「いまのうちにカネを使い果たせ」混乱深まる北朝鮮経済
通貨安が恐ろしい勢いで進んでいる。
北朝鮮の平安北道(ピョンアンブクト)の成川(ソンチョン)と殷山(ウンサン)では今月10日、1ドル(約157円)が3万3000北朝鮮ウォンから4万北朝鮮ウォンに達したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の情報筋が伝えた。今年5月末に8000北朝鮮ウォン台だったので、わずか半年で通貨の価値が4分の1になった計算になる。別の情報筋は、今月1日に2万8000北朝鮮ウォンだったのが、8日には4万1000北朝鮮ウォンになったと伝えた。
レートには地域差があるため、全国的な現象かどうかはわからない。デイリーNKが7日に行った調査では、今月7日の時点で平壌では1ドルが2万1000北朝鮮ウォン、新義州(シニジュ)では2万1300北朝鮮ウォン、恵山(ヘサン)では2万1400北朝鮮ウォンだった。いずれも、先月24日と比べて、3000北朝鮮ウォンくらいウォンが安くなっていることから、通貨安の傾向にあることは間違いない。
そんな中で「再び貨幣改革(デノミネーション)が行われるかもしれない」という噂が駆け巡っている。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も"残酷な夜")
多くの人が財産を失い、国中が大混乱に陥った2009年11月の貨幣改革は、北朝鮮の人びとにとってはトラウマだ。資産を持っている人たちは、手持ちの北朝鮮ウォンを使い果たすため、品物を買い占め、品物を持っている人たちは売り惜しみしている。
RFAの咸鏡南道(ハムギョンナムド)端川(タンチョン)の情報筋によると、現地では貨幣改革が行われるとの噂が飛び交い、人々は通貨安と物価高騰の話で持ちきりだという。
資産を持ったトンジュ(金主、ニューリッチ)は、一夜にして全財産が紙くずになった貨幣改革のときのことを思い起こし、手当たり次第に物を買い漁っている。
ナマコを売って一財産築いた情報筋の友人は、あちこちを回って液晶テレビとパソコンを大量に購入している。手元に残す現金はコメ代くらいで、後はすべて物を買うのに注ぎ込んでいる。
自動車に詳しい友人は変速機やタイヤなど、使えそうな自動車部品を買い漁っている。別の商人は、物価高騰が収まるまで、市場には出ないつもりだといって引きこもっているという。
当局もじっとしているわけではない。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、地元当局は「貨幣改革の噂はデタラメ」だと発表して、恐慌状態を収拾しようとしていると伝えた。しかし、お上の言うことを信じる人はいない。
「市場を資本主義の苗場、個人主義(エゴイズム)の温床と考える当局が、市場で収入を得ている人のことを考えてくれるわけがない」(情報筋)
故金正日総書記は、力を持ちすぎた市場を潰す目的で貨幣改革を実施した。民間人が財力を持つと、余計なことをしだすと考えていたようだ。しかし大失敗に終わり、担当幹部を処刑するなどして収拾を図ったが、北朝鮮の人々は今もこのことで金正日氏を深く恨んでいる。
(参考記事:北朝鮮の15歳少女「見せしめ強制体験」の生々しい場面)
一部の商人は、万が一の事態に備えて、在庫を売り惜しんでいる。
「2009年の貨幣改革の初期、新紙幣は価値があったが、1カ月も経たずに価値が急落し、当局の統制のせいで、対ドルレートは当初の半分以下になった」(情報筋)
当時の記憶がまだ生々しく残っているため、恐怖に襲われた商人たちは、在庫の食用油、砂糖などの食品、木材、ペンキ、自動車やオートバイの部品など、様々な商品を自宅にしまい込んでしまった。
たとえ貨幣改革の噂が、単なる噂に過ぎないと後日わかったとしても、今はともかく何も売らないのがいい方が得と考えているとのことだ。