敵対している人でもなぜか動いてくれる「話し方」の極意(後半)
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今回のゲスト、高橋浩一さんの新刊『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』には、相手の脳ミソに逆らわず、相手が動く理由をつくるフレームワークが紹介されています。どんなに口ベタな人でもこの「しくみ」を押さえれば、相手が自ら動いてくれるようになる確率が上がります。仕事はもちろん、恋愛や家族・友人とのコミュニケーションでも、「相手に動いてほしい」と思うとき、「東大の話し方」はきっと役に立つはずです。
<ポイント>
・「枕詞」をつけることで、話を聞くモードになる
・先回りして断られるのを防ぐ「NOキャンセリング」
・人生のヒントが見つかる「かぴばら書店」
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■4種類の枕詞を使いこなす
倉重:3つのタイプに続いて、4種類の枕詞に関してご説明をお願いします。
高橋:私は仕事でマネジャーや管理職の方とご一緒することが多いのですけれども、よく「最近のメンバーは動いてくれない」と嘆いています。
そのうちの一人の面談を見たことがあるのですが、彼は上司としての威厳を示すために、相手を否定するところから入っていました。「君はいつもこういうのができていないから言うけどさ……」というような感じから入るので、相手はガードしてしまいます。
北風と太陽の童話に例えると、ビュービューと吹き付ける北風のようなものです。反対に、「この間のあれは良かったよね」と褒めたりポジティブな材料から入ったりすると、相手は心を開きます。これが枕詞の一つ、「太陽メッセージ」です。
相手が心を柔らかくした状態で、「どうしたらもっと良くなるのか考えてみたんだけど……」という言葉を続けたら、部下の方ももう少し聞く耳を持ちますよね。
倉重:確かにそうですね。フィードバックの際には改善点ではなくポジティブなところから入るのですね。枕詞は、3つのタイプと関係あるのですか?
高橋:どのようなタイプでもやろうと思えばできます。
倉重:4種類の枕詞のうち、2つ目の「相談モード」とは何ですか?
高橋:相談モードは、お願いや指示・命令をするときに、相談の形をとるのです。例えば僕が最初に起業したときは、中途で入ってくる人たちのほとんどが年上でした。25歳の私が職位上は上司で、20歳以上も年上の人に「ここを改善してください」と言わなければなりません。気持ちよく動いてもらうにはどうしたらいいか悩んだ末、「ちょっと力を貸してくれませんか」という言葉が口をついて出ました。その年上部下は「私にできることあったら……」といきなり話を聞いてくださったのです。
倉重:いきなり命令や、「改善しろ」という感じだと防御姿勢に入っていますが、入り口を相談モードにしたら、心を開いてくれたのですね。
高橋:相談という形を取ることで、人は話を聞きやすくなります。
これは家族間でも同じです。僕はカツオのたたきが好きなのですが、奥さんが包丁で切るときに「ちょっと分厚いな」といつも思っていたのです。でも「もう少し薄く切ったほうがいい」と言うのが悪いので黙って食べていました。あるとき、「ちょっと相談なんだけど……」と相談モードで話したら、カツオのたたきを薄く切ってくれるようになったのです。相手に歩み寄る姿勢を見せるというのが大事です。
倉重:家庭でも使えるということですね。3つ目の「限定」は何でしょうか?
高橋:限定は、「一生のお願い」のようなものです。「一生のお願い」と言った瞬間に言葉にパワーが宿るではないですか。「今回だけ」という区切り方もありますし、「あなただから話すけど」と限定することでも、言葉に重みが宿りますよね。これが限定の枕詞です。
倉重:「俺にだけ言ってくれるのか、何だろう」と聞く気になりますよね。注意するときや改善してほしいときこそ、そういう言葉をつけると良いと思います。
最後に、「NOキャンセリング」について解説をお願いします。
高橋:周囲の騒音が気にならないように、ノイズキャンセリング機能がついたイヤホンを使って音楽を聴く人が増えていますね。ざっくり言うと消したい音の波と真逆の波をぶつけて音を打ち消す仕組みです。
それと同じように、相手が断ってきそうなことを先回りでぶつけてNOを打ち消すのが「NOキャンセリング」です。
例えば、営業の方がお客さまに対して商品の感触を尋ねたとします。お客さまが「いや、今検討中で……」と濁してきそうなときには、「まだ迷われていると思うので、暫定で構いません」と前置きするのです。「ファイナルアンサーではないのか」と思えば少し安心してもらえるじゃないですか。
最初はちょっと慣れが必要ですが、自分が普段言われている断り文句を最初に思い浮かべると良いと思います。相手にいつも「忙しいから」と断られる人は、「お忙しいことは承知の上なのですが」と先回りして言ってしまうのです。
倉重:自分が断られた言葉から逆算して考えればいいわけですね。お願いの仕方にもポイントがあるのですよね?
