「新幹線の完全禁煙化」や「加熱式タバコ増税」:タバコ問題は2024年にどうなるか
議論が巻き起こるテーマにタバコ問題がある。2024年には、タバコに関するどのような議論が考えられるのだろうか。公共空間、プライベート空間、経済、健康といった項目を中心にみていこう。
新幹線などが完全禁煙化
喫煙率が下がってきたとはいえ、男性、特に中高年の喫煙率はまだまだ高い。厚生労働省の2022年の国民生活基礎調査によれば、40代の男性の喫煙率は34.6%、50代で32.6%、30代で29.9%となっている。
これらの男性の世代は発言力もあり、政治や行政、経済の中核をなしていてタバコに関する議論がこじれる原因にもなっている。
こうした喫煙者の間で特に話題になっているのは、2024年春から東海・山陽・九州の各新幹線が全面禁煙化することだろう。
東海道新幹線の喫煙ルームは正確にはいつなくなるのか、東海旅客鉄道株式会社広報部東京広報室に聞いたところ、やはり2024年春という回答だった。
同広報室では、喫煙ルーム廃止に向けた準備が整い次第、詳細な日程をアナウンスするという。また、喫煙ルーム廃止後は、災害等への対応力強化を目的として、非常用飲料水を配備するそうだ。
さらに、近鉄(近畿日本鉄道)も、2024年3月1日から特急列車の喫煙室を全廃すると発表した。両社とも、近年の健康増進志向の高まりと喫煙率の低下などがこうした施策の理由だという。
2024年は、屋内の公共空間での禁煙化が加速しそうだ。コロナ禍の中、不十分だった飲食店(法律を遵守していない喫煙可能店や喫煙目的店など)の禁煙化も徹底する動きが出てくるだろう。
一方、喫煙者が、路上や空地、公園などの屋外でタバコを吸い、受動喫煙の害をおよぼし、吸い殻をポイ捨てするなどの迷惑行為をするといった問題が頻出している。
分煙では解決できない問題
一部の行政は、こうした問題を解決するため、屋外の公衆喫煙所を設置することが多い。JT(日本たばこ産業)が無償で喫煙所を提供するケースが多いが、維持管理費や撤去費用は公費から出される。
2023年12月14日に発表された与党の税制改正大綱(令和6年度)の中に、屋外分煙施設等の整備の促進という項目がある。与党はその目的の一つとして、地方タバコ税の「継続的かつ安定的な確保の観点」と述べており、喫煙者を減らさないために喫煙所を設置しようと考えていることは明らかだ。
無償で喫煙所を設置するものの後は放りっぱなしのJT、そして喫煙者を減らしたくない与党の思惑は共通している。ようするに、喫煙者の健康や受動喫煙の害より、カネ儲けのほうが大事なのだ。
与党の税制改正大綱が明らかにしているように、喫煙所を作れば喫煙者を減らさずにすむ。こんな環境では、禁煙に挑もうとする喫煙者の気持ちをくじけさせるだけだ。
タバコ煙の害やポイ捨てタバコの問題は、喫煙率が下がれば自ずから解決される。喫煙所の設置は、問題の先送りのみならず、問題を長引かせるだけだろう。
分煙を完全に実施するのは不可能だ。なぜなら、タバコ煙はどう防いでも出てくるものだし、タバコ煙を身にまとった喫煙者による三次喫煙の害が生じるからだ。
まだまだ高い中高年男性の喫煙率、政府やタバコ会社の姿勢などから、2024年には喫煙所問題がさらに過熱するだろう。
だが、その存在は、喫煙者が減ることを遅らせ、喫煙者の健康や受動喫煙の害を放置していることになる。少なくとも、公衆の健康や生命をあずかる公的機関が手を出すものではないのは明らかだ。
集合住宅の受動喫煙をどう防ぐ
改正健康増進法や各自治体の受動喫煙防止条例は、主に不特定多数が集まるような公的な屋内空間や飲食店などのタバコ対策のために作られている。他方、放置されているのが、プライベート空間の受動喫煙の害だ。
東京都は2018年4月1日から、子どもを受動喫煙から守る条例を施行した。この条例は、罰則のない努力義務として、家庭内でも子どもの受動喫煙を防ぐこと、子どもが同乗している自動車内での喫煙をしないことなどを定め、プライベート空間での特に子どもの受動喫煙の害の防止を目的にしている。
この条例は、保護者による自分の子どもに対する受動喫煙防止が主であり、他者のプライベート空間への規定ではない。
だが、都民に対して「いかなる場所においても、子どもに受動喫煙をさせることのないよう努めなければならない」とあるように、広く解釈すれば戸建ての近隣や集合住宅の隣室の子どもにも適用できる内容になっている。
