アマゾンに逆風、狭まる規制当局の包囲網
カナダの独禁当局は先ごろ、米アマゾン・ドット・コムに対する反トラスト法調査を始めたと明らかにした。
マーケットプレイス慣行を調査
アマゾンは自ら商品を仕入れて販売する直営のEC(電子商取引)事業のほかに、出品者の商品を自社サイトで販売する「マーケットプレイス」事業を展開しているが、カナダ競争局は今回、後者を主な調査対象にするという。
カナダにおける市場支配の乱用行為の有無を調査するほか、既存の競合を排除したり、新規の競合の参入を阻止したりしていないかを調べるとしている。
アマゾンのマーケットプレイス運営方針が過去や現在において、出品者商品の価格に影響を及ぼしたかどうかも調査する。とりわけ、出品者が他のマーケットプレイスと同じようにアマゾンでも低価格で商品を販売することが可能になっているかについて確認するという。
また、アマゾンには出品者に代わって商品の保管と配送などの業務を行う「フルフィルメント・バイ・アマゾン」と呼ぶサービスがあるが、同サービスを利用しない業者もマーケットプレイスで十分に商売が成り立っているかどうかを確認するという。
カナダ競争局は「現時点で不正行為があったという結論は出ていない」と述べたものの、今後、出品者などに関連情報の提供を求めていくとしている。
カナダのオンラインショッピング支出額は2018年に574億カナダドル(約4兆5600億円)に達し、2012年時点から3倍以上に拡大した。現在はインターネット人口の約84%がオンラインで物品やサービスを購入しており、アマゾンの影響力を調べて、もし公正な取引が行われていなければ、断固とした措置を講じる構えだ。
米ウォール・ストリート・ジャーナルによると、カナダ競争局は2017年に、アマゾンが特定の商品の値引き販売について根拠のない主張をしたとして、100万カナダドル(約8000万円)の制裁金を科した経緯がある。
欧米の規制当局も監視強化
アマゾンのマーケットプレイス慣行を巡っては、米国や欧州でも規制当局などが監視を強めており、調査が始まっていると報じられている。例えば米ブルームバーグは昨年7月、欧州連合(EU)の欧州委員会で競争政策を担当するマルグレーテ・ベステアー委員(現執行副委員長)がアマゾンに対する調査を始めたと伝えた。
ウォール・ストリート・ジャーナルなどは今年6月、欧州委が近く、EU競争法(独禁法)違反の疑いがあるとして、「異議告知書」をアマゾンに送付すると報じた。
欧州委はアマゾンのマーケットプレイス運営者と小売業者としての二重の役割を調べている。アマゾンが出品者の販売データを不正に利用した疑いがあり、年間売上高の10%もしくは最大280億ドル(約2兆9300億円)の制裁金を科す可能性があると同紙は伝えている。
同じく6月には、米ワシントン州と米カリフォルニア州の司法長官が調査を始めたと、米ニューヨーク・タイムズなどが報じている。
ワシントン州では、ECサイトにおける出店者商品の表示方法を調査しており、アマゾンが自社商品を有利に掲載していないかどうかを確認している。一方、カリフォルニア州ではアマゾンのプライベートブランド(PB)商品を調査している。同社が出店者の販売データを不正に入手し、自社商品開発に利用していないかどうかを調べているという。
アマゾンのPB商品については、米連邦議会の下院司法委員会も反トラスト法違反の疑いで調査していると伝えられている。同委員会はアマゾンが出店者の販売データを収集し、PBの開発に役立てていると指摘している。
ただ、これについて、アマゾンはすべての業者とアマゾンの販売データを合わせた「総合的な販売データ」を利用するにとどめていると主張。社内では個々の業者のデータを製品展開や価格設定、調達、在庫管理などの意思決定に利用することを禁じていると説明している。
下院司法委員会は、今年7月29日に米テクノロジー大手4社のCEO(最高経営責任者)出席の公聴会を開催した。アマゾンのジェフ・ベゾスCEOに対しては、出品者の扱いなどについて質問した。同氏を含む4人はいずれも反競争的行為への関与を否定している(ウォール・ストリート・ジャーナル)。
大規模な反トラスト法訴訟に発展か
一方、ブルームバーグは8月3日、米ニューヨーク州と米カリフォリニア州の司法長官が米連邦取引委員会(FTC)と協力し、アマゾンのマーケットプレイスを調査すると報じた。こちらは3者合同の電話会議を開くなどして、関係者から事情を聴いている。州当局と連邦当局による合同調査は、大規模な反トラスト法訴訟に発展する可能性があるとブルームバーグは指摘している。
- (このコラムは「JBpress」2020年8月18日号に掲載された記事をもとにその後の最新情報を加えて再編集したものです)