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「愛うつつ」で映画初主演のn a g o h o。彼氏から体の関係を求められないヒロインを演じて

水上賢治映画ライター
「愛うつつ」で主演を務めたn a g o h o  筆者撮影

 本作が劇場デビュー作となる新鋭、葉名恒星監督が、自身の実体験をもとに、ある男女の愛とセックスの在り様を描いた「愛うつつ」。

 付き合い始めて7カ月、いまだに体の関係がもてていないカップル、ある事情から「心から愛しているからゆえに結衣を抱けない」純と、「抱かれないことから純の愛情を感じられず、自身の性的魅力も否定された気がする」結衣の愛の行方を描いた本作について主演を務めたnagohoに訊くインタビューの後編へ入る。

結衣は演じながら、徐々に自分と共有する重なりが増えていった感覚がある

 前回のインタビューでは、出演の経緯から結衣役を演じるまでを主に訊いた。今回も結衣についての話から。演じ終えて、こんなことを考えたという。

「自分と重ねてしか、私は考えることができないんですけれど……。

 前回触れたように私自身は、純さんみたいな感覚がすごく強くて。大切な人を抱くことができないことが理解できるところがあった。

 細川さんを見ているときに、どこか自分を見ている感覚がありました。そのおかげで、自分の私生活に落とし込んで考えることができたところがあって。

 それによって逆の立場にいる結衣のすごく苦しんでいる気持ちもまたわかるような気がしました。

 そういう意味で、純が自分と重なることで、それを一回、自分のプライベートに落とし込むことができて、身をもって考えることで、結衣を理解できる部分が増えていった。

 だから、結衣は演じながら、徐々に徐々に自分と共有する重なりが増えていった感覚があります。

 それは、自分が結衣をただ演じているだけじゃなくて、細川さんが演じている、鏡というか、反射でそれを感じられるようになってったっていうところが大きいですね。

 それはまた、純が結衣を深く愛していることを実感する時間でもありました。

 逆に、結衣の立場に転じると、結末につながる二人の思いの隔たりを感じる時間でもありました。

 いずれにしても結衣を演じている間は苦しかったです。撮影も全部順番通りに撮ってくださってので、結衣の心の遍歴をそのままたどった感覚がありました」

結衣にとってはセックスがひとつの愛の形だった

 とりわけ結衣を演じていて愛おしく感じた瞬間をこうあげる。

「純さんにとっては、セックスというのが必ずしも愛の形ではなかった。けれども、結衣にとってはそれがひとつの愛の形だった。

 ですから、二人の迎える結末は、それぞれに見解が分かれると思います。悲しい結末と受け取る人が多いかもしれない。

 でも、わたしは必ずしもそうではないと思っていて。

 お互いがお互いをいい形で見守る。分かり合えないところは分かり合えないとして認めたとき、実は一番愛がある形を二人は導きだしたんじゃないかと思いました.

 見方によってさまざまな意見があると思うんですけど、わたし自身はすごくリアルで前向きな愛の物語だと思っています

「愛うつつ」より
「愛うつつ」より

少し自分の中での愛の在り方が広くなった気がする

 葉名監督自身が作品を通して問おうとした「愛とはなにか?」についてはどう考えたのだろう?

「私もずっと考え続けてきているんですけれども……。

 すごく、愛というのは自分にとってもセンシティブなもので。自分の中では、ないかもしれないと思っていました。

 これまでは、自分のなにかを渡すことでしか愛を感じることができなかった。相手からの愛については受け入れることが怖かった。

 自分から渡す分には、どうなっても自分の中で処理できるからそれ以上傷つくことはない。

 でも相手からのものを受け取るのは、相手の想いもあるし、自分の中だけで済まないから少し躊躇うというか、臆病になってしまうところがあったんですね。

 でも、最近、自分の中で初めて、そういうことを超えて重なり合える人と出会って、少し自分の中での愛の在り方が広くなった気がする。

 いまなんとなく自分なりの『愛の形』みたいなことができかかってきたところがあります。とはいえ、ひと言で『愛』といっても、男女だけではなくて、親や兄弟との関係、友人などいろいろな関係の中にある。

 何となくわかってきたことがあるようなこといいましたけど、そう簡単にわかることではないですよね」

本当に価値のあるアートを届けていく事で、少しでも社会貢献できたら

 現在はひとりのアーティストとして、舞台、音楽、映画など、多様なフィールドでの表現活動を展開。これから目指す先をこう語る。

「写真、俳優、音楽など、さまざまなことをやってきましたが、いまは自身のギャラリーであるNOSE art garageの運営をしながら、アーティストとして音楽活動をしていきたい。

私自身、アートや表現にずっと救われてきたからこそ、本当に価値のあるアートを届けていく事で、少しでも社会貢献できたらと思っています

ありのまま生きる事、難しい事だけれど、それがもっと純粋にできる世界になったらいい

まだまだ未熟ですけど、そうしたことを発信できるアーティストになれたらと思っています

「愛うつつ」より
「愛うつつ」より

「愛うつつ」

監督:葉名恒星

出演:細川岳、n a g o h oほか

ユーロスペースにて公開中。

大阪・シアターセブンにて 6月19日(土)より公開

愛知・シネマスコーレにて7月公開予定

場面写真はすべて(c)HANAOHANACO Co.

<イベント情報>

現在公開中のユーロスペースにて以下のイベント実施!

6月9日(水)  19:20の回上映後 トーク

ゲスト:川崎僚(映画監督)、野本梢(映画監督)、n a g o h o

6月10日(木)  19:20の回上映後 トーク

ゲスト:東かほり(映画監督・グラフィックデザイナー)、葉名恒星監督

6月11日(金)  19:20の回上映後 最終日舞台挨拶

ゲスト:細川岳、n a g o h o 、葉名恒星監督

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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