高橋:日本人の国民性かもしれないのですけれども、はっきり言うのが怖くて、ふわっとした言葉で濁すことが多いと思うのです。でも、「いつ、このようなことをしてほしい」と具体的に言ったほうがいいです。
倉重:「前向きにご検討お願いします」では駄目なわけですね。
高橋:そうですね。はっきり言うのが怖いという心理の裏には、「断られるのが怖い」という気持ちがあると思います。そういうときは、枕詞を決めて相手に動いてもらう理由をつくります。
例えば、忙しい上司からアイデアやフィードバックが欲しいという場合は「お忙しいのは承知の上なのですが」と前置きしてから、「この間、部長が『どうしても月末に役員に対してこういうものを出さなくてはいけない』とおっしゃっていたので早めの段階で作成してみました。できましたら今週中に30分ミーティングの時間を頂けませんか」と具体的な内容でお願いすれば、相手は「30分とればいいんだね」とわかります。
倉重:お客さまに早く契約してほしいときは何と言うのですか?
高橋:例えば、「今月中にお返事を頂きたい」と言うとかたまりがちょっと大き過ぎる場合があるのです。
その場合はもうちょっと手前に具体的なものを置きます。例えば政治タイプの方でしたら、「これは既に他の会社でも導入されている安心できる企画なのでご検討いただきたいのです。まずは個人的にどう思うかを2日ぐらい考えていただけますか?」とお願いします。
倉重:「決裁を取ってください」ではなく、あなた自身がどう思うか聞くということですね。
高橋:そうなのですが、「個人的にどう思うか、2日後に教えてください」とお願いをするのは少し唐突ではないですか。
まず枕詞で「せっかくあなたと一緒に打ち合わせを重ねてここまできたので、ぜひ形にしたいんです」と伝えます。その上で「リスクを気にされていることは分かるのですけれども、前に進めたいので2日後お電話したときに感触を教えていただけませんか」とお願いするのです。
倉重:いつまでに何をやるか明示するのですね。
高橋:人間の脳みそは動かないでいるほうが楽だとよく言われるではないですか。
倉重:確かに。すぐ動かない理由を探しますからね。
高橋:そうすると、「やめにしておいたほうが楽だ」というふうになってしまいますよね。
そこを曖昧にせず、相手が受け入れやすいように枕詞と理由をつくってお願いするということですね。
■説得する場面では情報を「コンパクトにまとめる」
倉重:相手を説得する場面では、情報量も大切なのですよね?
高橋:人は何かを依頼するときには、言葉を長くして説得する傾向があるのですが、それだとなかなか伝わりません。10秒から30秒で収まるような言葉で、ポイントは3つ以内に整理してあげたほうが相手は動いてくれやすいのです。
倉重:1分だと長いのですね。
高橋:話している側の1分はそんなに長く感じませんが、聞いている側の1分というのは留守番電話のメッセージの3回分ぐらいですから。
倉重:それは長いですね。お願い事は10~30秒でまとめるのと、言いたいことは3つまでということですね。
高橋:ポイントが多くなってしまうと相手にはノイズとなるので、本の中では「相手が気持ちよく動く理由を先につくろう」をお勧めしています。仕事でメールをするときにも、箇条書きは3つまでに収めるのが効果的です。
■敵対している人に動いてもらうには?
倉重:本には実践編としていろいろ具体例が載っているので、幾つかピックアップしてお伝えできればと思います。個人的に気になるところは、「敵対心がある人を動かす」というところです。仕事で微妙な関係の人に、何かをやってもらわないといけない場合はどうすればいいのでしょうか。
高橋:例えば人事部などで会社全体を見ている人と現場の部署で対立構造があったとします。人事の人が現場の人に何かお願いしないといけないときは、「いつもありがとうございます」と言う枕詞が効果的です。
まず感謝することで、心を柔らかくしてもらうのです。
相手が論理タイプの場合は、メリットや一貫性というツボもあります。材料があれば「先日現場からこういう声が上がってきたので、人事部でうまく対応できないかと思って、こういうことを考えました」というと一貫性のアプローチができます。「この書類を書いていただくのにかかる時間は5分ですが、企画ができると皆さんの仕事が楽になります」というメリットのつくり方もあります。
相手が感情タイプだったら、相談モードで「ちょっと力を貸していただきたい」という枕詞をつけます。仮に敵対している部署だとしても「力を貸してください」と言われたら「まあいいか」という感じになるのです。
あるいは「正直、面倒くさいなと思いますよね。それはこちらも分かっています。でも、会社の人間として絶対にやらなくてはいけないことだから言っているんです」と本音をぶつけるアプローチがあると思います。
倉重:感情タイプには本音や一体感ですね。
高橋:一体感を強調する場合は、「今会社はこういうことで困っています。人事と現場で対立するのではなく、一緒にやっていきたいのです」と言うとか。
相手が政治タイプでリアクションが薄い現場だったら「実は世の中の70%の企業がこういうものに対応しているんです」「社長からこういうものをやってくれと言われているんです」という言い方もあります。
倉重:社内的な権威を持ち出すのですね。
高橋:政治タイプであれば、「社長が言われることならやろうか」と思います。NOキャンセリングの枕詞で、「今何か緊急のことがなければ、これをお願いできませんか」と一言釘を刺しておくというのもあります。
倉重:枕詞をつけることによってまずは聞くモードに入ってもらうということですよね。
■部下に動いてもらうには?
