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「携帯電話のサービスエリア拡大」に北朝鮮国民が反発する理由

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(朝鮮中央通信)

北朝鮮で携帯電話サービスが始まったのは2002年のことだ。その後、2022年までに、700万回線が存在すると見られている。3.5人に1台の割合で普及していることになるが、これでも世界最低レベルだ。その理由のひとつと思われるのは、地方では都市部を除き圏外になることだ。

北朝鮮の内閣は最近、圏外となる地域を中心に基地局を増やす事業を開始したが、地域住民の評判は芳しくない。その理由を、咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が説明した。

咸鏡南道当局は、内閣の指示を受け、12月12日から農村や山間地に基地局を設置するプロジェクトを始めた。並行して以前から各市・郡の逓信所(郵便局)に設置されていた基地局の点検も始めた。作業は今年いっぱい続く予定だ。

北朝鮮では都市部と農村部の格差が非常に激しいが、後者の発展を妨げている理由のひとつが、携帯電話が使えないことだ。

市場で売る商品の価格、最新トレンドなどビジネスに関する情報は、携帯電話がなければ得られない。ただでさえ商圏人口の小さい地方で、情報が得られないのは非常に不利に働く。

基地局設置は生活向上につながるが、住民からの反応は芳しくない。

「人民が携帯電話を買えるように豊かにするのが先ではないか」
「自分たちの生活で最も優先して解決すべき問題ではない」(情報筋)

携帯電話は安くとも1台100ドル(約1万500円)もする。日々の食事すらまともに取れない人が多い中、いくら携帯電話がつながるようになっても、絵に描いた餅に過ぎないのだ。

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住民の不満はそれだけでない。基地局の設置にやって来た作業員の食事や酒などを、住民が負担しなければならないのだ。いわゆる「税金外の負担」だ。

「人民班長(町内会長)がやって来て、基地局の設置に必要だから金品を出せと言い出したので、口喧嘩になった」
「生きていくのも大変なのに、なぜ余計なことをするのか」

あまりの剣幕に、人民班長は何も言えずに引き下がったという。

今の経済難、食糧難の主な要因は、国が旧態依然とした国主導の計画経済に戻そうと、市場に対する規制を強化したことで、住民が現金収入を得られなくなったことだ。

国が国民に食糧や生活必需品を配給する形にして、金正恩総書記や朝鮮労働党への忠誠心を高めようとしているのだが、国民は皆貧しくなり、むしろ金正恩氏や党に対する反感が高まるという逆効果を生んでいる。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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