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ウクライナになぜ国連平和維持軍が派遣されないのか? 基本を調べてみると

小林恭子ジャーナリスト
ロシア軍の攻撃を受けた、キエフにあるテレビ塔(右)、3月1日(写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナ各地でロシア軍による攻撃が続く中、現地に軍隊を派遣してウクライナ側を助けようとする国が出てこない。

 筆者が住む英国はウクライナ側に武器を提供してきたが、自国の軍隊派遣は想定外だ。米国もほかの欧州各国も、直接の派遣は避ける方針だ。

 ロシアとウクライナの間では何らかの妥協策を見つけるべく話し合いが続いているものの、1週間前に始まった侵攻は止まっていない。

 「軍隊を現地に投入しない」という方針の理由を見てみよう。

 CNNの報道によると(3月2日付け報道、一部抜粋)

 米国のトーマスグリーンフィールド国連大使は2月27日、CNNに対し、バイデン政権はウクライナに米軍を投入しない方針を明確にしてきたと説明。「米国人兵士を危険にさらすつもりはない」と述べた。米国はあらゆる機会にロシアの行動を非難しているものの、バイデン大統領は米軍がウクライナ入りしてロシアと直接交戦することはないと努めて強調してきた。

 (中略)

 なぜか。バイデン氏が今月NBCに説明したように、「米国とロシアが撃ち合いを始めれば、それは世界大戦になる」からだ。言い換えれば、米国がこの紛争に介入すればグローバルな戦争を引き起こす可能性がある。

 CNNの国家安全保障・軍事アナリスト、マーク・ハートリング退役中将は27日、「外交で重要なのは戦争の可能性を制限することだ。ロシアによる現在の違法なウクライナ侵攻は悲惨で混乱した破滅的なものだが、現時点では地域紛争にとどまる」との見方を示した。

「もしNATOや米国がウクライナに派兵してロシアとの戦闘を支援した場合、米ロ両国は核保有国であることから、グローバルな影響を及ぼしうる多国間紛争に力学が移行することになる。このため米国やNATO、世界の他の国々は、別のタイプの支援によりウクライナの成功とロシアの敗北に関与しようと試みている」(ハートリング氏)

 それでは、国連はどうなのだろう。平和維持軍を派遣できないのだろうか。

国連平和維持軍とは

国連広報センターのウェブサイトには、平和維持軍についての資料が掲載されている。

「国連平和維持活動、新たな挑戦に向かって--よく寄せられる質問(FAQ)」のPDFから少し拾ってみると(質問部分を一部短縮)。

Q:平和維持とは?

A:紛争被災国が持続可能な平和に向けた条件を整える手助けをする活動です。

 国連平和維持部隊は、多くの国々から派遣された兵士、軍人、警察官、文民職員から構成されています。これらの人々は、紛争終結後の和平プロセスを監視しながら、紛争当事者が署名した和平合意の実施を支援します。このような支援は、人間の安全保障促進、信頼醸成措置、権力分担取り決め、選挙支援、法の支配強化、経済および社会開発など、様々な形で実施されます。

 国連憲章により、安全保障理事会には、国際の平和と安全を維持するため、集団的行動をとる権限と責任が与えられています。このため、国際社会は安保理に平和維持活動の承認を求めるのが通例となっています。平和維持活動のほとんどは、国連が自ら設置、実施するので、兵員は国連の作戦指揮下に置かれます。その他、国連の直接的関与が適切又は実行可能と見られない場合には、安保理が欧州連合(EU)、アフリカ連合(AU)、北大西洋条約機構(NATO)、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)、さらには「有志国連合(coalitions of willing countries)」など、地域機関やその他の国際組織に対し、一定の平和維持あるいは平和執行機能の遂行を認めることがあります。

 誰がどうやって派遣を決める?

