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ドラフト会議を前に。独立リーグから「下剋上」を狙う猛者たち

阿佐智ベースボールジャーナリスト
ルートインBCリーグの強豪、群馬ダイヤモンドペガサスからNPB入りを狙う奥村光一

 週末から日本シリーズが始まるが、それに先んじて、明日20日にはプロ野球新人選択会議、いわゆるドラフト会議が行われる。アマ球界のエリートたちが、NPBという日本球界最高ステージに立つことができるかどうかの運命の一瞬に多くの野球ファンが注目し、近年では、ペナントレースよりもこちらの方により興味を示す「ドラフトマニア」なる人種も現れている。

 今日この日は、NPBへ進む要件を満たした高校、大学、そして社会人それぞれのカテゴリーから選りすぐられた精鋭たちが、各球団からの指名を待つのだが、この他にも、精鋭たちが歩んできたエリートコースからこぼれ落ちてもなお、野球界の頂点を諦めず、フィールドにしがみついてきた者たちがいる。全国に7つある独立リーグでプレーする選手たちだ。彼ら独立リーガーの総数は、約900人。この中からNPBという「夢」を叶えるのはほんの数名だ。ドラフトを迎えるに当たって、私が今シーズン取材したうちから、ドラフト指名の期待がかかる選手を何人か紹介したい。

 まずは投手から。近年では独立リーグでも150キロ前後のストレートを投げる投手は珍しくない。その中でも、球の力強さが印象に残ったのが、四国アイランドリーグplus・愛媛マンダリンパイレーツの馬渕歩空(ほだか)だ。

馬渕歩空(愛媛マンダリンパイレーツ)
馬渕歩空(愛媛マンダリンパイレーツ)

 独立リーグの選手の多くがそうであるように、彼もまた野球界のレッドカーペットを歩んできたわけではない。帝京大可児高校から進んだ同朋大は、愛知大学リーグ2部。決してプロスカウトが足繫く通うところではない。それでも馬渕は、西武で3年間プレーしていた父でもある監督の下で、球速を伸ばしていった。結局、大学卒業すぐのNPB入りは叶わなかったが、多彩な変化球も操る剛球投手は、独立リーグ初シーズンの今年、主に先発投手として活躍した。19試合に登板し、5勝9敗、防御率4.06は物足りないが、堂々たる体躯に将来性が感じられる。

 もうひとりの投手はルートインBCリーグから。

長尾光(埼玉武蔵ヒートベアーズ)
長尾光(埼玉武蔵ヒートベアーズ)

 明桜高校(現ノースアジア大明桜高)から独立リーグ入りして2年目の長尾光(埼玉武蔵ヒートベアーズ)は、高校時代からスカウトの注目を集めていた。今シーズン150キロを記録するようになったストレートを武器にリリーバーとして29試合に登板。勝敗はつかなかったものの、防御率1.86を記録している。

 ストレートの他、スライダー、スプリットを巧みに操る投球スタイルはプロ向きと言える。その端正なマスクは、女性ファンを虜にすること間違いなしだ。

 捕手は、NPBのどこの球団もとくに必要としているポジションだろう。このポジションについては、アイランドリーグから丹治崇人を挙げたい。近年、毎年のようにNPBに選手を送り出している徳島インディゴソックスの4番を任された「打てる捕手」には各球団のスカウトの目が注がれていたはずだ。

リーグ8位のとなる打率.285を残した丹治崇人(徳島インディゴソックス)
リーグ8位のとなる打率.285を残した丹治崇人(徳島インディゴソックス)

 

 徳島には、巨人の増田大輝を兄にもつ増田将馬も在籍している。社会人野球から独立リーグ入りした今季は打率.231と、数字的には寂しい結果に終わったが、中部学院大時代は神宮大会にも出場している。ユーティリティ性と潜在能力を買っての指名があるかもしれない。

増田翔馬(徳島インディゴソックス)
増田翔馬(徳島インディゴソックス)

 

 独立リーグは、本質的に高校、大学、社会人それぞれのステージからのNPB入り、つまりドラフト指名を果たせなかった者が集まる場所。したがって、どちらかというと投手ではリリーフタイプ、野手では脇役タイプの選手が、一芸を見込まれて指名されるということが多いが、最後に、それらとは真逆のスラッガータイプの選手を挙げておきたい。いわゆる「ロマン枠」だ。

阪口竜暉(福井ネクサスエレファンツ)
阪口竜暉(福井ネクサスエレファンツ)

 

 今年発足した新リーグ、日本海オセアンリーグで本塁打王(10本)に輝いた阪口竜暉(福井ネクサスエレファンツ)は、敦賀気比高校時代には甲子園出場も果たしている強打者だ。高卒後は、九州の社会人野球の強豪、熊本ゴールデンラークスに進んだが、このチームが独立球団としてプロ化(九州アジアリーグ・火の国サラマンダーズ)するタイミングで、慣れ親しんだ福井に帰ることを決断。昨シーズンはBCリーグの福井ワイルドラプターズでプレーし、新たにネクサスエレファンツが立ち上がると日本海リーグに合流。スラッガーぶりを思う存分発揮した。ホームランだけでなく、打点は1位に1点差の43、打率もリーグ3位の.332をマーク。三冠王をとっても不思議ではない成績を残した。小柄でがっちりした体格から放つ力強い打球は、高校の先輩、吉田正尚(オリックス)を彷彿とさせる。年齢的には大学4年。大卒組の同級生とともにNPBに進む可能性は十分にある。

(写真は筆者撮影)

 

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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