こうした隣近所や集合住宅での受動喫煙の害が次第に顕在化し、メディアなどで取り上げられ始めている。兵庫県明石市では、分譲マンションに住む住人が隣室からの受動喫煙の害に悩み、受動喫煙防止を義務づけるように管理規約を変えて話題になった。
マンションの専有部分、つまりプライベート空間での喫煙は米国ニューヨーク州の公営住宅など、海外でも議論になっており、個人の自由と他者被害の折り合いをどうつけるのかが問題だ。
だが、受動喫煙の害は、加害者と被害者がはっきりしている。
これまで被害者が泣き寝入りをしてきたが、2024年には別の動きが出てくるだろう。ペットに関する規約を入れなければならなくなった(国土交通省、マンション標準管理規約コメント、第18条関係)のと同様、マンションの管理規約に受動喫煙防止の項目を入れる改定の動きが全国的に加速するかもしれない。
また、禁煙マンションが増えたり、大きな社会問題になれば、プライベート空間での喫煙を禁じる条例や法令ができるかもしれない。東京都の子どもを受動喫煙から守る条例の内容を拡大し、いかなる場所においても、またどんな人に対しても受動喫煙がないようにするような条例(罰則を含む)が作られる可能性はある。
タバコ増税
前出の与党の税制改正大綱(令和6年度)によれば、タバコ製品に対し、1本3円相当の増税を予定しているとしているが、加熱式タバコを含む増税の時期は明らかにしておらず、税制改正の法律の附則で明らかにするとしている。おそらく、例年10月に増税されるため、2024年10月に加熱式タバコの増税が行われると予想でき、加熱式タバコも1箱600円を超える価格帯に突入するだろう。
一方、加熱式タバコのグローを製造販売しているブリティッシュ・アメリカン・タバコは昨年、タバコスティックの値下げをした。
また、フィリップ・モリスは2024年1月11日に加熱式タバコのアイコス・イルマ用の安価なタバコスティックのブランドを新たに発売した。北海道と福岡県の先行発売で感触を得た後、全国展開すると考えられる。
新型タバコは総じて紙巻きタバコより純利益が多い。各社とも加熱式タバコの増税と小売価格の値上げを見据え、安価版を先行して出すことで小売価格にバッファを作り、喫煙者を取り込む戦術のようだ。
いずれにせよ、日本のタバコ価格は他国に比べるとまだまだ安い。1箱20本入りの標準的な紙巻きタバコの価格は、日本は600円前後だが、ドイツは約1200円、フランスは約1600円、オーストラリアは約3800円だ。
ようするに、日本でタバコにかけられる税率にはまだ伸びしろがある。タバコ税の税率は、今後の喫煙率の減少によって加熱式タバコに限らず、もっと上がる可能性は高い。
加熱式タバコなどの新型タバコの健康影響
2023年末頃、加熱式タバコに対する増税を阻止するため、タバコ会社がハームリダクション理論を盾にして抵抗していた。タバコ会社によるハームリダクション理論は、加熱式タバコや電子タバコなどは紙巻きタバコに比べて有害物質が少ないので、よりマシな代替ニコチン供給法として税額も安くすべきという内容だ。
日本では電子タバコはまだ一般的ではないが、加熱式タバコに限っていっても確かに有害物質は紙巻きタバコより少ないものの、それがイコール健康への害の低減ではないことがわかっている。また、禁煙のためにも役に立たないので、加熱式タバコがハームリダクションにならないのは明らかだ。
欧米では電子タバコによる健康被害がわかってきているが、加熱式タバコによる健康への悪影響も次第に明らかになってきている。また、シーシャ(水タバコ)についても健康への害があることが広がるだろう。
タバコ製品には必ずニコチンが入っていて、なかなか禁煙できないのは依存性物質であるニコチンのせいだ。ニコチン依存では、朝起きてから夜寝るまで間歇的に長い期間、タバコを吸わずにはいられなくなる。
加熱式タバコが市場に出回り、喫煙者が増えてきたのはここ数年だ。タバコ関連疾患は、長いものでは数十年経って発症する。がん(肺がん、喉頭がん、口腔・咽頭がん、食道がん、胃がん、膀胱がん、すい臓がん、肝臓がん、子宮頸がん)、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気管支喘息、虚血性心疾患、脳卒中、腹部大動脈瘤、2型糖尿病など枚挙に暇がない。
そう遠くない将来、加熱式タバコの喫煙者に健康への悪影響が出始め、加熱式タバコ病といった症例が目立ち始めるのかもしれない。2024年がその始めにならないためには、加熱式タバコはもちろん喫煙をなるべく早くやめることが重要だ。