倉重:世の中、「ハラスメントにならないように部下に接するにはどうしたらいいか」と悩まれている方もたくさんいます。部下にミスなく動いてもらうにはどうすればいいのでしょうか?
高橋:部下の方に対しては、太陽メッセージの枕詞で褒めます。その上で、論理タイプの部下であれば「今回、この点にだけに気を付けてもらったらあなたの仕事はもっとうまくいくようになるし、社内の評価も上がるよ」というメリットを提示します。
感情タイプの場合であれば、「いったん上司という立場を離れると、○○さんに対して僕はこういうことを思っている」ということを素直に言ってあげるのです。
倉重:一個人として本音でいくのですね。
高橋:一体感でいくのだったら「これは2人で一緒に考えたいんだよね」という感じで解決策を考えます。政治タイプの部下であれば、「実は社内のみんながこういうことをしている」と言うと、少数派にはなりたくないから「自分も」となります。
権威ということだと、「ビジネス書を書いている○○さんも言っていたけど」という感じで有名人の名前を出してもいいですね。
倉重:仕事のみならず、家庭や友達付き合いなど、いろいろな場面で使える話ですね。
人や状況によってもタイプが違いますので、普段からきちんと相手を見ておくということでした。話し方の仕組みで人生が変わると本にも書いてありますが、高橋さん自身もそういう経験があるということですよね。
高橋:僕は昔、話すこと自体がすごく怖かったのです。今も普段は本当におとなしいのですが、ある程度年齢を重ねると、人と交わる場面がありますよね。そうなったとき、話し方に自信があればいろいろな可能性が広がっていくと思うのです。
倉重:人前で話すのが苦手な人に向けてアドバイスをお願いします。
高橋:悩んでいた時期が長ければ長いほど、逆にできた時の喜びも大きくなると思います。
この本にも書きましたが、コツがつかめたら意外とできるようになります。話し方というのはコミュニケーションが得意なキャラの武器だと思われがちなのですが、実は誰でも身に付けられるのです。
倉重:自分なりの武器を身につけて、ちょっとした成功体験を積み重ねていけば、「ああ、意外といけるな」という感覚が少しずつ出てくるということですね。
何歳になってもやろうと思えばできることですから、多くの人が希望の持てる話です。最後に高橋さんの夢を聞いて私からの質問を終わりにしたいと思います。
高橋:何かができるようになることが、人間として一番大きな喜びだなと思っているので、それをなるべく増やしていきたいです。話す力も一つの「生きる力」ですよね。
生きる力が上がるお手伝いをすると、誰かの人生や会社の歴史も変わっていきます。そのような瞬間をたくさんつくっていきたいなと思っています。
夢ということだと、僕は2月にプライベートで本屋さんを始めました。
倉重:「人生のヒントが見つかる かぴばら書店」ですね。あれは自分のセレクトした本を販売されているのですか?
【参考:かぴぱら書店】
https://reserva.be/capybarabooks
高橋:僕がセレクトした本も置いていますが、知人が送ってくれたりもするので、いろいろな目線でそろえています。
僕は「対話のある本屋」を開きたいと思っていたのです。本を買うだけならAmazonでも買えますが、本をネタに人と話したり、自分では選ばない本に出合えたりするのは本屋の魅力です。
人と話していて、「この人のお勧めだったらいいな。読んでみようかな」ということがあると思います。コンセプトは「人生のヒントが見つかる かぴばら書店」です。九段下にあります。
倉重:どうして本屋さんを開こうと思ったのですか?
