていくことが重要であることを再認識させられる事例と考えます。
あわせてどうぞ
● SARS-CoV-2 の変異株 B.1.1.529 系統(オミクロン株)について(第2報)国立感染症研究所
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● SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England
● SARS-CoV-2 Variants & Therapeutics Therapeutic Activity Explorer
● NYT Tracking Omicron and Other Coronavirus Variants
● Heavily mutated Omicron variant puts scientists on alert. Nature
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