Q:派遣を決定するのは誰か

A:平和維持ミッションの創設と定義を行うのは通常、国連安全保障理事会です。これは、ミッションを与えるという形で行われます。新たなミッションを設立したり、展開中のミッションの任務や人員を変更したりする場合には、安保理理事国15カ国のうち9カ国の賛成が必要です。

 しかし、中国、フランス、ロシア連邦、英国、米国の常任理事国5カ国のうち、いずれかが反対票を投じた場合、このような提案は否決されます。

 国連事務総長はどう言っている?

 2月22日、ロシアによる対ウクライナの侵攻が始まる前、アントニオ・グテーレス国連事務総長がロシアとウクライナの緊張関係に言及している

 事務総長は、ロシアの侵攻は「一方的な措置で国連憲章に反している」と強い口調で述べた(日本語のテレビ映像、2月23日)。

 この時の演説では、演説後に報道記者との質疑応答があった。

 この中で、記者が「ウクライナの政府関係者が国連平和維持軍の派遣の可能性があると言っていたが、これについてどう思うか」と聞いた。

 事務総長は、ウクライナが東部の分離独立派が実効支配する(東部ドンバス地域の)ドネツク州やルガンスク州*に国連維持軍を派遣してほしいと言ったときもある、と述べた。「当時は(注:事務総長はいつだったかを明確にしなかった)ロシアが平和維持ミッションの考えに合意したが、欧州安全保障協力機構(OCSE)監視団**の保護という限定的なものだった」。最終的に、安保理の中で平和維持軍派遣について合意がまとまらなかったという。

*ロシアのプーチン大統領は、2月21日、ウクライナ東部でロシアへの編入を求める分離独立派が実効支配する「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」を国家として承認する大統領令に署名している。(参考:JETROビジネス通信

**OCSEの「ウクライナ特別監視団」は、ウクライナ軍とロシアが支援する反政府勢力との間で紛争が勃発した2014年から、ウクライナ東部の情勢を監視していた。

 ・・・とすると、常任理事国の一つで、今回の紛争の当事者であるロシアの存在が派遣ミッション成立のネックになっている可能性がある。

 しかし、もし派遣が実施されても、どれほどのことを達成できるのか。

 ウェブサイト「オープンデモクラシー」の記事(2月2日付)はロシアによる侵攻開始前に書かれたもので、「中立的な存在」として、国連平和維持軍のウクライナへの派遣を提唱した。

 派遣が実現できない理由として、常任理事国ロシアが賛成しないだろうという見方を挙げているが、もし前線に派遣された場合、紛争を「凍結」することはできても、解決につながるとは限らないと指摘している。

 また、常に紛争を再開させる方向へのプレッシャーも働く。

 紛争凍結は戦争が続くよりはよいかもしれないが、平和維持軍が出ていくのであれば、「凍結するのではなく、解決を助ける」道を探す方がよい、という。

大きな戦争の記憶

 ウクライナがロシアに爆弾を落とされる様子を連日、英国のメディアが報道している。「何とか、爆弾を止めたい」。テレビ画面を見つめる誰もが思う。

 ロシアの侵攻を非難し、次々と制裁を強化し、スポーツ競技からロシア人選手を締め出しても、武力攻撃が止まらない今、「武力には武力で」、とにもかくにも止めるしかないのだろうか。

 メディア報道ではなかなか表に出てこないが、第2次世界大戦の記憶がまだ強く残る英国には、こんな声もある。筆者の近所にいる高齢者の男性がポツリと漏らした。「第3次世界大戦が起きたら、大変だ・・・」。男性の父親は第2次大戦で戦死した。

 戦争は怖い。ウクライナからポーランドやほかの東欧の国に逃げてくる人々の姿は悲しみを誘う。何とか助けてあげたい。だから、物資を寄付したり、募金したりする。でも、いざ英軍を派遣したら、それにロシアが対抗して大きな戦争になっていったら、一体どうなるのか。先の戦争のように、多くの人が亡くなるのではないかと心配しているという。

 ウクライナを助けたい。でも、英軍を派遣したらどうなるのか、と怖さに立ちすくむ市民がいるのも、現実なのだ。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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