高橋:皆さんコロナで好きなお店がなくなる体験を結構していますよね。
僕もコロナで大好きなお店がいくつも閉じてしまいました。ある時、僕のすごく大好きなお菓子やお弁当を売っているお店の人から「もうすぐ畳むかもしれません」と言われて。前々から思っていたのですが、そのお店はちょっと過剰にサービスし過ぎなのです。
でも、自分にそれを言う資格があるのかなと思いました。店舗経営の経験もないのに、自分の人生を懸けてお店をやっていらっしゃる方に、「もっとこうしたほうがいいですよ」とか軽はずみに言ってはいけないと思ったのです。
僕は感情タイプなので、「それなら自分もサバイバルしてみよう」と思って物件を借りました。
やってみて思ったのは、お店の収益を成り立たせるのはすごく大変だということです。お店をやっていくのも一つの生きる力ではないですか。
もしここで「お店の生きる力」について話せるようになったら、もっと多くの方の役に立てるかもしれません。
倉重:当面の目標は、かぴばら書店の成功ですね。
■リスナーからの質問
倉重:観覧の方からご質問のほうはありますか。
A:貴重な機会をありがとうございます。今回のノウハウは、プライベートにも落とし込まれているところが新鮮だと思いました。ビジネスとプライベートで、使うときに差がありますか?
高橋:プライベートではそこまで失敗してはいけないという重みやプレッシャーはありませんが、仕事は結構大事な局面があります。
仕事のときはそれなりに準備をしたほうがいいと思います。
大企業が相手だったら政治タイプの人が多いだろうと予想していたほうがいいですし、逆に中小企業の社長だったら、いきなり本音を突き付けられたときにどうするかという対策は立てておいたほうがいいですね。
家族でも意外と人間関係で悩む人は多いです。夫婦関係や親子関係でも、何か相手に聞いてもらいたいことがあると思います。僕の実家でもそうなのですが、親に理屈で言っても全然通じません。それよりはさっさとどこかの企業の名前を出してしまったほうが話を聞いてくれます。家族の場合は、どちらかというと無駄なストレスをなくすために使うというイメージに近いでしょうね。
A:最初『無敗営業』を読んだのですが、あれを読んでしまえばもう何も他に要らないのではないかというぐらい完璧なマニュアルです。高橋さん2号をいかに量産化できるかが、組織においては勝つパターンだと思います。実際にその難しさはどれくらいでしょうか?
高橋:会社で『無敗営業』の本に書いたようなことを教えても、いきなり完璧に実践できるわけではありません。30歳以上50歳未満ぐらいの人たち、要は社会人経験が一定ある人たちであれば、大体3カ月から半年ほどで自然な範囲ではできるようになるかなという印象ですね。
A:未経験の場合はどうですか。
高橋:未経験の場合は本の内容を網羅的にやるというより、ある1個のエッセンスを徹底的にやってもらう感じです。具体的には、若手の場合は「要件整理」をトレーニングします。あとは10分の電話商談です。要件整理のやり方と10分電話商談だけを教えるとかなり戦闘力が上がります。
A:お客さまが抱えている課題に対して、ピンポイントに解決する提案ができるようになるということですね。未経験で伸びるのはどんなタイプですか?
高橋:初期に立ち上がりが早い人と、後からすごく伸びる人というタイプがいます。初期に立ち上がる人は失敗を恐れない人です。体を使って現場で覚えるような人は入り口段階で上がりやすいですよね。だけれども、どこかでやはり天井が来ます。
逆に結構考えるタイプの人は、最初上がりにくいのです。失敗を怖がるし、行動を変えたがらないからです。その代わり、ある程度できるようになってくると再現性がぐっと上がってきますので、後から伸びてくることはあるなと思います。
倉重:今回は口下手の人でも「しくみ」を使えば相手が動いてくれるというお話でしたので、ぜひ読者の方に役立てていただきたいと思います。
(おわり)
対談協力:高橋 浩一(たかはし こういち)
TORiX株式会社 代表取締役
東京大学経済学部卒業。外資系戦略コンサルティング会社を経て25歳で起業、企業研修のアルー株式会社に創業参画(取締役副社長)。事業と組織を統括する立場として、創業から6年で70名までの成長を牽引。同社の上場に向けた事業基盤と組織体制を作る。
2011年にTORiX株式会社を設立し、代表取締役に就任。これまで3万人以上の営業強化支援に携わる。
コンペ8年間無敗の経験を基に、2019年『無敗営業「3つの質問」と「4つの力」』、2020年に続編となる『無敗営業 チーム戦略』(ともに日経BP)を出版 、シリーズ累7万部突破。
2021年『なぜか声がかかる人の習慣』(日本経済新聞出版)、『気持ちよく人を動かす ~共感とロジックで合意を生み出すコミュニケーションの技術~』(クロスメディア・パブリッシング)、2022年『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか? 無敗営業マンの「瞬間」問題解決法』(KADOKAWA)、2023年2月『「口ベタ」でもなぜか伝わる 東大の話し方』(ダイヤモンド社)を出版。
年間200回以上の講演や研修に登壇する傍ら、「無敗営業オンラインサロン」を主宰し、運営している。