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【「鬼滅の刃」を読む】遊郭の広がりとともに発達した房中術と媚薬の効果とは

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
高麗人参は滋養強壮剤として有名だ。(提供:shiori/イメージマート)

 「鬼滅の刃」遊郭編は子供向けでもあるので、あまりきわどいシーンは出てこない。今回は「遊郭編」の予備知識として、房中術と媚薬の効果について紹介することにしよう。

■房中術とは

 戦国武将たちが健康と長寿を願って発達したのが、房中術である。房中術とは、男女の精気を循環させる、内丹術の養生法のことだ。

 内丹術とは、不老不死の仙人となるための道教の煉丹(れんたん)術の1つだった。

 煉丹術とは、服用により不老不死などの超能力を持つ神仙になれる丹薬を製造すべく、古代中国で盛んに試みられた術である。

 古代中国の陰陽五行説では、陰陽の結びつきにより、万物が成り立っているとされ、そこから男(陽)と女(陰)の自然の理につながると考えられた。

 したがって、房中術とは男女の和合を円滑に進めるための術であるといえる。中国には、房中術の秘書と称されるものが数多く存在する。

 数ある道教の流派の中で、房中術を行なう流派は、4つある。東派、西派、南派、三峯派である。このうち南派は、男性は女性の弟子、女性は男性の弟子と修行する男女双修であり、三峯派は男性のみだった。

 房中術には、さまざまな性行為の技法が含まれている。そこでは、女性が十分に興奮した状態で交わること、男性は精(精液のことではなく気の一種)をもらさずに交わることが随所で説かれている。

■媚薬の効果

 媚薬とは、狭義には催淫剤と呼ばれ勃起不全の治療に使われる薬を言い、広義には性欲を高める薬、恋愛感情を起こさせる惚れ薬、肉体的な性機能の改善を目的とした精力剤、強壮剤も含まれる。

 現在では、どちらかといえば「恋愛感情を起こさせる惚れ薬」の意味合いが強いのではないだろうか。媚薬は服用薬を主体とするが、塗布や散布用のものなどもある。

 中国の媚薬は日本にも伝わり、イモリの黒焼きや鹿茸(ろくじょう:鹿の袋角を乾燥したもの)などの動物系、肉蓯蓉(にくじゅよう:中国産のホンオニクを乾燥したもの)、山薬(さんやく:ヤマノイモ・ナガイモの根を、外皮をはぎ乾燥させたもの)などの植物系のものなどが作られた。

 諸外国では、ロバの睾丸を熱いオイルに浸けたものがあったといわれている。

 インポテンスの治療に用いる薬剤には、強精剤があった。

 漢方では、八味丸(はちみがん)(八味地黄丸)がもっとも有名であるが、人参、淫羊藿(いんようかく:中国産のホザキイカリソウの漢名)、枸杞子(くこし:ナス科の落葉低木)などもよく用いられる。

 朝鮮人参などは、万能薬といってもよいであろう。その他に、中年、老年の者が若さを回復させる薬剤として回春剤があった。現在でも、一頃ブームになったバイアグラが該当するだろう。

■回春剤など

 回春剤は、不老不死や若返りのために、薬剤の力を得ようとし、古代中国、インド、エジプト、ギリシア、ローマ、イスラム圏などで本格的に研究された。

 古代中国には、徐福が秦の始皇帝の命により、不老不死の薬を探したという有名な話がある。金と権力は手にできても、健康を手にすることが困難だったのである。

 ちなみに中国の唐では、太宗(たいそう)をはじめ幾人もの皇帝が、不老長生の丹薬(水銀)を常用したため中毒死したほどである。

 水銀は万能薬と信じられており、梅毒の治療にも用いられたが、結局は重金属による中毒症で寿命を縮めた。水銀は日本でもかつては、公害病の要因になった。

■むすび

 長寿化社会になったものの、相変わらず成人病などで寿命を縮める人は多い。薬で健康を得るのではなく、日頃の節制や運動が重要なようである。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『蔦屋重三郎と江戸メディア史』星海社新書『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房など多数。

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