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大谷翔平との2年契約は妥当だった?ペリー・ミナシアンGMが選択した大きな賭け

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
年俸調停を避けエンジェルスと2年契約で合意した大谷翔平選手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【年俸調停避け2年契約で合意】

 すでに日本でも報じられているように、エンジェルスは現地時間の2月8日、大谷翔平選手との年俸調停を避け2年契約で合意したことを発表した。

 米メディアによれば、年俸総額は850万ドルで、その内訳は今シーズンが300万ドルで、来シーズンが550万ドルになるようだ。この結果大谷選手とエンジェルスは、来オフの年俸調停も回避することになった。

 大谷選手は昨シーズン終了後に初の年俸調停の資格を得ていたが、大谷選手の要望額が330万ドルに対しエンジェルスの提示額が250万ドルだったため、交渉期限内に合意できず年歩調停に回ることになっていた。

 だが今回の合意により、実際に年俸調停のヒアリングが実施されることはなかった。

【契約内容は大谷選手が得をした?】

 米メディアの間では、実際に年俸調停が入った場合、大谷選手が不利だという見方が多かった。特に昨シーズンは二刀流として完全復帰できず、打者としても不振に終わっていたことがマイナス要因になると考えられていたからだ。

 だが今回の合意により、今シーズンの年俸300万ドルは、大谷選手の要求額に近い額で決着したことになる。しかも今シーズンの活躍にかかわらず、来シーズンも年俸550万ドルを保証しているのだ。

 この契約内容をみれば随分大谷選手側が得をしているように思えるのだが、果たしてエンジェルスのペリ・ミナシアンGMの皮算用はいかなるものだったのか。

 結論から言えば、まさに大谷選手の復活に賭けた先行投資といえるものだ。

【過去2年間で年俸調停1年目の6選手を比較】

 そこで年俸調停2年目を避け、大谷選手に保証された550万ドルが妥当な額かどうかを考えてみたい。

 2020年と2019年の年俸調停有資格者の中で、年俸調停1年目で大谷選手とほぼ同じ300万ドル前後の年俸で合意した選手を探しだし、彼らが年俸調停2年目にどんな契約で合意しているのかを調べてみた。

 その結果は一定の傾向があるわけではなく、選手によって様々だった。まずは別表を見てほしい(資料元:「MLB TRADE RUMORS」)。

(筆者作成)
(筆者作成)

 2019年の年俸調停から3選手、そして2020年から3選手をピックアップしている。年俸調停2年目で大幅に上がった選手もいれば、ほぼ前年と同額で合意した選手もいる。トレバー・ウィリアムス投手に至っては、パイレーツからノンテンダー(いわゆる戦力外通告)を宣告され、チームを離れているケースもある。

【年俸調停2年目はそのシーズンの活躍次第】

 次に年俸額ではなく、年俸調停1年目で合意したシーズンの成績をチェックして欲しい。

 細かく説明する必要はないと思うほど明確になっているが、アンドリュー・ベニンテンディ選手以外は、そのシーズンであまり活躍できなかった選手は年俸調停2年目も年俸はほぼ横ばいで、ある程度の成績を残した選手がしっかり増額しているのだ。

 増額幅をみても、ノマー・マザラ選手が330万ドルから556万ドル、クリス・テイラー選手が350万ドルから560万ドルとなっており、大谷選手の550万ドルは、いわゆる相場に近い額だということが理解できる。

 ただレッドソックス時代のムーキー・ベッツ選手は、年俸調停2年目で史上最高額の2000万ドルで合意しており、もちろん大谷選手の確約次第では、むしろ550万ドルでは安すぎる額になることだってある。あくまで根底にあるのは、シーズンを通してある程度の成績を残せるかどうかだ。

【大谷選手の復活に賭けたミナシアンGM】

 実はベニンテンディ選手が成績を残せずに年俸が大幅アップしているのは、からくりがある。大谷選手と同じように、年俸調停1年目で総額1000万ドルの2年契約で合意していたため、すでに660万ドルが保証されていたためだ。

 だが昨シーズンのベニンテンディ選手は右脇腹の負傷などもあり、MLB在籍5年目で自身最低の成績でシーズンを終えている。もし2年契約に合意していなければ、彼の年俸はほぼ横ばいで推移していただろう。レッドソックスにとっては、大きな痛手といっていい。

 ただベニンテンディ選手の場合、年俸調停の資格を得るまで、大きな故障もなく毎シーズンほぼ安定していた成績を残していた。そのためレッドソックスも、2年契約を提示したはずだ。

 一方の大谷選手は、過去3年間で故障なくフルシーズン戦えたことは一度もないばかりか、カギを握る二刀流継続も不透明な部分が拭い去れていない。それでも大谷選手と2年契約を結んだのは、ミリングHCが大谷選手の今シーズンの復活に賭けたからに他ならない。

 そして今シーズンの大谷選手の活躍が一定レベルに達しなければ、ミナシアンGMは間違いなく非難を浴びることになる。彼の賭けが正しかったかどうかは、今シーズンの大谷選手の活躍を見てみないと答えはでない。すべては大谷選手の完全復活に委ねられている。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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