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【ロボットがロッシを超える日はくるのか!?】ヤマハが「MOTOBOT」最新映像を公開!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
YAMAHA「MOTOBOT」

■バイクを操る、ヒト型自律ライディングロボット

ヤマハ発動機(以下、ヤマハ)は2015年秋の東京モーターショーで公開し、全世界で大きな反響を得たヒト型自律ライディングロボット「MOTOBOT」映像の続編をYouTube上で公開した。

MOTOBOTはモーターサイクル本体には手を加えず、人側から見た車両操作にフォーカスした「ヒト型自律ライディングロボット」である。昨年の東京モーターショーで初公開され、国内外から大きな注目を集めたことは記憶に新しい。

研究テーマは「Beyond Human Capabilities」。

つまり、人間の能力を越えることだ。一般的にロボットは用途を特化させることで、人を超越する性能を発揮する。たとえば、自動車工場でクルマをオートメーションで組み立てる工業用ロボットなどがそうだ。

だが、MOTOBOTは人型ロボットである。モーターサイクルのライディングに特化しているとはいえ、我々人間と同じような姿をして、ハンドル操作やアクセルとブレーキ、クラッチ操作などをしながら、まさに”バイクを操る”ロボットなのだ。

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■着実に進化する「MOTOBOT」第2章

昨年、初公開された映像「To “The Doctor”, 親愛なるロッシへ」では、サーキットのラップタイムでMotoGP界のスーパースター、バレンティーノ・ロッシへの挑戦を宣言していたMOTOBOTだが、続編となる今回の「MOTOBOT Meets The Doctor」では、ついに実際にロッシとの初対面を果たしている。

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詳しくは映像を見てもらいたいが、ヤマハの最新型スーパースポーツモデル、YZF-R1に”跨り”サーキットを疾走し、曲がっていくMOTOBOTが映し出されている。前回に比べると、明らかに走りのレベルが進化している様子が見て取れる。これを見たロッシの驚きや戸惑いの表情も必見だ。

MOTOBOT Meets The Doctor (Valentino Rossi)

■この挑戦から「得られるもの」を、開発や新たな価値創造に応用

ヤマハはではこの挑戦から得られる知見や高度な技術を、製品開発や新たな価値創造に応用していく、としている。

目標としては、2015年に「最高100km/hの直進走行、スラローム走行、旋回走行を達成」。2017年度に「人間の運転を上回るパフォーマンスの要件を解明し、最高速度200km/h以上でのサーキット走行」。2020年に「MOTOBOT開発で得た知見や要素技術を、ヤマハの新しい価値としてお客様に提供する」ことを目指しているという。

車両はノーマル。あくまで自律運転

MOTOBOTはクルマの世界で近年盛んに取り組まれている完全自動運転化の方法とは異なり、バイク本体は改造せず、ヒト型ロボットがノーマルの車両を運転するところにある。具体的にはスピード・エンジン回転数・姿勢などの情報を元に、搭載した6つのアクチュエータ(ステアリング・アクセル・フロントブレーキ・リアブレーキ・クラッチ・シフトペダル)を操作して、自律的な運転操作を行なっているのが特徴だ。

今後は高精度GPSや各種センサなどを応用し学習することにより、サーキットコースの最適ラインやマシン性能の限界をMOTOBOT自らが判断し、走行を重ねることでラップタイムを向上させていく計画である。

これにより、車両を操作・運転する人側の情報の可視化、およびそれに対する車両の挙動の関係性を解明し、より感動を与えられる車両開発に生かしていくそうだ。

また、MOTOBOTで培われた技術は、マリンジェットやスノーモービルなど他の乗り物への展開も期待できるとしている。

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■MOTOBOTの研究目的

ヤマハでは、このプロジェクトを通じてモビリティの運動制御を最適化し、より高性能、より安全なモビリティの開発を行うものとし、最終的には無人運転ロボットの開発なども視野に入れているという。

MOTOBOTは同じ無人運転でも4輪で研究が進むクルマのロボット化とは異なり、自律したロボットが乗り物を操作している点がユニークである。我々が子供の頃に夢見た未来の姿、「鉄腕アトム」の世界にまた一歩近づいた気がしてワクワクする。

ただ、昨年の東京モーターショーで初めてMOTOBOTを見たとき、私自身、ヤマハが何故こうしたライディングロボットの研究をしているのか、正直なところ今ひとつ釈然としないものがあったことも事実だ。

そこで、会場でMOTOBOTの開発者をつかまえて直接その疑問をぶつけてみたところ、「ロボットは恐怖を感じることがないので、テストライダーが到達できない本当の限界まで攻め込むことができます。そこで得られたデータを数値化し、解析することで人が乗るバイクの安全性をさらに向上させるのが目的です」と彼はきっぱりと語ってくれた。

■MOTOBOTの命題。”ロッシに勝てるのか”

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そして、究極の命題。果たして、”MOTOBOTはロッシに勝つことができるのか”については「まだ始まったばかりなので分かりませんが、でもそれがひとつの目標でもあることも事実です」とのこと。

今のところMOTOBOTはバンク角も制限され、サーキットでもビギナー程度の実力でしかないかもしれないが、現代テクノロジーの進化のスピードは凄まじいものがある。つい最近も、コンピュータが人間に勝つにはあと20年はかかると言われていた囲碁の対局で、世界チャンピオンが人工知能に敗れるというショッキングなニュースが世界を駆け巡ったばかりだ。

もちろん、高度なバランス感覚と身体能力を駆使しながら全身を使ってコントロールしていくモーターサイクルの操縦は、キカイが簡単に肩代わりできるものではないはず(そう信じたい)だが、MOTOBOTの堂々たる走りっぷりを見ていると、もしかすると・・・・・・。それはそれで楽しみでもある。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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